骨髄球と骨髄芽球の違い|分化段階と形態的特徴

骨髄球と骨髄芽球の違い

この記事のポイント
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分化段階の位置づけ

骨髄芽球は顆粒球系で形態的に同定できる最も幼若な細胞で、骨髄球はその後の成熟段階にある細胞

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形態的特徴の差異

核の形態、細胞質の顆粒の種類、細胞サイズなど、顕微鏡観察で識別可能な明確な違いが存在

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臨床的意義

末梢血中への出現は病的状態を示唆し、白血病などの血液疾患の診断に重要な指標となる

骨髄芽球の分化段階と基本的特徴

骨髄芽球は、造血幹細胞から好中球などの顆粒球へ分化する過程において、顆粒球系として形態的に同定できる最も幼若な段階の細胞です。正常な状態では骨髄にのみ存在し、白血病や癌の骨転移などの病的状態を除いて末梢血中には出現しません。造血幹細胞から骨髄系幹細胞、顆粒球・単球系前駆細胞を経て、骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球、桿状核球、分葉核球へと段階的に成熟していきます。

参考)骨髄芽球 – Wikipedia


骨髄芽球の直径は12〜20μm程度で、成熟した顆粒球よりは大きいものの、次の段階である前骨髄球よりは小さいサイズです。核は大きく円形で、核クロマチンは繊細な構造を持ち、2〜5個の淡青色に染まる核小体が明瞭に観察されます。細胞質は青染する狭小なもので、通常は光学顕微鏡では顆粒が見られません(ただし電子顕微鏡では観察可能です)。

参考)https://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse3350.pdf


骨髄芽球の細胞分裂周期はおよそ24時間であり、この段階では活発な分裂能を有しています。幼若な細胞ほど分裂が盛んと思われがちですが、実際には後の段階の前骨髄球や骨髄球と比較して、骨髄芽球の細胞周期は短い特徴があります。この分裂能は顆粒球の数を増やすために重要な役割を果たしています。

参考)「骨髄芽球」の意味や使い方 わかりやすく解説 Weblio辞…

骨髄球の成熟段階における位置と特性

骨髄球は、骨髄芽球から前骨髄球を経た後の分化段階に位置する細胞です。顆粒球系の分化成熟段階において、骨髄芽球から骨髄球までが分裂能を有する重要な時期となります。骨髄球は前骨髄球より細胞サイズが小さくなり、核は少し形を崩し始め、核クロマチン構造は凝集してやや粗くなる特徴があります。

参考)https://www.beckmancoulter.co.jp/dx/quiz_past/hematology/oneself/part02/self1_04.html


骨髄球の最大の形態的特徴は、二次顆粒(特殊顆粒)の出現です。前骨髄球の段階で豊富に存在していた一次顆粒(アズール顆粒)は、骨髄球では光学顕微鏡ではあまり見られなくなります(存在はしていますが観察しにくくなります)。代わりに二次顆粒が細胞質内に発現し、この二次顆粒の染色性の違いによって、後に好中球、好酸球、好塩基球に分類されることになります。

参考)顆粒球


骨髄球の段階でも細胞は分裂能を保持しており、1〜2回ほど細胞分裂を起こします。ただし細胞周期は長くなる傾向があります。やがて骨髄球は分化をさらに進め後骨髄球となりますが、後骨髄球の段階では細胞はさらに小さくなり、核は小さく濃くいびつになっていき、分裂能は完全に失われます。

参考)骨髄球 – Wikipedia

骨髄芽球と骨髄球の形態学的相違点

骨髄芽球と骨髄球の最も重要な形態学的相違点は、核の形態と細胞質内の顆粒の種類です。骨髄芽球の核は大きく円形で、核クロマチンは繊細であり、2〜5個の核小体が明瞭に観察されます。一方、骨髄球では核クロマチンは粗くなり、核小体は消失しています。核の形態も骨髄球では円形を保ちつつも、やや崩れ始める傾向が見られます。

参考)https://chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse3350.pdf


細胞質の顆粒に関しては、骨髄芽球では通常顆粒は観察されませんが、骨髄球では二次顆粒が明瞭に出現します。前骨髄球の段階で出現する一次顆粒(アズール顆粒)は赤紫色に染まる特徴的な顆粒で、骨髄球の段階では一次顆粒の生成は停止し、代わりに白血球種に特徴的な色に染まる二次顆粒が生成され始めます。骨髄球も分裂増殖するため、細胞あたりの一次顆粒の数は減少していきます。

