頭蓋変形ガイドラインと診断・治療

頭蓋変形とガイドライン

この記事のポイント
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ガイドラインの理解

頭蓋変形の診断と治療に関する国内外の最新ガイドラインを紹介し、医療機関での適切な評価方法を解説します

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診断の重要性

病的な頭蓋縫合早期癒合症と位置的頭蓋変形症の鑑別診断について、具体的な検査方法と診断基準を説明します

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治療の選択肢

体位変換やヘルメット治療、手術療法など、変形の程度や時期に応じた適切な治療法を詳しく紹介します

頭蓋変形の診断基準とガイドライン

赤ちゃんの頭蓋変形に関する診断と治療については、日本頭蓋顎顔面外科学会が中心となって作成した形成外科診療ガイドライン2021年版が重要な指針となっています。このガイドラインでは、頭蓋(骨)縫合早期癒合症の診療に関する詳細な推奨事項が記載されており、診断から治療まで包括的な内容が含まれています。

参考)ガイドライン・ガイドブック|一般社団法人 日本頭蓋顎顔面外科…


頭蓋変形は大きく分けて「頭蓋縫合早期癒合症」という病的な変形と、「位置的頭蓋変形症」という外力による変形に分類されます。頭蓋縫合早期癒合症では、本来生後18ヶ月頃に癒合する頭蓋骨縫合が早期に閉じてしまうため、骨成長が障害されて頭の歪みが生じます。一方、位置的頭蓋変形症は向き癖などで頭の同一部位が圧迫されて扁平化する外力による変形です。

参考)頭蓋変形


診断には視診・触診に加えて、頭部レントゲン撮影やCT検査が必要となることがあります。特に病的な頭蓋縫合早期癒合症を見逃さないためには、専門医による適切な評価が不可欠です。近年では3Dスキャナーを用いた客観的な形状測定も普及しており、変形の程度を数値化して評価することが可能になっています。

参考)赤ちゃんの頭のかたち外来

頭蓋変形の分類と診断方法

頭蓋変形には斜頭症、短頭症、長頭症などのタイプがあり、それぞれ特徴的な形態を示します。斜頭症は前頭部や後頭部に左右差がある状態で、短頭症は前後方向に伸びない形状、長頭症は左右方向に伸びない形状を指します。

参考)頭蓋骨変形


位置的頭蓋変形の診断においては、Argenta分類という重症度分類が広く用いられています。この分類はレベル1から4までの段階があり、変形の程度を客観的に評価する指標となっています。レベル1や2の軽症例では理学療法(体位変換)で改善が期待できますが、耳の位置やおでこにまで変形が及ぶような重症例ではヘルメット療法の検討が必要とされます。

参考)慶應義塾大学病院


診察の場での頭蓋変形の計測は容易ではないため、医療者は頭蓋変形の分類を理解し、適切に評価することが求められます。厚生労働省の資料によると、中等度以上の頭蓋変形を伴う場合は、向き癖が改善し定頸や寝返りが可能となった後でも、就眠時には重力により持続的に頭蓋の特定部位への外圧がかかり、変形が固定化しやすいとされています。

参考)https://www.shimane.med.or.jp/files/original/2023032810130391531dad1f5.pdf

頭蓋縫合早期癒合症の治療ガイドライン

頭蓋縫合早期癒合症に対する治療の主な目的は、頭蓋内容積を拡大することによる脳の発達障害の予防と、頭蓋変形の改善です。脳の発達障害を予防するためには、1歳前に手術を受けることが望ましいとされています。

参考)自治医科大学 形成外科学講座


治療方法としては、縫合切除術、頭蓋形成術、骨延長術などがあり、変形の程度と治療時期により選択されます。特に近年では、生後6ヶ月までの乳幼児期に適応のある場合、内視鏡を用いた低侵襲手術が行われることがあります。この方法では小さい傷での手術が可能で、癒合した頭蓋縫合の骨を切開し、術後に矯正ヘルメットを用いて形状を整えていきます。

参考)頭蓋縫合早期癒合症


骨延長術では、癒合した頭蓋縫合の骨を切開し、伸ばしたい方向に合わせて延長器を装着します。術後数日より1日1mmずつ延長を行い、画像検査で伸ばした隙間に骨が新しく出来ていることを確認した上で5〜6か月以降に延長器を摘出します。単一縫合の早期癒合では、1歳になるまでに手術を行えば、影響は少ないとされています。

