オキサロ酢酸とアスパラギン酸の代謝

オキサロ酢酸とアスパラギン酸の代謝

この記事でわかること
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相互変換のしくみ

アスパラギン酸とオキサロ酢酸はアミノ基転移反応により可逆的に変換されます

エネルギー代謝での役割

クエン酸回路の中間体として、エネルギー産生に必須の機能を担っています

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解毒と生合成

尿素回路でのアンモニア処理やアミノ酸合成に深く関与しています

オキサロ酢酸とアスパラギン酸のアミノ基転移反応

オキサロ酢酸とアスパラギン酸は、アミノ基転移反応によって相互に変換される密接な関係にあります。この反応を触媒する酵素は「アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)」で、グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)とも呼ばれています。

参考)アスパラギン酸アミノ基転移酵素 – Wikipedia


具体的には、L-アスパラギン酸とα-ケトグルタル酸からグルタミン酸とオキサロ酢酸が生成されます。この反応は可逆的であり、アスパラギン酸はアミノ基を渡してオキサロ酢酸に変換され、α-ケトグルタル酸はアミノ基を受け取ってグルタミン酸になります。

参考)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ (AST/GOT) …


ASTには主にミトコンドリア内で働くm-ASTと細胞質基質で働くs-ASTの2種類が存在し、肝細胞、赤血球、心筋、骨格筋などに広く分布しています。細胞が破壊されると血液中にASTが流出するため、血中濃度の測定により肝障害などの程度を知ることができます。​

オキサロ酢酸のクエン酸回路における機能

オキサロ酢酸は、クエン酸回路(TCA回路)において極めて重要な中間体として機能します。クエン酸回路は、アセチル-CoAとオキサロ酢酸が融合してクエン酸を生成することから始まります。この反応はクエン酸シンターゼによって触媒され、エネルギー代謝の中心的な役割を果たしています。

参考)オキサロ酢酸


オキサロ酢酸の生成経路は複数存在します。主な経路として、クエン酸回路においてリンゴ酸デヒドロゲナーゼによってL-リンゴ酸が酸化されてオキサロ酢酸が生成されます。また、ピルビン酸カルボキシラーゼの作用により、ピルビン酸+CO₂+ATPからオキサロ酢酸が合成される経路も重要です。

参考)https://yakugakulab.info/%E3%82%AA%E3%82%AD%E3%82%B5%E3%83%AD%E9%85%A2%E9%85%B8%EF%BC%88oxaloacetate-oaa%EF%BC%89/


植物細胞のミトコンドリア内膜および色素体内包膜には、非常に高親和性(Kmが10μM程度)のオキサロ酢酸輸送体が存在します。そのため、オキサロ酢酸は細胞質との間で自由に出入りでき、濃度が高くなるとミトコンドリアに入り、NAD-リンゴ酸デヒドロゲナーゼの基質となることで還元力を消費し、呼吸系による酸素消費を抑制する働きがあります。

参考)オキサロ酢酸 – 光合成事典

アスパラギン酸の尿素回路での役割

アスパラギン酸は尿素回路において不可欠な窒素供与体として機能します。尿素回路は有毒なアンモニアを無毒な尿素へと変換する代謝回路で、肝細胞のミトコンドリアと細胞質に存在しています。

参考)【解決】尿素回路の反応と酵素について


尿素回路の反応においては、シトルリンとアスパラギン酸がアルギニノコハク酸シンテターゼによって縮合し、アルギニノコハク酸が生成されます。この反応では1分子のATPが消費されます。生じたアルギニノコハク酸は、アルギニノコハク酸リアーゼによってアルギニンフマル酸に変換されます。

参考)尿素回路 – Wikipedia


興味深いことに、この過程で生成されるフマル酸は細胞質に存在するため、直接クエン酸回路に入ることができません。そのため、細胞質のフマラーゼによってリンゴ酸に変換され、「リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル」によってミトコンドリア内に取り込まれます。その後、リンゴ酸デヒドロゲナーゼによってオキサロ酢酸へと変換され、再びアスパラギン酸へと変換されるサイクルが形成されています。​

アスパラギン酸の疲労回復効果とエネルギー代謝

アスパラギン酸は、クエン酸回路に働きかけて疲労のもととなる乳酸の分解を促進する効果を持っています。クエン酸回路は炭水化物(糖質)の代謝の要であり、エネルギーをつくり出す重要な機能を担っています。

