がん抑制遺伝子一覧と主な機能および関連疾患

がん抑制遺伝子の一覧

主要ながん抑制遺伝子の概要
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細胞周期制御型

RB、p53、p16などは細胞周期の進行を調節し、異常な細胞分裂を抑制します

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DNA修復型

BRCA1/2、MLH1、MSH2などは損傷したDNAを修復し、遺伝子の安定性を維持します

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シグナル伝達制御型

PTEN、NF1、APCなどは細胞増殖シグナルの異常な活性化を抑えます

がん抑制遺伝子p53の一覧情報と役割

p53遺伝子は全がんの約50%で機能異常が見られる最も重要ながん抑制遺伝子で、「ゲノムの守護神」と呼ばれています。p53タンパク質は393個のアミノ酸から構成され、DNA損傷を検知すると細胞周期を停止させ、修復の時間を確保します。修復が不可能な場合は細胞死(アポトーシス)を誘導し、異常な細胞が増殖するのを防ぐ重要な機能を持ちます。

参考)P53遺伝子


p53遺伝子は染色体上でDNAを大きく歪めることで、がん抑制遺伝子群のスイッチをオンにし、細胞分裂の停止・DNA修復・プログラム細胞死を誘導します。この遺伝子の変異は多くのがん種で観察され、Li-Fraumeni症候群や大腸がんとの関連が特に有名です。p53の異常が原因となる発がんメカニズムの解明は、新たな抗がん剤開発の重要な足掛かりとなっています。

参考)がん抑制遺伝子 – Wikipedia

がん抑制遺伝子RBとAPCの一覧と特徴

RB遺伝子は網膜芽細胞腫の原因遺伝子として初めて発見されたがん抑制遺伝子で、染色体13q14.1-2に位置しています。RBタンパク質(pRb)は928アミノ酸残基からなり、リン酸化によって機能が制御され、細胞周期がS期へ移行するのを抑制する働きがあります。網膜芽細胞腫以外にも肺の小細胞がんや骨肉腫など多くのがんで異常が報告されています。

参考)がん遺伝子治療


APC遺伝子は大腸がんの発症に関わる重要ながん抑制遺伝子で、家族性大腸腺腫症の原因遺伝子として知られています。APCはβ-カテニンと結合することで細胞増殖シグナルを制御し、正常な細胞分裂を停止させるブレーキのような働きをしています。多段階発がんの概念において、APC遺伝子の異常は大腸がん発症の初期段階で生じることが多く、複数の遺伝子異常が重なることで段階的にがん細胞化が進行します。

参考)APC

がん抑制遺伝子BRCA1とBRCA2の一覧における位置づけ

BRCA1およびBRCA2遺伝子は、DNA損傷を修復するタンパク質を生成するがん抑制遺伝子です。これらの遺伝子が産生するタンパク質は傷ついたDNAの相同組換え修復を行い、細胞の遺伝物質の安定性を確保する役割を持っています。BRCA1/2に変異が生じると、DNA損傷が適切に修復されず、細胞がさらなる遺伝子変異を起こしやすくなり、がんを引き起こす可能性が高まります。

参考)がん抑制遺伝子(Tumor Suppressor Gene)…


BRCA1遺伝子の病的バリアント保持者は、女性乳がんで16.1倍、卵巣がんで75.6倍、膵がんで12.6倍のリスク上昇が報告されています。BRCA2遺伝子では男性乳がん、卵巣がん、膵がん、前立腺がんで1%以上の患者が病的バリアントを保持しており、遺伝的にBRCA1/2に変異のある人は、ない人と比較して若い年代で乳がんおよび卵巣がんを発症する傾向にあります。

参考)BRCA1、BRCA2遺伝子:がんリスクと遺伝子検査

  • BRCA1遺伝子:卵巣がん(75.6倍)、胆道がん(17.4倍)、女性乳がん(16.1倍)のリスク上昇 📊
  • BRCA2遺伝子:男性乳がん、卵巣がん、膵がん、前立腺がん、胆道がんで高リスク 📊
  • 相同組換え修復機能:DNA二本鎖切断を修復し、ゲノムの安定性を維持 🔧

