不顕性感染とは何か症状や診断方法

不顕性感染とは

不顕性感染の基本
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感染成立と症状の関係

病原体が体内に侵入し感染しても、臨床的な症状を示さない状態のことを指します

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保菌者としてのリスク

感染の自覚がないまま病原体を排出し、他者への感染源となる可能性があります

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免疫と病原性のバランス

発症するかどうかは宿主の免疫機能と病原体の病原性の相互作用によって決まります


不顕性感染とは、細菌やウイルスなど病原体の感染を受けたにもかかわらず、感染症状を発症していない状態を指す医学用語です。この状態は無症状感染、潜在感染、オカルト感染とも呼ばれ、感染症法第6条第11項では「無症状病原体保有者」として法律用語でも定義されています。一般に感染しても必ず発症するわけではなく、大部分がこの不顕性感染となります。

参考)https://www.jaam.jp/dictionary/dictionary/word/0623.html


不顕性感染の人はしばしば保菌者(キャリア)となり、病原体を排泄して感染源となる可能性が高いため疫学上重要な問題となります。感染者は臨床症状を示さないため、気づかないうちに病原体を他個体に拡げてしまうリスクを持っています。風疹では感染者の約30%が不顕性感染とされ、急性灰白髄炎(ポリオ)では正常な免疫系を持つ人の約90〜95%が不顕性感染であることが報告されています。

参考)不顕性感染 – Wikipedia


感染症の発症は病原体側だけの問題ではなく、宿主の生体防御機構との相互関係によって成り立っています。宿主の抵抗力が病原菌の菌力よりも強ければ発症は起こりませんが、免疫機能が低下した場合には抑制されていた病状が発症する可能性があります。症状が出ていても軽すぎて気づかないケースもあり、不顕性感染と顕性感染は連続的な関係にあります。

参考)不顕性感染(フケンセイカンセン)について 【病院検索ホスピタ…

不顕性感染における症状の有無と定義

不顕性感染に症状はありません。ウイルスなどに感染していながら、臨床的に確認できる病状が現れていない状況を指すため、発症に至らないケースも稀ではありません。この定義における「症状」とは、患者の主観的な感覚を指すものです。

参考)不顕性感染=無症状病原体保有者の意味と感染力と新型コロナウイ…


医学用語としての不顕性感染と、法律用語としての無症状病原体保有者は意味として同じものですが、医学判断と裁判所による法律判断は異なる結果になる場合があることに注意が必要です。感染が成立しても発症しない場合を不顕性感染、感染成立後に発症する場合を顕性感染といいます。

参考)感染症−概略その1|ITシステムのアウトソーシングなら日立医…


この状態を示す個体は臨床的な病状を示さないがゆえに、感染源として自分では気付かないうちに病原体を他の個体へと拡げてしまう恐れがあります。通常は免疫機能により発症には至りませんが、免疫機能が低下した場合には抑制されていた病状が発症します。感染していても症状が表われない状態のため、感染者に感染の自覚がなく、感染拡大の大きな一因となりうる可能性を持っています。

参考)https://kitcompany.jp/kitencyclopedia/ency539/

不顕性感染と免疫機能の関係性

不顕性感染の成立には、宿主の免疫機能が重要な役割を果たしています。感染症の発症は病原体側の病原性と、宿主の生体防御機構との間の相互関係によって成り立ちます。宿主の抵抗力が病原菌の菌力よりも強ければ発症は起こらず、不顕性感染の状態が維持されます。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika1913/83/7/83_7_1081/_pdf


一般に十分に長い期間で見ると、宿主と微生物(あるいはウイルス等)との関係が長期間におよぶほど、病原性は弱くなる傾向があります。これは宿主側の免疫などの防御機能や、微生物側の生存戦略(適応進化)が関係しています。通常は免疫機能により発症には至りませんが、免疫機能が低下した場合には、抑制されていた病状が発症する可能性があります。​
ポリオウイルスに感染しても、多くの場合、病気としての明らかな症状はあらわれずに、知らない間に免疫(その後、ポリオに感染しない抵抗力)ができます。このように不顕性感染であっても免疫は獲得されるため、感染防御という観点からは一定の意義があります。不顕性感染の臨床上の応用では弱毒生ワクチンがあり、これは人為的に不顕性感染を成立させることにより免疫を成立させる方法です。

参考)不顕性感染とは何? わかりやすく解説 Weblio辞書

不顕性感染の主な原因となる病原体と疾患

不顕性感染は様々な病原体で発生しますが、特に風疹とポリオが代表的な例として知られています。風疹では感染者の約30%(一部資料では15%程度)が不顕性感染とされており、感染しても発症しないことがあるため、知らないうちに他の人にうつしてしまいます。風疹ウイルスは感染力が強い上、発疹が出現する1週間前から症状が消失するまで感染力があり、不顕性感染も多いとされています。

