タンパク質分解とアンモニア産生の仕組み

タンパク質分解とアンモニア産生

この記事のポイント
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タンパク質分解のメカニズム

消化酵素による分解からアミノ酸代謝まで、体内でのタンパク質処理過程を解説

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アンモニアの毒性と処理

有毒なアンモニアが肝臓で尿素に変換される尿素回路の重要性

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高アンモニア血症の危険性

肝機能低下により起こる高アンモニア血症の症状と治療法

タンパク質分解における消化酵素の働き

タンパク質は私たちの体内で消化酵素によって段階的に分解されていきます。胃では、胃の内壁から分泌される「ペプシノーゲン」が胃酸により活性化されて「ペプシン」という消化酵素に変化し、タンパク質のペプチド結合を切断してペプトン(ポリペプチド)などの小さな分子に分解します。この酸性環境下での分解が、タンパク質を吸収可能な状態にする最初のステップとなります。

参考)タンパク質を分解してアミノ酸にする消化酵素の分解する仕組みや…


胃で初期分解されたタンパク質は、小腸でさらに細かく分解されます。膵臓から分泌される「トリプシン」や小腸粘膜の「ペプチダーゼ」などの消化酵素が働き、最終的にアミノ酸やジペプチド、トリペプチドといった吸収可能なサイズにまで分解されます。これらのタンパク質分解酵素の総称を「プロテアーゼ」と呼び、各消化器官から分泌されるさまざまな種類が存在しています。

参考)タンパク質を分解する消化酵素を解説。種類や働きを理解して摂取…


消化酵素による分解の効率は、各酵素が働く最適なpH環境によって決まります。ペプシンは酸性環境(pH2前後)で最も活性が高く、トリプシンはアルカリ性環境(pH8前後)で効果的に働きます。このように、消化管の各部位で異なる環境を作り出すことで、段階的かつ効率的なタンパク質分解が実現されているのです。​

タンパク質分解によるアミノ基転移反応のメカニズム

タンパク質が分解されて生じたアミノ酸は、体内で利用されますが、余剰分は代謝されます。アミノ酸の代謝において重要なのが「アミノ基転移反応」と呼ばれる過程です。この反応では、アミノ基転移酵素(アミノトランスフェラーゼ)によって、アミノ酸のアミノ基がα-ケトグルタル酸に転移され、グルタミン酸が生成されます。

参考)第2章 2-3:タンパク質代謝


アミノ基転移反応において、ほとんどの場合でα-ケトグルタル酸がアミノ基の受け取り役として使われる理由は、生成されたグルタミン酸が「酸化的脱アミノ反応」を受けて、アミノ基をアンモニア分子として遊離させることができるからです。この反応には、「グルタミン酸デヒドロゲナーゼ」という酵素が関与し、グルタミン酸からアンモニアを取り除く役割を担っています。

参考)【解決】アミノ酸の代謝~アミノ基転移反応を中心に~


アミノ基転移反応には、補酵素として「ピリドキサールリン酸」(ビタミンB6の活性型)が必要です。この補酵素は、アミノ基転移酵素の活性中心でアミノ基の受け渡しを仲介する重要な役割を果たしており、ビタミンB6の欠乏はアミノ酸代謝に深刻な影響を与える可能性があります。また、肝機能検査で測定されるAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)とALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)は、このアミノ基転移反応を触媒する代表的な酵素です。​

アンモニアの尿素回路による無毒化プロセス

タンパク質分解によって生成されたアンモニアは、非常に毒性の高い物質です。そのため、体内では肝臓の尿素回路(オルニチン回路)によって速やかに無毒な尿素に変換されます。尿素回路は、二酸化炭素とアンモニアからカルバモイルリン酸が生成する反応を起点とし、4つの中間体(カルバモイルリン酸、シトルリン、アルギニノコハク酸アルギニン)を経て尿素が生成される代謝経路です。

参考)余ったタンパク質はどうなるの?


この尿素回路は肝臓にのみ存在し、カルバモイルリン酸がオルニチンと結合してシトルリンが作られる過程まではミトコンドリア内で行われ、その後の反応は細胞質ゾルで進行します。生成された尿素は肝臓から血流を介して腎臓に運ばれ、糸球体でろ過されて尿中に排泄されます。尿素は重量の約47%が窒素であり、タンパク質の最終代謝産物として効率的に体外へ排出される仕組みになっています。

参考)http://www.hoku-iryo-u.ac.jp/~onishi/20metabofaa.pdf


アンモニアの一部は尿素回路を経ずに、腎臓でアンモニウム塩として直接尿中に排泄されることもあります。特に酸塩基平衡の調整において、腎臓は近位曲尿細管細胞でグルタミンなどのアミノ酸をアンモニアに分解し、尿中へ排泄することで体内の酸を中和する役割を果たしています。このように、尿素回路と腎臓での直接排泄という2つの経路によって、体内のアンモニア濃度は厳密にコントロールされているのです。

参考)Video: 酸塩基平衡における腎臓の役割の概要-MSDマニ…

高アンモニア血症の原因と症状

肝機能が低下すると尿素回路が正常に機能しなくなり、血中のアンモニア濃度が異常に上昇する「高アンモニア血症」が発生します。高アンモニア血症の原因としては、劇症肝炎などの重度の肝障害、尿素サイクルの先天的酵素欠損症、アンモニアを多く含む門脈血が肝循環を経ずに直接体循環に流入する病態などが挙げられます。

参考)血中アンモニア〔NHhref=”https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1543103269″ target=”_blank”>https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1543103269lt;subhref=”https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1543103269″ target=”_blank”>https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1543103269gt;3href=”https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1543103269″ target=”_blank”>https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1543103269lt;/subhref=”https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1543103269″ target=”_blank”>https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1543103269gt;〕 (検査と技術…


