クリーンベンチと安全キャビネットとドラフトの違い
クリーンベンチの構造と用途
クリーンベンチは、HEPAフィルターを通した清浄空気を作業台内に送り込むことで、局所的に高い清浄度を実現する装置です。庫内は陽圧に維持され、エリア内からエリア外に向かう気流によって空気中のほこりや微生物の侵入を防いでいます。HEPAフィルターは粒子径が0.3μmの微粒子を99.97%の捕集率で除去できる高性能フィルターで、ダニや花粉、ハウスダスト、カビの胞子、PM2.5、細菌などを効率的に捕集します。
参考)https://www.ikedarika.co.jp/ikeda_bureau/contents/draft_chamber202308.html
主な用途は細胞培養や微生物を取り扱う際の無菌操作です。電子分野からバイオ分野まで幅広く使用され、清浄度の低い室内でも局所的に清浄度の高い環境を作り出せます。ただし、エリア内の空気を封じ込める機能はないため、ドラフトチャンバーのように有機溶剤や特定化学物質などの有害物質を取り扱うことはできません。遺伝子組み換え生物や病原体の扱いにも不適です。
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クリーンベンチには垂直層流式と水平層流式の2種類があり、用途に応じて選択します。細胞培養などでコンタミネーションを避けて無菌操作を行う際や、半導体製造などの高い清浄度が求められる作業で用いられます。
安全キャビネットのクラス分類と機能
安全キャビネット(バイオハザード対策用キャビネット)は、病原微生物や感染性物質を扱う際に作業者、環境、試料の3つを保護することを目的とした装置です。クラスI、クラスII、クラスIIIの3つに分類され、クラスIIはさらにタイプA1、A2、B1、B2の4種類に細分化されます。
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クラスIは換気型で、前面開口部から空気を取り入れHEPAフィルターで浄化して排気します。クラスIIは最もスタンダードなタイプで、感染性微生物の取り扱い、細胞培養、無菌調剤等の作業に活用できます。庫内は陰圧に保たれ、給気と排気の両方にHEPAフィルターを通すことで、庫内を無菌状態にするだけでなく装置内部の微生物が空気中に漏れ出ることを防ぎます。
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タイプA1は平均流入風速が0.38m/s以上を維持し、生物材料もしくは不揮発性有害物質を取り扱う際に適しています。タイプB2は空気の再循環を行わないため、微生物学的研究プロセスにおいて毒性化学物質を使用する作業に適しています。研究所での病原微生物研究、再生医療、医薬品工場などで用いられます。
参考)クリーンベンチ/安全キャビネット/アイソレータ|製品の特徴|…
安全キャビネットの価格帯は、クラスIIタイプA2で約133万円から、タイプB2で約205万円から、上位機種では約234万円以上と幅があります。
参考)安全キャビネット
ドラフトチャンバーの排気構造と保護機能
ドラフトチャンバー(ヒュームフード)は、有害な化学物質のガスや蒸気から作業者と室内環境を保護することを目的とした局所排気装置です。化学実験などで有害な気体が発生するときや、揮発性の有害物質を取り扱うときに安全のために用いられます。
基本構造は、前面開口部から庫内の空気を吸引し、フィルターやスクラバーで処理してから屋外に排気する方式です。排気がメインの装置であり、有害な空気を吸い込む装置です。ドラフトチャンバーには標準タイプ、エアカーテンタイプ、VAVタイプなどがあり、VAVタイプは排気量をサッシの開閉で制御し前面風速を常に一定に保てるため安全性に優れています。
参考)https://jimubu.adm.s.u-tokyo.ac.jp/public/images/f/f3/Draft.pdf
発生するガスに応じて材質を選ぶ必要があり、塩化ビニール製、スチール製、ステンレス製などがあります。ダクトレスヒュームフードは室外に空気を排出しないため、排気を補うための給気を行う必要がなく、空調負荷が大きく抑えられ省エネ性の向上が期待できます。
参考)ヒュームフード(ドラフトチャンバー)は構造によってルールが異…
