ホモシステインとホモシスチンの違い
ホモシステインとホモシスチンの化学的な違い
ホモシステインとホモシスチンは、名前が似ているため混同されやすいですが、化学的には明確に異なる物質です。ホモシステインは、必須アミノ酸であるメチオニンの代謝過程で生成される中間代謝物のアミノ酸で、分子式HS-CH2-CH2-CH(NH2)COOHで表されます。一方、ホモシスチンは、ホモシステインが酸化されて2分子が結合(ジスルフィド結合)したものです。
ホモシステインの側鎖は-C-C-SHという構造を持ち、タンパク質を構成する20種類のアミノ酸の一つであるシステイン(側鎖-C-SH)とも異なります。システインと比較すると、ホモシステインは炭素が一つ多い構造となっています。このチオール基(SH基)を持つ特徴が、ホモシステインの生理活性や病態への関与に重要な役割を果たしています。
参考)システイン、ホモシステイン、ホモシスチン、メチオニンの構造
血液中では、ホモシステインはタンパク質と結合している結合型と、遊離型やホモシスチンなどの形態で存在しており、これらの合計を「総ホモシステイン」として測定します。
参考)血中総ホモシステイン
ホモシステインのメチオニン代謝における役割
ホモシステインは、メチオニン代謝の中心的な中間代謝物として重要な役割を担っています。メチオニンは必須アミノ酸であり、体内で代謝される過程で必ずホモシステインが生成されます。ホモシステインからは主に2つの代謝経路があります。
参考)https://yakushi.pharm.or.jp/FULL_TEXT/127_10/pdf/1579.pdf
第一の経路は「再メチル化経路」で、ホモシステインが再びメチオニンに戻される反応です。この反応にはメチオニンシンターゼ(MS)という酵素が働き、ビタミンB12を補酵素として、5-メチルテトラヒドロ葉酸(Methyl-THF)からメチル基を受け取ります。また、肝臓ではベタインホモシステインメチル転移酵素(BHMT)がベタインを利用してメチオニンを再生します。
第二の経路は「トランススルフレーション経路」で、ホモシステインがシステインへと変換されます。この過程では、シスタチオニンβシンターゼ(CBS)がビタミンB6を補酵素として働き、ホモシステインとセリンからシスタチオニンが生成され、さらにシスタチオニンγ-リアーゼによってシステインとα-ケト酪酸に分解されます。
これらの代謝経路において、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12が不可欠な補酵素として機能するため、これらのビタミンが不足するとホモシステインが蓄積してしまいます。
参考)https://www.kyorin-medicalbridge.jp/doctorsalon/2024/06/7752.html
ホモシステインと動脈硬化・心疾患の関連性
ホモシステインは「悪玉アミノ酸」とも呼ばれ、血中濃度が上昇すると動脈硬化や心血管疾患のリスクが著しく高まることが多くの研究で明らかになっています。1969年にボストンの医師が、先天的に血中ホモシステイン濃度の高いホモシスチン尿症患者において、若年期に動脈硬化や血栓性病変が発症することを発見して以来、ホモシステインと循環器疾患の関連が注目されてきました。
血液中のホモシステイン濃度が高い人は、心臓病などの循環器疾患にかかる危険性が通常の22倍、死亡率は9倍高くなるという研究結果もあります。日本人を対象とした大規模コホート研究であるJACC Studyでは、約4万人を調査した結果、高ホモシステイン血症が脳卒中による死亡リスクを4.4倍、心血管疾患による死亡リスクを3.4倍に増加させることが示されています。
参考)https://www.skal.co.jp/tokai-a-garden/homocystein_sanka.html
ホモシステインが血管障害を引き起こすメカニズムとしては、チオール基(SH基)を持つホモシステインがジスルフィド結合(-S-S-)を形成する過程で活性酸素種が発生し、酸化ストレスとして血管内皮細胞を障害することが有力視されています。さらに、ホモシステインによってコラーゲンの質が低下し血管が弾力を失うこと、血管平滑筋細胞の分裂や増殖が促進されること、血液凝固因子に働きかけて血栓形成を起こしやすい状態を引き起こすことなども報告されています。
ホモシステインチオラクトンという物質がリポタンパク質LDLと反応して変性LDL(ホモシスタミド)を生成し、これが動脈硬化の主原因となるという説も提唱されています。
参考)P2092
ホモシスチン尿症の原因と症状
ホモシスチン尿症は、メチオニンの代謝に必要な酵素に異常がある先天性アミノ酸代謝異常症の一種です。最も頻度が高いI型ホモシスチン尿症は、シスタチオニンβシンターゼ(CBS)の欠損により、ホモシステインからシステインへの変換がうまくできないタイプです。また、ホモシステインからメチオニンに戻る再メチル化の仕組みに異常があるII型やIII型も存在します。
参考)http://jsimd.net/pdf/nakamura/A4.pdf
