小球性貧血と鉄欠乏性貧血の違い

小球性貧血と鉄欠乏性貧血の違い

この記事のポイント
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小球性貧血は分類の一つ

赤血球が小さくなる貧血の総称で、複数の原因疾患が含まれます

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鉄欠乏性貧血は最多の原因

小球性貧血の中で最も頻度が高く、鉄不足により発症します

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検査値で原因を特定

血清フェリチンやTIBC、血清鉄などの検査で鑑別診断が可能です

小球性貧血の定義と分類

小球性貧血とは、赤血球の大きさを示す平均赤血球容積(MCV)が80 fL未満となる貧血の総称です。貧血はMCVの値によって小球性、正球性、大球性の3つに分類され、この分類は貧血の原因を特定する上で極めて有用な指標となります。小球性貧血の原因疾患には、鉄欠乏性貧血の他に、鉄芽球性貧血、サラセミア、慢性疾患に伴う貧血(ACD)などが含まれます。

参考)https://nara.med.or.jp/for_residents/8779/


小球性貧血では、ヘモグロビンの合成に必要な成分(鉄、プロトポルフィリン、グロビン)のいずれかが不足することで、赤血球が小型化します。ヘモグロビンは酸素を運ぶ赤血球の主要タンパク質であり、ヘムとグロビンから構成されています。このヘム合成に鉄が必要不可欠であるため、鉄が不足すると赤血球内のヘモグロビン含有量が低下し、結果として赤血球が小さくなるのです。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7727536/


小球性貧血の鑑別には、血清鉄、総鉄結合能(TIBC)、血清フェリチンなどの検査が用いられます。これらの検査値のパターンから、原因疾患を特定することが可能です。例えば鉄欠乏性貧血では血清鉄が低下しTIBCが上昇しますが、慢性疾患に伴う貧血では両方とも低下するという違いがあります。

参考)鉄欠乏性貧血の診断について|医師が解説する検査と診断基準

鉄欠乏性貧血の特徴と診断基準

鉄欠乏性貧血は小球性貧血の中で最も頻度が高い疾患であり、文字通り体内の鉄分が不足することで発症します。診断基準としては、ヘモグロビン値12 g/dL未満、総鉄結合能(TIBC)360 μg/dL以上、血清フェリチン12 ng/mL未満という3つの条件を満たすことが必要です。鉄欠乏性貧血は一般的に小球性低色素性貧血を呈しますが、ビタミンB12欠乏や肝障害が併存する場合、相殺されて小球性を呈さないこともあるため注意が必要です。

参考)貧血の原因を特定!(小球性貧血・正球性貧血・大球性貧血とは?…


血清フェリチンは鉄を貯蔵する高分子タンパク質で、体内の貯蔵鉄量を反映します。鉄不足になると、フェリチンの減少→血清鉄の減少→ヘモグロビンの減少という順序で進行するため、フェリチン検査により表向きは貧血でなくても最終的に貧血になる可能性のある「隠れ鉄欠乏症」を早期発見できます。ただし発熱や感染症がある場合には血清フェリチンが異常高値となり貯蔵鉄量を反映しないことがあるため、解釈には注意が必要です。

参考)鉄分不足の症状は?フェリチンとは|ララクリニック柏の葉|柏市


鉄欠乏の原因としては、慢性出血(消化管出血、月経過多など)、鉄摂取不足、成長期の鉄需要増加などが挙げられます。特に男性や閉経後女性では消化管悪性腫瘍の可能性を考慮し、便潜血検査や内視鏡検査を行うことが重要です。若年女性の場合は月経関連や過度な減量が原因となることが多いとされています。

参考)【もう迷わない!】貧血マネジメント④「小球性貧血の鑑別」(聖…

小球性貧血の他の原因疾患との鑑別

小球性貧血の原因として鉄欠乏性貧血以外に重要なのが、サラセミア、鉄芽球性貧血、慢性疾患に伴う貧血です。サラセミアは劣性遺伝(常染色体劣性)によって遺伝する貧血の一群で、遺伝子異常によりグロビン合成が障害されます。血液検査では小球性低色素性貧血を呈しますが、鉄代謝は正常またはむしろ鉄過剰となることが鉄欠乏性貧血との大きな違いです。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7342347/


鉄芽球性貧血は、鉄は豊富にあるにもかかわらずヘム合成の障害により鉄が利用できない病態です。骨髄検査で環形鉄芽球が確認されることが診断の決め手となります。遺伝性と後天性(骨髄異形成症候群など)があり、血清鉄とフェリチンが高値を示すことが特徴です。慢性疾患に伴う貧血(ACD)は、慢性の炎症、感染症、悪性腫瘍などに伴って生じ、小球性または正球性を呈します。

参考)小球性貧血のお話


これらの鑑別には、血清鉄、TIBC、血清フェリチンの組み合わせが有用です。鉄欠乏性貧血ではTIBC上昇・血清鉄低下・フェリチン低下、慢性疾患に伴う貧血ではTIBC低下・血清鉄低下・フェリチン上昇、サラセミアや鉄芽球性貧血ではTIBC低下・血清鉄上昇・フェリチン上昇というパターンを示します。またサラセミアの鑑別にはMentzer index(MCV÷赤血球数)が参考になり、13未満でサラセミアが疑われます。