参考)アズール顆粒 – Wikipedia


細胞サイズの違いも重要な鑑別点です。骨髄芽球は直径12〜20μm程度であるのに対し、前骨髄球は15〜25μmと顆粒球系で最大の細胞となり、骨髄球ではそれより小さくなります。分裂能に関しても、骨髄芽球は約24時間の細胞周期で活発に分裂しますが、骨髄球では細胞周期が長くなり、1〜2回の分裂後には後骨髄球へと移行して分裂能を失います。​

骨髄芽球と骨髄球の分裂能の比較

顆粒球系細胞の分化成熟過程において、分裂能を有するのは骨髄芽球から骨髄球までの段階です。骨髄芽球の細胞分裂周期はおよそ24時間であり、幼若な段階でありながら比較的短い周期で分裂を繰り返します。この活発な分裂により、骨髄芽球は造血幹細胞から受け継いだ遺伝情報を基に、十分な数の前駆細胞を産生することができます。​
骨髄球の段階でも分裂能は維持されていますが、細胞周期は骨髄芽球と比較して長くなる傾向があります。骨髄球は通常1〜2回程度の細胞分裂を行いますが、この段階では細胞の成熟に向けた準備が優先されます。骨髄球が分裂増殖することで、細胞あたりの一次顆粒(アズール顆粒)の数は減少していき、代わりに二次顆粒の生成が進みます。​
後骨髄球の段階に至ると、細胞の分裂能は完全に消失します。後骨髄球では核が陥没して腎臓のような形になり、長径は短径の2倍以上になります。この段階以降は細胞の成熟のみが進行し、桿状核球、分葉核球へと形態変化していきます。このように、骨髄芽球から骨髄球までの分裂能を有する段階と、後骨髄球以降の分裂能を失った段階は、顆粒球の産生において明確に区別される重要な転換点となっています。

参考)後骨髄球 – Wikipedia

臨床的意義:末梢血における骨髄芽球・骨髄球出現の解釈

正常な状態では、骨髄芽球や骨髄球などの幼若な骨髄球系細胞は骨髄内にのみ存在し、末梢血中には出現しません。これらの幼若細胞が末梢血に出現することは、多くの場合、病的な状態を示唆する重要な所見となります。白血球分類検査で後骨髄球や骨髄球が検出された場合、その臨床的意義を正確に評価することが必要です。

参考)http://plaza.umin.ac.jp/~histsite/leukocyts.pdf


慢性骨髄性白血病(CML)では、骨髄に存在する造血幹細胞そのものに異常が生じており、血球の成熟は阻害されていませんが、血球生産のコントロールができない状態になります。そのため、各成熟段階の白血病細胞が存在し、血液中には通常では認められない「骨髄芽球→前骨髄球→骨髄球→後骨髄球」という各分化段階の幼弱な骨髄球系細胞が出現します。慢性骨髄性白血病における「骨髄芽球や骨髄球」は、これらの幼若段階の細胞の一部を指しています。

参考)骨髄芽球や骨髄球とはなんですか?慢性骨髄性白血病と関係はあり…


急性骨髄性白血病では、骨髄芽球(白血球になる前の未熟な細胞)に異常が起こり、がん化した細胞(白血病細胞)が主に骨髄で無制限に増える病態となります。骨髄内で増殖した芽球は末梢血に出現することも多く、診断の重要な手がかりとなります。急性白血病は分化の早い段階で細胞が成長を止めてしまうことで発症し、この成長を止めた細胞(白血病細胞または芽球)が骨髄中で増殖し、正常な血液細胞の産生を阻害します。

参考)急性白血病


骨髄芽球や骨髄球の末梢血への出現を評価する際には、出現している細胞の形態、割合、随伴する他の血液学的異常などを総合的に判断することが重要です。重症感染症などでも幼若な顆粒球が末梢血に出現することがありますが、これは生理的な反応としての左方移動と呼ばれる現象であり、白血病とは区別されます。正確な診断のためには、血液検査だけでなく骨髄検査や染色体検査、遺伝子検査などを組み合わせた総合的な評価が必要となります。

参考)急性骨髄性白血病:[国立がん研究センター がん情報サービス …


<参考情報>

国立がん研究センター「がん情報サービス」では、急性骨髄性白血病における骨髄芽球の役割について、一般の方にも理解しやすい図解とともに詳しく解説されています。造血幹細胞から各種血液細胞への分化過程を視覚的に理解する上で有用な資料です。

急性骨髄性白血病:[国立がん研究センター がん情報サービス …

ベックマン・コールター社の「血液形態自習塾」は、顆粒球系細胞の分化成熟段階を詳細な顕微鏡写真とともに解説しており、骨髄芽球と骨髄球の形態的特徴を学ぶための専門的資料として臨床検査技師や医療従事者に広く活用されています。

https://www.beckmancoulter.co.jp/dx/quiz_past/hematology/oneself/part02/self1_04.html