参考)風疹の現状と今後の風疹対策について(2003年5月)|国立健…


急性灰白髄炎(ポリオ)では、正常な免疫系を持ったヒトは約90〜95%が不顕性感染であることが報告されています。ポリオウイルスに感染しても、多くの場合、病気としての明らかな症状はあらわれずに、知らない間に免疫ができます。このように、ポリオでは発症に至ることの方が稀であり、不顕性感染の方が一般的です。

参考)https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/polio/tp0831-1_a_11.html


ノロウイルスも不顕性感染を起こすことが知られています。ノロウイルスは細菌やウイルスなどの病原体に感染しても、嘔吐や下痢などの症状が出ないことがありますが、症状が出ない不顕性感染の場合でもウイルスの排出はあります。定期的にノロウイルスの検査をしている方は感染の確認ができるのでノロウイルス感染の予防と対策ができますが、そうではない方は知らない間に感染を広めてしまう可能性があります。肝炎ウイルス(B型、C型)でも、多くは感染しても自覚症状がない不顕性感染となることがあります。

参考)性病の種類

不顕性感染における検査と診断方法

不顕性感染の診断には、症状がないため検査による客観的な確認が必要となります。感染症状は抗体陽性や遅延型過敏反応などで確認されます。抗体検査は、ウイルスが体内に入ってきた時に身体が作り出すタンパク質である抗体を測定する方法で、血液中に含まれるかを調べるものです。

参考)コロナ 抗体検査


抗体には様々な種類がありますが、ウイルス感染症の場合には主に感染早期に現れる「IgM」とIgMより遅れて作られて長期間にわたり続く「IgG」が重要です。新型コロナウイルス感染症患者の血液を用いた研究では、IgG抗体の検出率は発症7〜8日後で25%、発症9〜12日後で約52%、発症13日以降で約97%でした。このため、発症直後に抗体を測定しても検出されない方が多く、新型コロナウイルス抗体検査が陰性であっても発症して2週間未満であれば感染ではないとはいえません。​
抗原検査は、微生物の存在を直接確認する方法で、感染した人の体内で微生物に対する抗体が作られるのを待つことなく、感染症を迅速に診断することができます。サンプルの中にその微生物の抗原が含まれていれば、その抗原は検査用の抗体に結合し、抗原が存在するということは微生物が存在することを意味します。PCR検査などの核酸増幅検査は、微生物のRNAやDNAを検出する方法で、培養よりも一般的に感受性が高く、ターンアラウンドタイムも改善されています。これらの検査を組み合わせることで、不顕性感染の診断が可能となります。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5079790/

不顕性感染の予防と日常生活での注意点

不顕性感染者からの感染を防ぐためには、日常生活での基本的な感染対策が重要です。不顕性感染者は感染していることに気づかずに病原体を排出して感染を拡げる感染源になってしまうリスクがあり、無症状の人から受けた感染であっても、うつされた人の中には重症化してしまう人もいます。

参考)感染対策の基礎知識をおさえておこう|感染のしくみ(感染源、感…


最も重要な予防方法は手洗いです。帰宅時、食事前には、家族全員が流水・石けんによる手洗いを行うようにすることが推奨されます。感染は、病原体が存在する感染源から感染経路を通り、次に感染を受ける人のからだに入り込んで増殖して起こります。つまり、①感染源、②感染経路、③宿主(ヒト)の3つの要素が揃ったときに感染が成立するため、これらの要素を断つことが予防につながります。

参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/08/dl/s0817-6h_0001.pdf


ワクチン接種は不顕性感染の予防に効果的な手段の一つです。日本脳炎ワクチンでは、接種により日本脳炎の罹患リスクを75〜95%減らすことができると報告されています。弱毒生ワクチンは人為的に不顕性感染を成立させることにより免疫を成立させる方法であり、不顕性感染の臨床上の応用例として重要です。特に子どもや高齢者は健康な成人よりもずっとウイルスに感染し発病しやすいため、家庭内での注意が大切です。

参考)日本脳炎ワクチン|厚生労働省


調理や配膳は充分に流水・石けんで手を洗ってから行うことが重要です。貝類の内臓を含んだ生食は時にノロウイルス感染の原因となることがあり、高齢者や乳幼児は避ける方が無難です。インフルエンザなど社会的に大きな流行をもつ感染症に関しては、うつされないことももちろんですが、他人にうつさないこと、うつさないように注意することも大切です。​