摂食嚥下とは 5期のプロセスと障害

摂食嚥下の5期のプロセス

摂食嚥下の5つの段階
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先行期(認知期)

食べ物を目で見て認識し、口に入れるまでの段階

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準備期(咀嚼期)

食べ物を口に入れて咀嚼し、飲み込みやすい食塊を形成する段階

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口腔期・咽頭期・食道期

舌で食塊を咽頭へ送り、食道を経て胃へ運ぶ段階

摂食嚥下の先行期とは

先行期は、食べ物を目で見て認識し、口に運ぶまでの段階を指します。この時期には視覚情報や嗅覚から食べ物を認識し、唾液分泌が促進されて食事の準備が整います。認知症高次脳機能障害のある方では、目の前に食べ物があっても食べ始めることができない、食べ物を掴んでも上手く口に運べないといった先行期障害が起こることがあります。また片麻痺関節可動域制限などの上肢機能の問題で食具を口まで運べない場合も、先行期の障害に含まれます。

参考)摂食と嚥下


対策としては、食事の彩りや香りを工夫して食べ物を認識しやすくする、食器に華やかさや季節感を持たせる、意識障害の原因となる薬剤を見直すなどの方法があります。さらに食事介助や自助具の工夫、上肢機能に対するリハビリテーションも有効です。

参考)https://www.minnanokaigo.com/news/kaigo-text/oral-care/no20/

摂食嚥下の準備期における咀嚼

準備期は、食べ物を口腔内に入れて咀嚼する段階です。咀嚼には食塊形成・消化吸収促進作用・味覚伝達作用という3つの重要な役割があります。食塊形成は、硬い食べ物を粉砕して唾液と混合し、飲み込みやすい形態に変化させる機能で、これが不十分だと誤嚥や窒息の原因となります。消化吸収促進作用は咀嚼によって食べ物を粉砕し、唾液や胃液の分泌を促して消化を助ける働きです。

参考)基礎知識 摂食嚥下のメカニズム 摂食嚥下のメカニズム


味覚伝達作用により、咀嚼することで舌が味を感じやすくなり、歯根膜で「カリカリ」「パリパリ」といった食感を楽しむことができます。高齢者では咀嚼機能の低下により、食事の楽しみが減少し、栄養摂取が不十分になるリスクがあります。咀嚼機能を維持するためには、日頃から硬めの食材を取り入れたり、口腔周囲筋のトレーニングを行うことが推奨されます。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10814519/

摂食嚥下の口腔期と咽頭期の機能

口腔期は、咀嚼した食塊を舌によって咽頭へ送り込む段階です。この段階では舌の機能が極めて重要で、舌の運動機能が低下するとうまく食塊を送り込めず、誤嚥や窒息の原因となります。パーキンソン病の患者では舌の運動機能低下により、なかなか嚥下が起こらない症状が見られます。対策として舌圧を鍛えるトレーニングや、舌接触補助床(PAP)という補綴装置の利用、リクライニング30度の姿勢調整により重力を利用して送り込みを補助する方法があります。​
咽頭期は、約0.5秒という短時間の間に食塊を咽頭から食道へ運ぶ段階で、嚥下反射が起こります。この時、喉頭蓋が閉じて気管への侵入を防ぎます。脳卒中や神経疾患で嚥下反射が低下した場合、とろみをつけて食塊の流動性を低下させたり、姿勢を調整して誤嚥しにくくする代償手段が用いられます。食道期では、食道の蠕動運動により食塊が胃へ送られ、上食道括約筋が収縮して逆流を防ぎます。

参考)始めてみよう, 嚥下診療「いつまでも健康で美味しく食べる」た…

摂食嚥下障害のスクリーニング検査

摂食嚥下障害の早期発見には、スクリーニング検査が重要です。代表的な検査として反復唾液嚥下テスト(RSST)があり、30秒間に唾液を何回飲み込めるかを計測します。飲み込めた回数が2回以下の場合、摂食嚥下障害の可能性が高いと判断されます。

参考)摂食・嚥下障害の診断


改訂水飲みテストでは、少量の冷水を用いて嚥下機能を評価します。急性期の患者や重度の障害者には3mlの冷水を使い、むせや湿性嗄声の有無を確認します。フードテストは、実際の食物を用いて嚥下機能を評価する検査です。これらのスクリーニング検査は特別な設備がなくてもベッドサイドで簡単に実施でき、その後の精密検査や治療方針の決定に役立ちます。嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査は、スクリーニングで問題が疑われた際に、障害の詳細な原因や対策を検討するために実施されます。