局所排気装置としてドラフトチャンバーは労働安全衛生法により1年以内に1回の定期自主検査が義務づけられており、前面風速の測定やスモークガステストなどの点検が必要です。
参考)局所排気装置の定期自主検査は義務!点検項目と怠った場合のリス…
クリーンベンチの清浄度維持とメンテナンス
クリーンベンチの性能を維持するには定期的なメンテナンスが不可欠です。無菌医薬品製造のためのクリーンベンチなどの清浄区域の点検は、年1回の定期点検が推奨されます。定期点検の主な項目は、HEPAフィルタリーク試験、清浄度測定、作業台内風速測定などで、これらの検査により清浄度が維持され検体への外部雑菌の混入を防げます。
参考)https://library.hitachi-ies.co.jp/assets/pdf/T-089.pdf
使用前には1時間前から殺菌用ランプ(UV)を点灯させ庫内を除菌します。UV殺菌時間はランプによって異なりますが、一般的には15分から30分程度です。作業前には殺菌用ランプを消灯し、ドアを20cm開けて5分放置した後、クリーンベンチに消毒剤を吹き付けます。
参考)https://www.corning.com/jp/jp/products/life-sciences/resources/webinars/japan-webinar/cc1-faq.html
作業者自身も滅菌作業が必要で、爪を切り、手を洗い、肘から下を消毒してから使用します。クリーンベンチ庫内を陽圧にして、HEPAフィルターを通した清浄な空気を水平または垂直に流すことでサンプルを無菌状態に保ちますが、作業者の保護機能はありません。
参考)クリーンベンチとは?導入前に知っておきたい構造・種類と使い方…
定期点検には予防保全により復旧までの不稼働時間の削減、メンテナンス費用の平準化、コンタミネーション防止といったメリットがあります。専門の教育・訓練を受けたサービスエンジニアによる点検が推奨されます。
3つの装置の使い分けと実験室での選択基準
クリーンベンチ、安全キャビネット、ドラフトチャンバーは見た目が似ていますが、用途や機能が大きく異なります。一般的に安全な細胞を扱う場合はクリーンベンチ、感染性がある場合には安全キャビネットを使う必要があります。細胞培養のための実験室としてはP1実験室レベルの環境であれば問題ありませんが、取り扱う細胞の拡散防止に必要な設備(P1、P2など)で判断します。
表形式での比較:
| 装置名 | 主な目的 | 気流方向 | 保護対象 | 適した作業 |
|---|---|---|---|---|
| クリーンベンチ | 試料保護 | 陽圧(内→外) | 試料のみ | 細胞培養、無菌操作 |
| 安全キャビネット | 封じ込め | 陰圧(外→内) | 作業者・環境・試料 | 病原微生物、遺伝子組換え生物 |
| ドラフトチャンバー | 作業者保護 | 排気(内→外) | 作業者・室内環境 | 有害化学物質、揮発性物質 |
クリーンベンチは排気にフィルターがないため内部試料が漏出する恐れがあり、遺伝子組み換え生物や病原体の扱いには不適です。HEPAフィルターは粒子状の物質や感染性の物質を捕集するには効果的ですが、揮発性の化学物質やガスを捕集することはできません。
参考)安全キャビネットとクリーンベンチの違い|オリエンタル技研工業…
ドラフトチャンバーは作業者の安全確保を目的とし、有害ガスから作業者と室内環境を保護します。一方クリーンベンチは庫内を清浄に保つことが目的で、きれいな空気を内部に送る装置であり、有害な空気を吸い込む装置ではありません。
実験内容に応じて適切な装置を選択することが、作業の安全性と実験の成功率を高める重要なポイントとなります。
参考)安全キャビネットとは?クラス分類やクリーンベンチとの違いも解…
<参考リンク>
安全キャビネットとは?クラス分類やクリーンベンチとの違いも解説 | AZ Science
安全キャビネットの概要とクラス分類、クリーンベンチとドラフトチャンバーとの違いを網羅的に解説しています。
安全キャビネットとは?クラス分類ごとの特徴とクリーンベンチとの違い | オリエンタル技研工業
JIS規格に基づく安全キャビネットのクラスII各タイプの詳細な分類表と特徴が掲載されています。
ドラフトチャンバーとは?種類・原理・選び方・おすすめメーカー | 池田理化
ドラフトチャンバーの基本原理から選び方まで、実用的な情報が詳しくまとめられています。