高アンモニア血症で現れる症状には、吐き気や嘔吐、呼吸困難などの呼吸障害、呼びかけても反応しない意識障害、けいれんなどの異常行動があります。重篤な場合は肝性昏睡または肝性脳症と呼ばれる意識障害や昏睡状態に陥ることがあり、生命に関わる危険な状態となります。アンモニアは脳に対して特に毒性が強く、神経細胞の機能を障害することで様々な神経症状を引き起こすのです。

参考)高アンモニア血症とは|原因や症状、検査、治療法


診断には血液検査により血液中のアンモニアの数値や血糖値を調べ、その後遺伝子解析などの特異的な検査により確定診断を行います。高アンモニア血症の検査値は臨床的に「パニック値」として扱われ、緊急対応が必要な重要な指標とされています。慢性腎臓病CKD)においても、尿素によるタンパク質分解が血液脳関門の機能障害やタウタンパク質の異常に関与することが研究で明らかになっており、アンモニア代謝の異常は多臓器に影響を及ぼす可能性があります。

参考)「慢性腎臓病による“血液脳関門の機能障害”と”タウタンパク質…

タンパク質分解とアンモニア処理における肝臓の役割

肝臓はタンパク質分解によって生じるアンモニアの処理において中心的な役割を担っています。消化管で食物由来のアミノ酸が腸内細菌により脱アミノ化されたり、尿素が細菌や腸管粘膜に存在するウレアーゼの作用により分解されたり、グルタミンが肝臓や腎臓で脱アミノ化されることでアンモニアが生成されます。これらのアンモニアは門脈を通じて肝臓に運ばれ、尿素回路で処理されます。

参考)https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/526676.pdf


肝臓は非常に大きな処理予備能を持っているため、多量の筋肉崩壊をきたした場合などを除き、アンモニアの生成が亢進するだけで高アンモニア血症をきたすことは稀です。つまり、高アンモニア血症の大半は肝臓の処理能力の低下、または門脈血が肝循環を経ずに体循環に流入する病態によって発症します。このことから、血中アンモニア値は肝機能の重要な指標として臨床的に利用されています。​
各組織で生成したアンモニアの窒素は、グルタミンまたはアラニンとして血流で肝臓に運ばれます。肝臓においてこれらのアミノ酸は、アミノ基転移でグルタミン酸に変換された後、酸化的脱アミノでアンモニアが遊離され、尿素回路で尿素に変えられます。グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)は、このアンモニア処理において特に重要な酵素であり、ミトコンドリア・マトリックスに局在してNAD+またはNADP+を補酵素として利用します。

参考)http://www.fujita-hu.ac.jp/~nharada/glyco1.html

タンパク質分解産物の代謝と体内での再利用

余剰のタンパク質は、糖質や脂質のように体内の組織に蓄積しておくことはできません。体内でアミノ酸が過剰になると、分解して排泄される必要があります。アミノ酸は窒素化合物であり、グルタミン酸脱水素酵素によってアミノ酸からアミノ基が離脱すると、アンモニアになります。アンモニアの一部はアンモニウム塩として尿中に排泄されますが、大半は肝臓で尿素に変換されて無毒化され、尿中に排泄されます。​
興味深いことに、最近の研究では、アンモニアは単なる代謝廃棄物ではなく、特定の状況下では再利用される可能性が示されています。がん細胞においては、アンモニアがグルタミン酸デヒドロゲナーゼの還元的アミノ化反応により、再びアミノ酸の合成に利用されることが報告されています。この代謝のリサイクルにより、急速に増殖する細胞は窒素源を効率的に活用していると考えられています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5748897/


アミノ酸の炭素骨格部分は、アミノ基が除去された後、エネルギー源として利用されるか、糖新生や脂肪酸合成の材料となります。アミノ酸から生じたα-ケト酸は、TCA回路(クエン酸回路)の中間体へと変換され、最終的に二酸化炭素と水にまで分解されてエネルギーを生み出します。このように、タンパク質分解産物は窒素部分と炭素部分が別々の経路で処理され、体内で効率的に代謝されているのです。​

高アンモニア血症の治療とタンパク質摂取の管理

高アンモニア血症の治療には、主に薬物療法が用いられます。その上で、肝臓に負担がかからないようにタンパク質の摂取量を制限することが重要です。過剰なタンパク質摂取はアンモニアの産生を増加させるため、医師や管理栄養士の指導のもとで適切な量に調整する必要があります。​
アンモニアを体外に排出するために人工透析を行うこともあります。透析は、血中のアンモニア濃度を速やかに低下させることができる効果的な治療法です。また、肝臓の病気が原因で高アンモニア血症になっている場合は、肝臓を移植することによる根本的な治療法もあります。​
BCAA(分岐鎖アミノ酸)製剤の投与も治療選択肢の一つです。BCAA製剤の静注は肝性脳症の精神症状を速やかに改善させる効果があるというメタアナリシスの結果が報告されています。また、腎機能低下時には尿素が尿中に排泄される量が減少し、血中の尿素窒素(BUN)の値が上昇するため、腎機能の指標としても測定されます。

参考)腎機能を調べる|健康ちょっとメモ|ダイハツ健康保険組合


日暮里医院 – 高アンモニア血症とは|原因や症状、検査、治療法

高アンモニア血症の詳しい症状、検査方法、治療法について解説されています。

栄養学の基礎がわかる事典 – アンモニアの尿素化

尿素回路の詳細なメカニズムと関連酵素について、図解付きで分かりやすく説明されています。