参考)アスパラギン酸


激しい運動時には筋肉内に蓄積されているグルコース(糖)を使って新しいエネルギーを生み出しますが、この過程で生じる「乳酸」を効率的に再利用するのがクエン酸回路の役割です。アスパラギン酸はクエン酸回路の一部として機能し、乳酸をエネルギー源として再活用することに貢献します。

参考)https://www.rakuten.ne.jp/gold/pycno/special/about_aspartic_acid.html


クエン酸回路がうまく回らない場合、乳酸が蓄積し、疲労が溜まります。乳酸は筋肉疲労の原因となり、大量に蓄積されると体の冷えや頭痛などを引き起こしてしまいます。このため、アスパラギン酸の摂取は運動後の疲労回復が促進されると考えられており、エネルギーチャージを目的とした栄養ドリンクにも配合されています。​
また、アスパラギンは酵素によってアスパラギン酸に変換されるため、生体内での作用はアスパラギン酸と共通する部分が多くあります。そのため、アスパラギンもクエン酸回路に基質を供給し、疲労回復などに効果があると考えられています。

参考)Metabolite of the Week|アスパラギン

オキサロ酢酸を起点としたアミノ酸の生合成経路

オキサロ酢酸は、複数のアミノ酸の生合成における重要な前駆体として機能します。オキサロ酢酸は2-オキソ酸(CO-COOH の構造を有する有機酸)の一種であり、アミノ基を受け取るとアスパラギン酸になります。この反応はアミノ基転位反応によって行われます。

参考)アミノ酸の生合成経路を解説:オキサロ酢酸からリシン・メチオニ…


生成されたアスパラギン酸は、さらに多様なアミノ酸の前駆体となります。具体的には、アスパラギン、メチオニン、トレオニン、リシンの前駆体となり、トレオニンはさらにイソロイシンの前駆体となります。この反応経路は、アスパラギン生合成経路と、メチオニン、トレオニン、リシンの生合成経路に分けることができます。​
オキサロ酢酸は糖新生の前駆体としても機能し、グルコース合成に利用されます。ピルビン酸がアセチルCoAやATPの濃度が上昇すると、クエン酸回路へは入らず、ピルビン酸カルボキシラーゼの作用でオキサロ酢酸へと変換されます。この反応は炭素固定反応と呼ばれ、ATPを消費するとともに、補酵素としてビオチンが使用されます。

参考)糖代謝(糖新生)をわかりやすく


オキサロ酢酸はミトコンドリア内膜を通過して細胞質へ移動できないため、リンゴ酸デヒドロゲナーゼとNADHで還元されてリンゴ酸になり、リンゴ酸として内膜を通って細胞質へ移動します。細胞質へ移動したリンゴ酸はNAD⁺で酸化されてオキサロ酢酸に戻され、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPCK)とGTPの作用でリン酸化されてホスホエノールピルビン酸に変換されます。​

オキサロ酢酸とアスパラギン酸の臨床的意義

AST(GOT)の測定は、肝障害をはじめとする臓器障害のマーカーとして臨床的に広く利用されています。ASTは肝臓や心筋、骨格筋などに多く存在しており、細胞膜透過性の変化や細胞死などで血液中に逸脱することから、疾患の診断や病態把握に有用です。​
肝障害のマーカーとしては、ASTの他にアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)もよく用いられます。ALTは特に肝臓に多く存在しているため、肝障害に特異的なマーカーとして利用されています。一方、ASTは心筋や骨格筋などにも存在しているため、ASTは高値であるものの、ALTの上昇がほとんど見られない場合は、心臓や筋肉の障害を反映している可能性があります。​
ASTの血中半減期はALTよりも短く、この差を利用して肝障害などの病態推移を把握することができます。また、ASTとALTは代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)などで引き起こされる肝線維化の指標としても有用です。​
肝線維化の予測スコアとして提唱されているNFS(NAFLD fibrosis score)やFIB-4 Index(Fibrosis-4 Index)では、ASTやALTも測定項目に含まれており、これらの酵素活性の測定が疾患管理において重要な役割を果たしています。​

📊 参考リンク(AST/GOT測定の臨床的意義)

アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ (AST/GOT) 測定キット – 富士フイルム和光純薬

🧬 参考リンク(アミノ酸代謝の詳細)

TCA回路とつながるアミノ酸代謝|グルタミン酸・アスパラギン酸 – 生命科学系エンジニアの学習ノート