睫毛乱生と電気分解
睫毛乱生の原因と発症メカニズム
睫毛乱生は、まぶた自体の構造には問題がないものの、まつ毛の毛根からの生え方が不規則になり、本来外向きに生えるべきまつ毛が内向きに生えて角膜に触れてしまう状態です。この疾患の主な原因は、まつ毛の毛根部における炎症である「眼瞼縁炎」によって引き起こされることが多く、角膜に当たるまつ毛の数は1本のみの場合から多数の場合まで個人差があります。特発性(原因不明)が最も多いですが、既知の原因としては眼瞼炎、外傷後および術後の変化、結膜瘢痕化(瘢痕性類天疱瘡、アトピー性角結膜炎、スティーブンス-ジョンソン症候群、化学外傷に続発)などが挙げられます。また、まぶたの炎症や傷跡により、まつ毛の生える方向が異常になってしまうケースも報告されています。
睫毛乱生が引き起こす症状と合併症
睫毛乱生による症状は年齢層によって異なります🧒乳幼児では瞬目過剰(まばたきが異常に多い)、羞明(光を異常にまぶしがる)、結膜充血(眼が赤い)、眼脂(目やに)、流涙などを起こします。小児や成人ではこれらに加えて、異物感、痛み、チクチクとした不快感を訴えることが多く、日常生活に大きな支障をきたします。睫毛が角膜に触れると、非常に強い異物感があり、患者さんは眼科を受診してまつ毛を抜いてもらう必要がありますが、1ヶ月程度で再び伸びてきて角膜に当たるため、抜く処置を繰り返すことになります。さらに問題なのは、睫毛を抜くと毛根に炎症が起き、逆睫毛が激しくなるという負のスパイラルに陥ることです。慢性例では角膜潰瘍および瘢痕が生じる可能性もあり、視力低下のリスクもあるため注意が必要です。
参考)睫毛乱生 – 17. 眼疾患 – MSDマニュアル プロフェ…
電気分解法による睫毛乱生治療の原理
睫毛電気分解は、まつ毛の毛穴に細い針状の電極を刺して電流を流し、毛根を破壊して睫毛を永久的に生えなくする方法です。この治療法は美容脱毛の電気分解法と同じ原理で、電気分解作用により毛包内で水酸化ナトリウムを発生させ、発毛組織を化学的に破壊します。治療は顕微鏡下で毛根に沿って、睫毛と同じくらいの細さの電極を差し込み、通電を行います。うまく毛根を破壊できると「ポップアップ現象」と呼ばれる、睫毛が浮き上がる現象が観察されます。現代の治療では、従来の電池式分解針ではなく、電気メスの一番細いプローブを使用することで、ほぼ同じ手技で数倍強い効果が得られることが分かってきました。ただし、毛根焼灼の不確実性や睫毛にも休止期があるため、1回の施術で完全に終了せず、何回か繰り返して行う必要があります。
睫毛電気分解の治療手順と効果
睫毛電気分解の治療は局所麻酔下で行われます💉麻酔なしでは痛みを伴うため、針で局所麻酔をしてから処置を開始します。治療時間は片眼約10分程度で完了し、日帰りで受けることができます。処置回数については個人差がありますが、通常3〜4回の治療が必要になります。1回の処置で7割程度の睫毛が無くなり、追加の電気分解を行うことで毛根はどんどん減っていきます。当院では2〜3度の処置で簡単に良くなっていくケースが多いと報告されています。治療効果は永久的で、睫毛抜去のように定期的に通院する必要がなくなるため、長期的に見ると患者さんの負担が大幅に軽減されます。ただし完治するまでには複数回の治療が必要であり、患者さんには治療計画について事前に十分な説明が必要です。
<参考リンク>睫毛電気分解の詳細な手順について
https://www.tamaplaza-eyeclinic.com/blog_doctor/5982/
保険適用と治療費用について
睫毛電気分解は健康保険適用の治療です💰保険診療での費用は、1割負担の方で片眼560円〜700円程度、3割負担の方で片眼1,680円〜2,500円程度となっています。両眼の場合は、1割負担で約2,500円、2割負担で約5,000円、3割負担で約7,500円が目安です。これは睫毛内反症手術(両眼で3割負担約23,000円)と比較すると、かなり低額な負担で治療を受けることができます。ただし、複数回の治療が必要になる場合は、その都度費用が発生します。また、この治療を行うためには現在では100万円超の機械が必要なため、実施しているクリニックは比較的少ないのが現状です。治療を希望する場合は、事前に医療機関に電気分解治療の実施可否を確認することをお勧めします。
