尿もれとは
尿もれの定義と症状
尿もれとは、自分の意思とは関係なく尿が漏れてしまう状態を指し、医学的には「尿失禁」と呼ばれています。この症状は日常生活において大きな支障をきたし、外出を控えたり社会活動を制限したりする原因となることがあります。咳やくしゃみをした時、重い物を持った時、急にトイレに行きたくなった時など、さまざまな状況で尿漏れが起こる可能性があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10525672/
症状の程度は人によって異なり、下着が少し濡れる程度の軽いものから、衣服まで濡れてしまう重度のものまで幅広く存在します。尿もれは身体的な問題だけでなく、精神的な苦痛や社会生活への影響も大きく、生活の質(QOL)を著しく低下させる要因となります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10909260/
尿もれの原因
尿もれの主な原因は、骨盤底筋群と呼ばれる筋肉の緩みや機能低下です。骨盤底筋群は子宮や膀胱、尿道などの臓器を支える重要な役割を果たしており、この筋肉が弱くなると尿道の閉鎖機能が低下して尿漏れが起こりやすくなります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9865065/
女性の場合、妊娠や出産による骨盤底筋への負担が大きな要因となります。分娩時には赤ちゃんが骨盤を通過する際に骨盤底筋が押し広げられ、筋肉や神経がダメージを受けることがあります。さらに、加齢によるホルモン変化や筋力低下、肥満による腹圧の増加、慢性的な便秘や咳なども骨盤底筋を傷める原因となります。
参考)尿が漏れる・尿失禁がある
男性では前立腺肥大症が尿もれの主要な原因の一つです。前立腺が肥大すると尿道が圧迫され、排尿障害や切迫性尿失禁を引き起こすことがあります。また、脳血管障害などの神経系の疾患も、膀胱のコントロール機能を低下させて尿もれの原因となることがあります。
尿もれの種類と分類
尿もれは発生メカニズムによっていくつかのタイプに分類されます。最も一般的なのが腹圧性尿失禁で、咳やくしゃみ、重い物を持ち上げるなどお腹に力が入った時に尿が漏れてしまうタイプです。これは女性の尿失禁の中で最も多く、骨盤底筋群の緩みが主な原因となっています。
切迫性尿失禁は、急に強い尿意を感じて我慢できずに漏れてしまうタイプです。膀胱が勝手に収縮してしまうことで起こり、トイレが近くなったりトイレにかけ込むような行動が特徴的です。過活動膀胱と密接に関連しており、日常生活に大きな支障をきたします。
参考)【助産師執筆】産後9週(産後2ヵ月) 尿漏れと産後の体の整え…
その他にも、膀胱が過度に充満して溢れるように漏れる溢流性尿失禁や、認知症や運動機能の低下によりトイレまで間に合わない機能性尿失禁があります。実際には、これらのタイプが混合して起こることも多く、特に産後の女性では腹圧性と切迫性の混合型が見られることがあります。
参考)過活動膀胱・切迫性尿失禁・腹圧性尿失禁・溢流性尿失禁・機能性…
尿もれの治療方法
尿もれの治療は、まず保存的療法から始めることが推奨されています。最も効果的な方法の一つが骨盤底筋体操(骨盤底筋トレーニング)で、骨盤底筋を意識的に鍛えることで尿道の閉鎖機能を回復させます。この体操は仰向けや座った姿勢で、膣と肛門を引き上げるように5秒間締めてから緩める動作を繰り返すもので、1日数回継続することで効果が期待できます。研究によれば、1か月で約3割、2か月以上で約6割の方に症状の改善が見られています。
参考)https://www.mdpi.com/2227-9059/11/9/2486
薬物療法も有効な治療選択肢です。切迫性尿失禁に対しては、膀胱の過剰な収縮を抑える抗コリン薬やβ3作動薬が使用されます。腹圧性尿失禁に対しては、尿道括約筋の緊張を高める薬剤が処方されることがあります。
保存的療法で十分な効果が得られない場合は、外科的治療が検討されます。腹圧性尿失禁に対しては、中部尿道スリング手術などの低侵襲手術が行われています。また、バイオフィードバック療法や電気刺激療法など、骨盤底筋訓練を補助する物理療法も効果的とされています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8910078/
尿もれの予防と生活習慣の改善
尿もれの予防には、日常生活での習慣改善が重要です。まず体重管理が挙げられます。肥満は腹圧を増加させて骨盤底筋に負担をかけるため、適正体重を維持することが尿もれの予防につながります。
水分摂取の調整も効果的です。過剰な水分摂取は頻尿の原因となりますが、極端に制限すると尿が濃縮されて膀胱を刺激するため、適度な量を心がけることが大切です。特にカフェインやアルコールは利尿作用があり頻尿を悪化させる可能性があるため、摂取量を控えめにすることが推奨されます。
膀胱訓練も有効な予防法です。尿意を感じてから5~10分我慢してから排尿するという訓練を行うことで、徐々に膀胱に溜められる尿の量が増えていきます。この訓練は特に切迫性尿失禁の改善に効果的とされています。
参考)尿漏れの種類と対策及び予防のためのトレーニング法について|保…
便秘の予防も重要です。排便時の強いいきみは骨盤底筋を傷める原因となるため、食物繊維を十分に摂取し、規則正しい排便習慣を心がけることが大切です。また、重い物を持つ作業や激しい運動も骨盤底筋に負担をかけるため、産後や高齢者は特に注意が必要です。
<参考リンク>
日本泌尿器科学会の尿失禁についての詳しい解説と診断基準については以下をご覧ください。
骨盤底筋体操の具体的な方法と注意点については以下が参考になります。