参考)頭蓋縫合早期癒合症


日本頭蓋顎顔面外科学会の診療ガイドラインには、頭蓋縫合早期癒合症に関する最新の治療推奨が詳細に記載されており、医療従事者だけでなく患者家族にとっても有用な情報源となっています。

位置的頭蓋変形症の予防と体位変換

位置的頭蓋変形症の予防には、日常的な体位変換とタミータイムが有効です。体位変換は、ゆがみの原因になる向き癖がつかないよう、寝かせ方や抱っこの仕方を工夫する予防方法です。こまめに声をかけたり、おもちゃを使って赤ちゃんが色々な方向を向くようにすると良いでしょう。

参考)【医師監修】赤ちゃんの頭のかたちを綺麗にするには?対策や注意…


既に向き癖がある場合は、バスタオルなどを使った体位変換が推奨されます。折りたたんでぐるぐる巻きにしたバスタオルを片側の背中の下に入れ、向き癖とは逆方向に体の向きを調整します。ただし、赤ちゃんが動くようになるとバスタオルがずれてしまうこともあるため、こまめに向きを変えてあげる必要があります。​
タミータイムとは日本語で「腹ばい遊び」とも呼ばれ、赤ちゃんが起きているときにうつ伏せで過ごす時間をつくってあげることを指します。1日に2〜3回、5分程度の短い時間から始めて、徐々に時間を延ばし、1日のうち合計30〜60分程度うつ伏せで過ごす時間をつくります。日中の機嫌のよい時間帯に行うのがおすすめですが、必ずママやパパが見守りながら行いましょう。​
生活空間を向き癖と反対側に設定することも効果的な予防策です。赤ちゃんの向き癖がある側を壁にし、向き癖と反対側で家族が生活するように寝かせることで、自然と興味のある方向に顔を向けるようになります。

参考)【ヘルメットだけじゃない】乳児期の頭の形のゆがみに対する予防…

ヘルメット治療の適応と実施基準

ヘルメット治療(頭蓋形状矯正ヘルメット療法)は、位置的頭蓋変形症に対する有効な治療法として認識されています。日本頭蓋健診治療研究会では、乳幼児の頭蓋変形矯正のためのヘルメット治療についての基準を定めており、医療機関向けおよび患者様向けの情報が提供されています。

参考)https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000055706_4.pdf


ヘルメット治療は、乳児頭蓋の突出した部分に受動的に圧力を加えることで、乳児頭蓋の非対称性または形状を改善する目的で行われます。米国および欧州で実施された7件のコホート研究に基づくシステマティックレビューでは、積極的体位変換法と形状誘導ヘルメット療法の両方に有効性があるものの、後者でより短期間に非対称性が改善され、頭蓋の非対称性の改善が前者の1.3倍であったと報告されています。​
治療の適応は、変形の重症度と月齢を考慮して判断されます。基本的には入浴以外の1日23時間、約6ヶ月前後の装着が推奨されており、開始時期は頭蓋骨が柔らかく脳が大きくなるスピードが速い時期、つまり生後4〜6ヶ月頃が理想的とされています。

参考)頭蓋形状矯正ヘルメット治療とはどんなもの?ヘルメットの種類や…


厚生労働省の資料によると、変形が固定化した後の治療法は侵襲性の高い外科手術によることとなるため、早期の適切な評価と治療介入が重要であることが示されています。

頭蓋変形が発達に及ぼす影響

位置的頭蓋変形の場合、その変形が直接的に脳の発達に影響することは基本的にありません。位置的頭蓋変形症は病気ではなく、脳機能の発達に影響が出ることは基本的にないとされています。

参考)北海道立子ども総合医療・療育センター


研究によると、頭の形にゆがみがあった赤ちゃんたちも、多くは小学校に上がるころには知的・運動・言語発達ともに平均的の範囲内で成長していたことが報告されています。まれに重度の変形が発達や運動機能に影響する場合もありますが、軽度であれば脳機能への影響はないとされています。

