唾液腺の腫れと原因
唾液腺が腫れる原因は大きく分けて炎症、腫瘍、のう胞の3つに分類されます。唾液腺は耳の下にある耳下腺、顎の下にある顎下腺、舌の下にある舌下腺を総称する大唾液腺と、口腔粘膜に数百個ほどある小唾液腺に分けられ、主に大唾液腺に炎症が生じることが多いです。耳下腺の発症が最も多く、顎下腺にも好発しますが、舌下腺に発症することは比較的まれとされています。
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唾液腺の腫れは、片側または両側に現れ、痛み、発熱などの症状を伴うことがあります。腫れの原因となる病気によって症状の現れ方や治療法が大きく異なるため、早期に医療機関を受診して正確な診断を受けることが重要です。
参考)耳下腺炎・顎下腺炎 – おおはた耳鼻咽喉科クリニック|池田市…
唾液腺炎による腫れの原因
唾液腺炎は細菌性、ウイルス性、アレルギー性、自己免疫性の4つに分類されます。細菌感染が原因で起こるものを化膿性唾液腺炎、ウイルス感染が原因で起こるものを無菌性唾液腺炎といいます。
化膿性唾液腺炎は、口腔内細菌の感染が原因となることが多く、唾液の分泌が少ない時に発生しやすい病気です。口の中にいる菌(常在菌)が唾液の出口から逆行し、唾液腺の中に侵入して炎症を起こします。細菌培養検査で原因菌を特定し、黄色ブドウ球菌に対して効果のある抗生物質を内服することで治療が行われます。
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ウイルス性唾液腺炎の代表例として、ムンプスウイルスが原因で起こる流行性耳下腺炎(おたふく風邪)があります。流行性耳下腺炎は3~6歳までの小児に多く、両側の耳下腺の腫れと1週間程度の発熱が続きます。2~3週間の潜伏期を経て、唾液腺の腫脹・圧痛、嚥下痛、発熱を主症状として発症します。腫れは1~3日でピークに達し、3~7日で軽快します。大人になって感染した場合には、精巣炎や髄膜炎を合併し、重症化することがあるので注意が必要です。
参考)流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)|国立健康危機管理研…
唾液腺の腫瘍が原因の腫れ
唾液腺腫瘍は、耳下腺、顎下腺、舌下腺や口腔内の小唾液腺に発生する腫瘍を指します。腫瘍には良性と悪性があり、その割合はおおよそ8:1~9:1で良性腫瘍が多いです。約85%の唾液腺腫瘍が耳下腺において発生し、次いで顎下腺と小唾液腺に生じ、約1%が舌下腺に生じます。
良性腫瘍の症状としては、耳の下や顎の下などに無痛性の腫れやしこりが現れる場合が多いです。増殖が遅く、可動性で、無痛であり、通常は正常な皮膚または粘膜下の単発性結節として現れます。最も一般的な良性の唾液腺腫瘍は多形腺腫(混合腫瘍)で、その他の良性腫瘍としては、乳頭状嚢腺リンパ腫(Warthin腫瘍)、オンコサイトーマ、腺腫などがあります。
参考)唾液腺腫瘍 – 16. 耳鼻咽喉疾患 – MSDマニュアル …
悪性腫瘍では、腫れた部位が痛んだり、周囲組織を圧迫することがあります。耳下腺に悪性腫瘍が発生した場合、顔面神経麻痺などの症状が現れることがあります。何も原因がないのに痛みを伴う時は悪性腫瘍が疑われます。一般に、大きな唾液腺よりも小さな唾液腺の方が悪性腫瘍のリスクが高く、例えば耳下腺は小唾液腺よりも悪性腫瘍のリスクが低いとされています。
唾石症と唾液腺の腫れ
唾石症とは、唾液に含まれるカルシウム塩が固まってできた唾石(結石)が唾液管を狭窄あるいは閉塞することで、唾液腺が腫れる病気です。顎下腺管は他の唾液管に比べて長く、唾石症のほとんどが顎下腺に発生します。