参考)症状・原因 Q7どのようなスクリーニングの方法がありますか?…


日本摂食嚥下リハビリテーション学会による摂食嚥下障害の評価2019では、スクリーニングテストの詳細な実施方法と判定基準が解説されています

摂食嚥下障害と誤嚥性肺炎の予防

摂食嚥下障害は誤嚥性肺炎の主要な原因となります。誤嚥により口腔内の細菌が肺に入り込むことで肺炎が発症するため、口腔ケアによって口腔内を清潔に保つことが予防の第一歩です。毎食後の丁寧な歯磨きと入れ歯の洗浄を行い、未治療の虫歯や合わない入れ歯がある場合は早めに歯科受診することが推奨されます。

参考)摂食嚥下障害と誤嚥性肺炎|健康情報


食事の調整も重要で、特に水分は誤嚥しやすい性状のため、とろみ材を使用して嚥下反射が起こる前に気管に入り込むのを防ぎます。味噌汁のように液体と固体が混在する食品は嚥下が難しいため、注意が必要です。口腔リハビリとして、早口言葉やあいうべ体操、カラオケなどで口・舌・喉の筋肉を鍛えることも効果的です。また抗てんかん薬や抗精神薬は嚥下反射を抑制する可能性があるため、薬剤の見直しも検討すべきです。食後は胃食道逆流を防ぐため、30分程度は横にならないよう注意しましょう。​

摂食嚥下リハビリテーションと嚥下調整食

摂食嚥下障害のリハビリテーションは、基礎訓練と摂食訓練に大別されます。基礎訓練は食べ物を使用せずに行う訓練で、実際に食べる前に必要な筋肉を動かしたり、刺激を加えて口腔周辺の運動や感覚機能を改善します。咽頭期の機能改善には嚥下反射や嚥下機能に対する直接的なリハビリが行われますが、機能回復が不十分な場合は代償手段を検討します。

参考)嚥下障害のリハビリテーション(基礎訓練)


嚥下調整食は、患者の嚥下機能に応じて形態を調整した食事です。日本摂食嚥下リハビリテーション学会の嚥下調整食分類2021では、原則として段階を形態のみで示し、量や栄養成分は設定していません。金谷節子氏が発表した嚥下ピラミッドでは、摂食嚥下の難易度に基づき、普通食から嚥下食までを6段階のレベルに分類しています。訓練食(レベル0~)から始まり、段階的に食形態を上げていくことで、安全に経口摂取を進めることができます。

参考)https://healthy-food-navi.jp/?post_type=searchamp;p=75


日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021では、食事の形態分類について詳細に解説されており、臨床現場での統一した評価基準として活用されています

摂食嚥下機能と栄養管理の関連性

摂食嚥下障害は栄養状態に直接的な影響を及ぼします。嚥下困難により食欲減退・体重減少・低栄養が生じるだけでなく、誤嚥・脱水・長期的な健康問題のリスクが高まります。高齢者人口の10~33%が嚥下困難を抱えており、これが生活の質や生命予後に重大な影響を及ぼしています。

参考)https://www.mdpi.com/2304-8158/13/2/215/pdf?version=1704878429


栄養学的評価は摂食嚥下障害患者のケアにおいて不可欠です。栄養スクリーニングとアセスメントを適切に行い、患者の栄養状態を定期的にモニタリングすることで、低栄養による合併症を予防できます。サルコペニア性嚥下障害では、全身のサルコペニアに伴い嚥下関連筋の筋力低下が起こるため、骨格筋と嚥下筋の筋力・筋量を評価し、リハビリ栄養の観点から早期発見と介入を行うことが重要です。

参考)https://www.mdpi.com/2072-6643/13/3/778


栄養支援チーム(NST)による多職種連携のアプローチは、低栄養の高齢入院患者に対して、栄養摂取方法の改善と口腔健康管理の両面から効果を発揮します。食事摂取量が不十分な場合は、栄養補助食品の活用や経腸栄養の検討も必要となります。摂食嚥下機能の維持・向上のためには、リハビリだけでなく適切な栄養管理が不可欠であり、両者を統合したアプローチが求められます。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9408202/