参考)https://www.city.fukuoka.med.or.jp/kensa/ensinbunri/enshin_42_x.pdf

鉄欠乏性貧血の症状と検査所見

鉄欠乏性貧血の症状としては、疲れやすい、動悸がする、息苦しい、顔色が悪いなどの一般的な貧血症状が見られます。しかし症状の進行が緩やかな場合は健康診断で指摘されるまで気付かないことも多くあります。鉄欠乏状態が長期間続くと、爪がスプーン状に変形する特徴的な所見が現れることがあります。​
血液検査では、小球性低色素性貧血の所見に加えて、血清鉄の低下、総鉄結合能(TIBC)の上昇、不飽和鉄結合能(UIBC)の上昇、血清フェリチンの低下が認められます。ヘモグロビン値で貧血の程度を判断し、赤血球指標(MCV、MCH、MCHC)で小球性・低色素性の判別を行います。MCVは平均赤血球容積、MCHは平均赤血球ヘモグロビン量、MCHCは平均赤血球血色素濃度を示します。

参考)https://med.nippon-shinyaku.co.jp/ida/disease_info/detail03/


鉄欠乏性貧血と診断された場合、原因疾患の検索が極めて重要です。胃や腸の病気による出血が続いている可能性があるため、便潜血検査や消化管内視鏡検査が推奨されます。女性の場合は子宮筋腫などの婦人科疾患が原因となることもあるため、婦人科受診も必要です。成長期の中高校生も鉄欠乏性貧血をきたすことがあり、この場合は成長に伴う鉄需要増加が原因と考えられます。​

鉄欠乏性貧血の治療と管理

鉄欠乏性貧血の治療は、鉄剤による補充療法と原因疾患の治療、そして食事療法の3つが柱となります。鉄剤治療が基本であり、食事だけでは1日約10 mgの鉄分しか摂取できませんが、鉄剤では1日100 mg以上補充できるため、効率的に症状改善が図れます。経口鉄剤にはフェロミアクエン酸第一鉄Na錠)、フェロ・グラデュメット、フェルムカプセル、インクレミンシロップなどがあります。

参考)鉄欠乏性貧血は、鉄剤での治療が必須です


鉄剤を服用すると1~2週間で効果が現れますが、完治には約6ヶ月を要します。ヘモグロビンを正常値にするまでに約3ヶ月、さらに貯蔵鉄を増やすために約3ヶ月の服用継続が必要です。症状が改善したからといって自己判断で中止すると再発の危険があるため、医師の指示通りに服用を続けることが重要です。鉄剤の副作用として吐き気などの消化器症状が出ることがあり、その場合は食後服用、用量調整、制吐剤併用などの工夫が必要です。

参考)鉄分不足による貧血「鉄欠乏性貧血」の原因や食事・治療について…


食事療法では、鉄を多く含む食品を十分に摂取することが推奨されます。鉄には動物性食品に含まれるヘム鉄と植物性食品に含まれる非ヘム鉄があり、ヘム鉄の方が吸収率が高いため、肉類、魚類、レバーなどを積極的に摂取することが望ましいです。またビタミンCは鉄吸収を促進するため、柑橘類や野菜と一緒に摂取すると効果的です。経口鉄剤でどうしても副作用が強い場合は、注射による鉄剤投与も選択肢となり、効率的かつ副作用も少ない方法です。

参考)鉄欠乏性貧血にいい食事

小球性貧血診断における独自の臨床アプローチ

小球性貧血の診断において見落とされがちなのが、複数の病態が併存するケースです。例えば鉄欠乏性貧血とビタミンB12欠乏(大球性貧血の原因)が同時に存在する場合、MCVが正常範囲内になり小球性貧血として検出されないことがあります。このような場合、貧血の原因を見誤る可能性があるため、フェリチンやビタミンB12の測定を併用することが診断精度向上につながります。​
また鉄代謝の評価には、時間的な変化も重要な情報となります。鉄欠乏の程度によって、鉄調節ホルモンであるヘプシジンの分泌レベルが変化し、経口鉄剤の吸収効率に影響を与えることが研究で示されています。重度の鉄欠乏性貧血ではヘプシジンが低下し鉄吸収が促進される一方、軽度の鉄欠乏や貯蔵鉄不足の状態ではヘプシジンが相対的に高く鉄吸収が抑制されるため、治療反応性に個人差が生じます。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8293009/


さらに小球性貧血の鑑別において、家族歴の聴取も重要です。サラセミアは遺伝性疾患であり、地域特性や家族内発症のパターンから診断の手がかりが得られることがあります。特に東南アジアや地中海沿岸地域にルーツを持つ患者では、サラセミアの可能性を積極的に考慮すべきです。鉄剤治療に反応しない小球性貧血の場合は、サラセミアや鉄芽球性貧血などの可能性を検討し、必要に応じて遺伝子検査や骨髄検査を実施することが診断確定に必要となります。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7348491/


<参考リンク>

鉄欠乏性貧血の診断基準と検査値の解釈について詳しく解説されています:

鉄欠乏性貧血の診断について – まえだクリニック

小球性貧血の鑑別診断のフローチャートと各疾患の特徴がまとめられています:

【もう迷わない!】貧血マネジメント④「小球性貧血の鑑別」- HOKUTO

鉄欠乏性貧血の治療方針と鉄剤使用のガイドラインが記載されています:

鉄欠乏性貧血の診断と治療 – 日本新薬