この疾患では、ホモシステインという物質が血液中に蓄積し、尿中にホモシスチンとして大量に排泄されます。また、メチオニンを代謝しきれないため、血液中のメチオニン濃度も高くなることが知られています。
参考)ホモシスチン尿症/大阪府(おおさかふ)ホームページ [Osa…
ホモシスチン尿症の主な症状としては、以下のようなものが挙げられます。出生時は無症状の場合がほとんどですが、出生後の無治療期間が長くなると重篤な症状が現れます。
これらの症状は、ホモシステインがチオール基を介して生体内の種々のタンパク質と結合し、その過程で生成されるスーパーオキサイドなどにより血管内皮細胞障害をきたすことや、ホモシステインがフィブリリンの機能を障害することが原因と考えられています。
新生児マススクリーニング検査では血液中のメチオニン濃度を測定することでホモシスチン尿症を早期発見していますが、最終的にはホモシスチン尿症以外の疾患(肝障害、高メチオニン血症等)の診断が下りる可能性もあります。
ホモシステイン検査の基準値と測定方法
ホモシステインの血液検査は、ホモシスチン尿症の診断補助や動脈硬化性疾患に対するリスク予測マーカーとして有用です。検査では「総ホモシステイン」として測定され、これにはタンパク質と結合している結合型ホモシステインと、タンパク非結合型ホモシステインの合計が含まれます。
参考)総ホモシステイン|低分子窒素化合物|生化学検査|WEB総合検…
血中総ホモシステインの基準値は、検査機関や測定方法によって若干異なりますが、一般的には以下の範囲とされています。
対象 | 基準値(nmol/mL) | 基準値(μmol/L) |
---|---|---|
男性 | 6.3~18.9 | – |
女性 | 5.1~11.7 | – |
全般(血漿) | – | 3.7~13.5 |
男性(血漿) | – | 4~16 |
女性(血漿) | – | 3~14 |
女性は閉経後に高値傾向を示し、筋肉量、年齢、喫煙、コーヒー、飲酒などの生活習慣によっても検査値が影響を受けます。測定方法としては、HPLC法(高速液体クロマトグラフィー法)が一般的に用いられています。
検査は血漿0.4mLを採取して行われ、保険収載名は「アミノ酸 イ 1種類につき」で279点、生化学的検査(II)の判断料144点が適用されます。所要日数は検査機関によって異なりますが、6~14日程度かかります。
参考)ホモシステイン|臨床検査項目の検索結果|臨床検査案内|株式会…
ホモシステインの血中濃度が著しく高値のホモシスチン尿症患者において動脈硬化、血栓症病変を発症することが報告されて以降、冠動脈疾患や脳血管疾患患者においても健常者と比較して軽度ホモシステイン血症の頻度が高いことが知られるようになりました。文部科学省の大規模コホート研究でも、血清ホモシステイン値が高い人ほど循環器疾患による死亡率が高くなることが確認されています。
ホモシステインを下げる食事とビタミンの役割
ホモシステインの蓄積を防ぐためには、その代謝に必要なビタミンB群、特に葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12を適切に摂取することが重要です。葉酸は水溶性ビタミンで「造血のビタミン」とも呼ばれ、DNA、RNAなどの核酸やタンパク質の合成を促進し、体の発育においても重要な役割を果たします。
日本人の食事摂取基準では、葉酸の1日推奨量は240μgとされていますが、健康寿命の延伸のために1日400μgの目標、または240μgの追加摂取の目標が立てられています。葉酸を多く含む食品としては、以下のようなものがあります。
- 緑色野菜:枝豆、芽キャベツ、菜の花、ブロッコリー、ほうれん草
- 果物:ライチ、いちご
- 動物性食品:レバー、フォアグラ、卵黄
葉酸は水溶性ビタミンで水に溶けやすいため、効率よく摂取するには、ゆでずに炒める調理法を選ぶか、スープなどにしてすべてを摂取することが推奨されます。また、葉酸は光に弱いため、遮光も大切な工夫となります。
ホモシスチン尿症の治療においては、さらに厳格な食事管理が必要です。ホモシスチンはメチオニンというアミノ酸から作られるため、有害なホモシスチンを低下させるために、メチオニンの摂取を制限し、シスチンを高く摂取する食事療法が行われます。乳児期の治療には、メチオニン除去ミルクが使用されますが、メチオニンは成長に欠かせないアミノ酸であるため、最小限の摂取量をコントロールする必要があります。血液中のメチオニン濃度は「1mg/dL」以下になることが目標とされています。
参考)ホモシスチン尿症には食事療法が必要?症状・原因・治療法を知ろ…
生活習慣の面では、喫煙やコーヒーの過剰摂取、過度の飲酒がホモシステインを高くする要因となるため、これらの是正も必要です。腎不全、特に透析患者では、ホモシステインの排泄障害により高値となりやすいため、特に注意が必要です。
大塚製薬の栄養素カレッジでは、ビタミンB群不足による高ホモシステイン血症のリスクについて詳しい情報が提供されています
日本小児科学会のホモシスチン尿症診療ガイドラインでは、診断と治療に関する詳細な指針が記載されています