参考)【パート1】赤ちゃんの「頭のかたち」と「発達」って関係あるの…


一方、頭蓋縫合早期癒合症では、頭蓋が拡大しないことで脳の成長発達に影響が出る可能性があります。特に複数の縫合が早期に癒合している症例では、頭蓋内圧亢進による脳の圧迫が懸念されるため、早期の手術介入が必要とされます。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/9faaa3dab69f4fba8c06725de879263aee74aea8


位置的頭蓋変形症であっても、将来的な外見上の影響や顔面・耳の左右差、噛み合わせの問題、眼鏡がかけにくいなどの問題が生じる可能性があるため、適切な時期に評価を受けることが推奨されます。変形が強くなった場合には、耳やおでこ、目、頬、あごの位置もずれることがあり、このような場合には先述の体位変換だけでは治らないことがあります。

参考)頭のかたち外来|佐久市立国保浅間総合病院(佐久市病院事業)公…

頭蓋変形診療における専門機関の役割

頭蓋変形の診療においては、専門医療機関での適切な評価が不可欠です。特に位置的頭蓋変形の診療であっても、頭蓋骨縫合早期癒合症の診断や治療を行っている施設が診療することは、病気を見逃さない点で有利と考えられています。​
初診の主な目的は、頭の骨の病気(頭蓋骨縫合早期癒合症)がないことを確認することです。病的変形かどうかの診断までは保険診療で行われ、レントゲン検査により病的な頭蓋変形でないかを確認します。

参考)大阪母子医療センター


診察では視診・触診を通して変形の診断と重症度を判定し、診察時の月齢を考慮した上でヘルメット治療の適応を判断します。近年では3Dスキャナーを用いた頭部形状の測定・解析が広く行われており、客観的な評価数値も参考にして治療方針が決定されます。​
専門医療機関では、形成外科だけでなく脳神経外科、小児科、麻酔科がチームを作り治療にあたっている施設も多くあります。このような多職種連携により、より安全で効果的な治療が提供されています。​

ヘルメット治療の実際と経過観察

ヘルメット治療を開始する際には、3Dスキャナー撮影データをもとに、現在の変形した形から矯正後の最終的な頭の形を想定したオーダーメイドのヘルメットが作成されます。治療申し込み時から2週間前後でヘルメット装着が開始されます。​
治療期間中は約4週間ごとに診察が行われ、装着から1ヶ月、卒業時に3Dスキャン検査を実施してヘルメットの装着状況や矯正による頭蓋変形を確認します。また頭の成長や矯正された改善度に合わせてヘルメットの再調整が行われます。​
治療終了時期は、矯正された頭蓋変形の改善度、頭蓋成長の度合い、治療に必要な装着時間の確保の有無などを基に専門医が判断します。平均的な治療期間は約6ヶ月ですが、赤ちゃんの頭の状態や治療の進行状況によって治療期間は変わるため、あくまで目安として考える必要があります。​
ヘルメット治療は保険適用外の自費診療となりますが、頭蓋骨が柔らかく脳が大きくなるスピードが速いうちに治療を開始することで、より効果的な矯正が期待できます。そのためできるだけ早く診断を受けることが重要です。

参考)頭蓋変形について |赤ちゃんの頭の形クリニック|港区赤坂

頭蓋変形診療における最新の知見

近年、位置的頭蓋変形症への関心が高まっており、乳幼児健診の場でも適切な評価と指導が求められるようになっています。第2版「小児の頭蓋健診・治療ハンドブック」では、頭蓋変形のメカニズム、位置的頭蓋変形と病的な変形の鑑別診断、ヘルメット矯正治療の実際などについて詳しく解説されています。

参考)m3電子書籍


産前・産後の助産師によるかかわりも重要視されており、乳幼児健診時および一般医療機関での頭蓋変形への対応についても標準化が進められています。頭蓋変形の進行および診察法、頭蓋変形への介入および専門医療機関への紹介といった実践的な内容が、医療従事者向けのハンドブックに盛り込まれています。​
病的疾患群に対するヘルメット矯正治療の適用や、矯正効果期待値、矯正ヘルメット装着中の児へのケア・留意点なども研究が進んでおり、ヘルメット矯正治療の課題と展望についても議論されています。日本で医療機器として認可を受けているヘルメットの種類や特徴についても情報が整理されています。​
小児の頭蓋健診・治療ハンドブックの第2版には、乳児健診や外来にやって来るお母さんたちの不安を取り除くための情報が数多く携えられており、医療スタッフの必携書として活用されています。