アセチルシステインの効果と機序
アセチルシステインの去痰作用とメカニズム
アセチルシステインは、N-アセチル-L-システインという化学名を持つアミノ酸誘導体です。主な作用機序の一つは、気道粘液中のムコ多糖類が持つジスルフィド結合(-S-S-)を切断することで、粘液の粘度を低下させる去痰作用にあります。このSH基による結合開裂は速やかに起こり、感染性気道粘液に多く含まれるDNAの存在にも影響されないため、膿性・非膿性を問わず粘液分泌物を液化できる特徴があります。
痰の流動性・溶解度は明らかに増加し、降伏値や粘着性は低下します。これらのレオロジカルな性状の変化は、痰の喀出を容易にすることを強く示唆しています。作用はpH7~9で最大となり、病的な気管支内分泌物がアルカリ側に傾いているため効果的に作用し、感染時にも使用可能です。アセチルシステインは分子量163.19 g/molを有する白色の結晶性粉末で、水によく溶けエタノールにもやや溶けやすい性質を持っています。
参考)https://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1amp;yjcode=2233700G2034
アセチルシステインの抗酸化作用とグルタチオン合成
アセチルシステインの重要な作用として、体内でグルタチオンに変換されることによる強力な抗酸化作用があります。グルタチオンは細胞内で「マスター抗酸化物質」として機能し、フリーラジカルや活性酸素種(ROS)を中和することで細胞を酸化ストレスから保護します。
アセチルシステインはグルタチオンの前駆体として作用し、体内のグルタチオン濃度を高めることで抗酸化作用を強化します。この作用は炎症の抑制にも寄与し、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺線維症などの慢性呼吸器疾患において酸化ストレスと炎症を軽減する効果が期待されています。実際、中等症から重症のCOPD患者に対するN-アセチルシステイン600mg 1日2回の長期投与は、年間の急性増悪頻度を減少させることが臨床試験で示されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11278452/
アセチルシステインの肝臓保護・解毒効果
アセチルシステインはアセトアミノフェン過剰摂取時の解毒薬として医療現場で重要な役割を果たしています。アセトアミノフェンを大量服用すると、肝臓でシトクロムP450により代謝されてN-アセチル-p-ベンゾキノンイミン(NAPQI)という有害な代謝産物が過剰産生され、グルタチオンが枯渇します。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2002/P200200018/38008600_21400AMZ00471_V100_2.pdf
アセチルシステインはグルタチオンの前駆物質として作用し、グルタチオンを補給することでNAPQIを不活化し、肝細胞死を抑制します。投与方法としては、体重1kgあたり初回0.8mL(アセチルシステイン内用液17.6%の場合)を投与し、その後0.4mL/kgを継続投与します。早期投与がアセトアミノフェン中毒時に引き起こされる肝機能障害を効果的に抑制することが動物実験で確認されています。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2002/P200200018/38008600_21400AMZ00471_Z100_3.pdf
L-システインとして、アルコール分解の生成物であるアセトアルデヒドと直接反応して解毒する作用や、肝臓内でアルコールを分解する酵素の働きを助ける効果も持っています。このため二日酔い対策の医薬品にも配合されています。
アセチルシステインの呼吸器疾患への応用
アセチルシステインは慢性呼吸器疾患の治療において幅広く応用されています。COPD患者では、去痰作用に加えて抗酸化・抗炎症作用により急性増悪の予防効果が報告されています。PANTHEON試験では、中等症から重症のCOPD患者にアセチルシステイン600mg 1日2回を1年間投与した結果、プラセボ群と比較して年間の急性増悪頻度が有意に減少しました。
参考)http://hospitalist.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jc_20180227.pdf
特発性肺線維症に対しても研究が進められており、プレドニゾンとアザチオプリンの標準療法に高用量アセチルシステイン(600mg 1日3回)を併用した臨床試験が実施されています。抗酸化作用により線維化の進行を遅らせる可能性が期待されています。嚢胞性線維症では粘液溶解作用により治療プロトコルの一部として使用されています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/71d978d4fcaf92022600ed274172179f4025780c
一方で、アセチルシステイン吸入による薬剤性肺障害の報告も存在するため、使用時には注意深い観察が必要です。
参考)https://is.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/ajrs/003020300j.pdf
アセチルシステインの美容・抗酸化サプリメントとしての利用
近年、アセチルシステインは健康や美容分野でも注目を集めています。体内でグルタチオンの生成を助ける前駆体として機能するため、強力な抗酸化作用により活性酸素を抑える働きが期待されています。グルタチオンは臨床研究でメラニンの生成を抑え美白を促進する効果が証明されており、透明感のある肌を目指す方に選ばれています。
参考)https://www.suplinx.com/shop/e/enac/
欧米ではNACサプリが一般的で、1回600mg~1,000mg程度の容量で販売されていることが多く、手軽に摂取できる点が魅力です。L-システインの安定型ともいえる健康成分として、お酒やたばこ好きな方の健康維持、アンチエイジング、免疫力サポートなど多様な目的で活用されています。また、肌や肝臓に対する作用をはじめ、あらゆる健康面にポジティブな効果をもたらすとして多くのユーザーがサプリとして取り入れています。
参考)https://www.suplinx.com/shop/e/e20000662/
ただし医薬品として使用する場合とサプリメントでは用量や目的が異なるため、適切な使用方法を確認することが重要です。
アセチルシステインの副作用と使用上の注意点
アセチルシステインは比較的安全性が高い薬剤ですが、いくつかの副作用が報告されています。重大な副作用としてアナフィラキシーがあり、舌の腫脹、紅斑、血管浮腫などの異常が認められた場合には投与を中止し適切な処置が必要です。
参考)アセチルシステイン内用液17.6%「あゆみ」の効能・副作用|…
その他の副作用として、過敏症(発疹、蕁麻疹などのアレルギー症状)、消化器症状(嘔気、嘔吐)、スルフヘモグロビン血症などが報告されています。吸入使用時には胸部圧迫感、気管支収縮、せき、喘鳴、息苦しさなどの呼吸器症状が現れることがあります。
参考)アセチルシステイン液(N-アセチル-L-システイン)の副作用…
観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うことが重要です。また、経口用製剤は経口用にのみ使用し、他の投与経路での使用は避けるべきです。アセチルシステインは他の治療との併用でも低毒性で稀な副作用しか示さず、安価で入手しやすいという利点があります。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00066031.pdf
人気のサプリメントとして使用する際にも、用量を守り自身の体調変化に注意を払うことが推奨されます。