睫毛電気分解のリスクと注意点
睫毛電気分解は比較的安全な治療法ですが、いくつかのリスクと注意点があります⚠️まず、術後には一時的な眼瞼の腫れや内出血が起こる可能性があり、個人差はありますが、およそ1週間程度続くことがあります。また、1回の処置で全ての毛根を完全に破壊することは難しく、毛根焼灼の不確実性や睫毛の休止期の存在により、複数回の治療が必要になります。治療後も数本のまつ毛が不規則な方向に生えてくる「睫毛乱生」が残る可能性があり、その場合は追加の抜去処置や永久脱毛が必要になることがあります。まれに感染症のリスクもあるため、術後は医師の指示に従って適切なケアを行うことが重要です。痛みについては、局所麻酔を使用するため処置中の痛みは軽減されますが、麻酔の注射自体に多少の痛みを伴います。治療の満足度は高いとされていますが、患者さん一人ひとりの状態や期待値によって結果の受け止め方は異なるため、医師と十分に相談した上で治療を選択することが大切です。
睫毛乱生の電気分解以外の治療選択肢
睫毛乱生に対する治療法は電気分解だけではありません📋最も簡単な方法は、専用のピンセットでまつ毛を抜く「睫毛抜去」で、診察室での処置として行われます。この処置で一時的に症状は改善しますが、睫毛は1〜2か月で生えてくるため、定期的に通院が必要になります。本数が少ない場合やすぐに手術を受けることが難しい場合には有効な選択肢です。より根治的な治療法としては、毛根切除術があり、異常な睫毛を毛根ごと切り株のように切除します。広範囲の場合はまぶたの組織(皮膚や筋肉など)とともに毛根を切除し、切除した皮膚を瞼板に縫合する方法もあります。さらに、電気分解以外の毛根破壊法として、冷凍凝固やレーザー光凝固などの方法もあり、これらも永久的な再発予防として効果的です。まぶた自体が内向きにまくれ込んでいる眼瞼内反を伴う場合は、睫毛列切除術、睫毛移動術、または下まぶたの皮膚を切開して瞼板と支持組織とを縫い合わせて引き締める手術が必要になることがあります。治療法の選択は、症状の程度、本数、患者さんの年齢や生活状況、希望などを総合的に考慮して決定されます。
参考)逆さ睫毛の治療法ー眼瞼内反症手術、睫毛内反症手術、電気分解ー
<参考リンク>睫毛乱生の様々な治療法の比較
https://www.oculoplastic.jp/trichiasis
睫毛電気分解治療の成功率を高めるポイント
睫毛電気分解治療の成功率を高めるためには、いくつかの重要なポイントがあります✨まず、経験豊富な眼科医による正確な施術が不可欠です。顕微鏡下で毛根に沿って正確に電極を挿入し、適切な通電を行うことで「ポップアップ現象」を確認できれば、毛根が適切に破壊された証拠となります。施術後は医師の指示に従って定期的な検査を受け、角膜の状態や再発の有無を確認することが大切です。また、治療の間隔も重要で、毛周期(成長期、退行期、休止期)を考慮して適切なタイミングで追加治療を行うことで、より高い効果が期待できます。電気メスの最も細いプローブを使用する新しい手技では、従来の電池式分解針よりも数倍強い効果が得られるため、このような最新の機器を導入している医療機関を選ぶことも一つの方法です。さらに、睫毛を単純に抜くだけの処置を繰り返していると毛根に炎症が起き、逆睫毛が悪化する可能性があるため、早めに電気分解による根治的治療を選択することが推奨されます。患者さん自身も治療計画を理解し、複数回の治療が必要であることを認識した上で、根気強く通院を続けることが成功への鍵となります。
参考)永久脱毛はどうやってするの?|一般社団法人日本スキン・エステ…