がん抑制遺伝子PTENとSMAD4の一覧情報

PTEN遺伝子はホスファターゼとして機能し、細胞増殖に関与するがん原遺伝子「AKT」の働きを制御する重要ながん抑制遺伝子です。PTENが異変や欠損している細胞ではAKTがアポトーシスを抑制するため、がんの増殖が加速してしまいます。PTENの異常はCowden病や神経膠芽腫との関連が知られており、様々ながん細胞において変異や欠失が観察されています。​
SMAD4遺伝子は免疫細胞や幹細胞の調節や分化に関与するトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)のシグナルを伝える転写因子として機能します。SMAD4は若年性ポリポーシスや膵がんとの関連が報告されており、様々ながん細胞において変異や欠失がみられることから、細胞の増殖を抑制する重要な役割を担っています。これら4つのがん抑制遺伝子(p53、p16、PTEN、SMAD4)の働きにより、がん細胞の増殖が抑制され、細胞を正常な働きへと導くことができます。​

がん抑制遺伝子の不活化メカニズムと臨床応用

がん抑制遺伝子が不活化される原因には、遺伝的変異と環境要因の2つが主に関わっています。遺伝的要因では、生まれつき持っている遺伝子の変異(生殖細胞系列変異)が親から子へと受け継がれる可能性があり、これが遺伝性がんのリスク要因となります。一方、体細胞変異は生涯を通じて獲得される変異で、タバコの煙や化学物質、放射線、ウイルス感染などの外的要因が遺伝子に変異を引き起こします。

参考)がん抑制遺伝子の不活化と多発性腫瘍リスクの関係 – がんを知…


興味深いことに、がん抑制遺伝子が不活性化しても、すぐにはがん化が起こらないようにバランスをとる生体防御メカニズムが存在します。例えば、RB遺伝子が欠損した場合、N-Rasの活性亢進が細胞老化というがん化に拮抗する働きを促進することが明らかになっています。また、EZH1とEZH2という2つの酵素が相互に機能を補償することで、がん細胞のエピゲノムが保たれる恒常性が維持されることも発見されています。

参考)がん抑制遺伝子が不活性化される新たなメカニズムの発見—成人T…


がん遺伝子検査では、遺伝子変異に合った分子標的薬を選択することが可能になり、ミスマッチ修復遺伝子に異常をもつがんには免疫チェックポイント阻害薬がよく効く可能性があります。遺伝子変異が多いがん(100万塩基対あたり10遺伝子以上)では、がん細胞だけがもつネオ抗原がたくさん発現しているため、免疫の力が発揮されやすくなります。​

遺伝子名 主な機能 関連する疾患
p53 転写因子、アポトーシス誘導 Li-Fraumeni症候群、多数のがん種
RB 細胞周期調節 網膜芽細胞腫、小細胞肺がん
BRCA1/2 相同組換え修復 家族性乳がん、卵巣がん
APC β-カテニン結合 家族性大腸腺腫症、大腸がん
PTEN ホスファターゼ活性 Cowden病、神経膠芽腫
p16 サイクリン依存性キナーゼ阻害 悪性黒色腫、多数のがん種
VHL 転写伸長調節 フォン・ヒッペル・リンドウ病、腎がん
WT1 転写因子 ウィルムス腫瘍
NF1/NF2 GTPアーゼ活性化/細胞骨格結合 神経線維腫症1型/2型
MSH2/MLH1 ミスマッチ修復 遺伝性非腺腫性大腸がん

ヒトがん遺伝子&がん抑制遺伝子の包括的なリストが参考になります(Cell Signaling Technology社)

参考)https://www.cellsignal.jp/learn-and-support/reference-tables/human-oncogenes-tumor-suppressor-genes


がん抑制遺伝子の詳細な一覧と機能説明(Wikipedia日本語版)
遺伝性腫瘍に関する信頼性の高い情報(国立がん研究センターがん情報サービス)

参考)遺伝性腫瘍:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の…