唾液腺や導管の中にできた石が詰まりの原因となるため、唾液が口の中に流れずうっ滞してしまい、唾液腺(あごの下)が腫れて痛みが出る症状が見られます。特に食事の時に症状が顕著に現れる傾向にあり、食事中にあごの下の腫れをくりかえすという特徴があります。唾液が多く作られる食事中に腫れや痛みが強くなるためです。
参考)耳鼻咽喉・頭頸科|唾石症|順天堂大学医学部附属順天堂医院
無症状の場合や症状が軽い場合は経過観察となり、石が小さい場合は自然に口の中へ排出されることが多いです。痛みや腫れが強い場合は細菌感染を起こしていることが考えられるため、抗菌薬を用いて炎症を抑えます。唾液の流れが悪くなり炎症を繰り返す時には、手術で唾石を摘出しなければいけないこともあります。
反復性耳下腺炎による唾液腺の腫れ
反復性耳下腺炎は、耳下腺の腫れをくりかえし起こす軽症の病気で、3歳くらいから小学校低学年にかけて発症します。未就学児(小学校に入るまで)に発症し、両側または片側の耳下腺の腫れをくりかえす特徴があります。
参考)反復性耳下腺炎 – 小児科 – かわかみ整形外科・小児科クリ…
片方だけの耳下腺が腫れるのが特徴的で、痛みはありますが、発熱はほとんどありません。おたふくかぜと異なり、発熱の症状は軽く、体温は37度台のことがほとんどで、激しい痛みを伴うこともまれなケースです。次の日には腫れは軽くなり、2~3日で自然に治ってきます。人にうつすことはありません。
原因ははっきりとは分かっていませんが、口腔からの感染、耳下腺の先天的な形態異常、免疫の異常、アレルギーなどが考えられています。口の中の弱い細菌(常在菌)が感染の原因だろうと言われています。治療は痛みに対しては鎮痛剤、感染が考えられれば抗生剤の投与を行います。炎症の予防のためにうがい、歯磨きをきちんと施行することが推奨されます。
参考)11才の子どもが耳下腺炎を繰り返しています。大きくなれば治る…
自己免疫疾患と唾液腺の腫れ
シェーグレン症候群は、慢性唾液腺炎と乾燥性角結膜炎を主徴とし、多彩な自己抗体の出現や高ガンマグロブリン血症を来す自己免疫疾患の一つです。乾燥症が主症状となりますが、唾液腺、涙腺だけでなく、全身の外分泌腺が系統的に障害されます。
参考)シェーグレン症候群(指定難病53) href=”https://www.nanbyou.or.jp/entry/267″ target=”_blank”>https://www.nanbyou.or.jp/entry/267amp;#8211; 難病情報…
患者の約3分の1では、頬にある唾液腺(耳下腺)が大きくなり、弱い圧痛がみられるようになります。口の中に焼けつくような感覚を覚える場合もあり、この症状は、ときに真菌感染と関連することがあります。シェーグレン症候群は他の膠原病の合併がみられない一次性と、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病を合併する二次性とに大別されます。
参考)シェーグレン症候群 – 08. 骨、関節、筋肉の病気 – M…
唾液腺の腫れを引き起こす自己免疫性唾液腺炎の治療では、炎症を抑えるための薬物療法が中心となります。唾液分泌を促すためのうがい薬や人工唾液の使用、唾液腺マッサージなども有効とされています。
参考リンク
日本口腔外科学会による唾液腺の疾患に関する一般向け解説ページです。唾液腺炎の分類や特徴について詳しく記載されています。
済生会による唾液腺炎の症状、原因、治療法についての解説ページです。化膿性唾液腺炎やウイルス性唾液腺炎の違いについて説明されています。
慶應義塾大学病院による唾液腺腫瘍の解説ページです。良性と悪性の割合や病理組織学的分類について記載されています。
国立感染症研究所による流行性耳下腺炎(おたふく風邪)の解説ページです。潜伏期間や症状、合併症について詳しく説明されています。
難病情報センターによるシェーグレン症候群の解説ページです。自己免疫性唾液腺炎の原因や症状について記載されています。