色覚異常の種類と錐体細胞の関係
色覚異常の1型色覚とL錐体の異常メカニズム
色覚異常の1型は、赤などの長波長の光に感度が高いL錐体の機能不全または欠損により発生します。日本人男性の約1%に見られ、先天性色覚異常全体の約25%を占めるタイプです。
1型色覚の特徴的な症状として、黄緑と橙、緑と茶や灰色、青と紫、ピンクと灰色、ピンクと水色などの色を混同しやすい点が挙げられます。さらに、2型色覚と異なる重要な特徴として、赤色が薄暗く見えるという視覚特性があります。
参考)色覚異常について|てるばやし眼科(枚方市・樟葉駅すぐ)
L錐体の波長感度特性は、実際には566nmにピークを持ち、これは黄緑色に相当する波長なんです。つまり、L錐体を「赤錐体」と呼ぶのは誤解を招きやすく、専門的にはLMS錐体という呼称が推奨されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/vision/32/4/32_123/_pdf/-char/ja
色覚異常の2型色覚とM錐体の機能異常
2型色覚は、緑などの中波長の光に感度が高いM錐体の機能不全または欠損によって引き起こされます。日本人男性の約4%に見られ、先天性色覚異常の約75%を占める最も多いタイプです。
参考)ガイドライン/大阪府(おおさかふ)ホームページ [Osaka…
2型色覚の患者は、黄緑と橙、緑と茶や灰色、青と紫、ピンクと灰色などを混同しやすい傾向があります。1型色覚と異なり、緑色は通常の明るさに見え、薄暗くはならないという特徴があります。
M錐体の感度ピークは541nmであり、これは緑色の波長に対応しています。2型色覚を持つ人は、M錐体を持っているがその感度がL錐体に近い場合と、M錐体を完全に欠損している場合があり、この違いが症状の強度に影響を与えます。
参考)色彩検定 UC級を学ぶ(色覚タイプによる色の見え方編)
色覚異常の3型色覚と希少性の理由
3型色覚は、青などの短波長の光に感度が高いS錐体の機能不全または欠損により発生しますが、非常にまれなタイプです。S錐体の感度ピークは441nmで、紫がかった青色の波長に対応しています。
参考)男の子に多いのなぜ?日本人男子の20人に1人はいるといわれる…
3型色覚の希少性には遺伝学的な理由があります。1型・2型色覚の原因遺伝子がX染色体上に存在し、伴性劣性遺伝するのに対し、3型色覚の原因遺伝子は常染色体に存在し、劣性遺伝でホモ接合体のみが表現型を生じるため、その頻度は数万人に1人程度になります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10428128/
また、3型色覚は先天性よりも目の病気など後天性の場合が多いという特徴があります。後天性色覚異常は、薬物毒性と関連することがあり、クロロキンやヒドロキシクロロキン、ジゴキシン、エタンブトールなどの薬剤が原因となることが報告されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11749246/
色覚異常の2色覚と3色覚の医学的分類
色覚異常は、錐体の欠損状態によって2色覚と異常3色覚に細分化されます。2色覚は、3種類の視細胞のうち1つが完全に欠けている状態で、以前は俗に「色盲」と呼ばれていました。
参考)色覚検査
1型2色覚は赤を感じる視細胞がない状態、2型2色覚は緑を感じる視細胞がない状態を指します。これらの患者は、赤い光と緑の光を混合した際の知覚が大きく異なり、アノマロスコープ検査で確定診断が可能です。
参考)色覚検査とは?具体的な検査内容などを画像つきで徹底解説!
異常3色覚は、一般的に色弱とも呼ばれ、3種類の視細胞のうち、いずれかの機能が正常とは異なって起こる状態です。赤を感じる視細胞に問題があると1型3色覚、緑を感じる視細胞の場合は2型3色覚となります。異常3色覚の患者は、錐体を持っているものの、その感度が正常とは異なるため、色の識別が困難になります。
1色覚は、3種類の錐体がすべて機能しない場合や1種類だけ残っている場合で、視力も悪く、見るものすべてがほぼモノクロの世界と考えられています。以前は「全色盲」と呼ばれていましたが、現在では医学的に1色覚という用語が使用されています。
色覚異常の遺伝形式とX染色体劣性遺伝
色覚異常は、X染色体劣性遺伝によって遺伝します。性別を決める染色体には、X染色体とY染色体があり、男性はXとYを1つずつ持ち、Xは母親から、Yは父親から受け継ぎます。
参考)色弱者の遺伝の仕組みについて – タカラサプライコミュニケー…
男性はXを1つしか持っていないため、Xが色覚異常の遺伝子を持つと色覚異常となり、男性の発生率が高くなるメカニズムとなっています。日本人男性の20人に1人(5%)が色覚異常を持つのに対し、女性は500人に1人(0.2%)という発生頻度です。
参考)色覚異常の遺伝の仕方 – みんなの家庭の医学 WEB版
女性はXを2つ持ち、母親から1つ、父親から1つ受け継ぎます。女性は2つのXが共に色覚異常の遺伝子を持つと色覚異常となり、2つのうち1つが色覚異常の遺伝子を持つ場合は「保因者」となります。保因者は日本人女性の10人に1人いるといわれ、ほとんどの場合色覚は正常です。
参考)色覚異常といわれたら
興味深いことに、お子さんが色覚異常だと分かった時に、初めて自分が保因者であることを知り、驚かれるお母さんも多いという報告があります。しかし、色覚異常は母親を中継して表に出てくるものの、先祖からの体質を受け継いだことであり、母親が負い目や責任を感じすぎないことが大切です。
色覚異常の検査方法と診断プロセス
色覚異常の検査は、スクリーニング検査から確定診断まで段階的に行われます。最も有名なスクリーニング検査は石原式色覚検査表で、仮性同色表を用いて色覚異常の有無を調べます。
参考)色覚異常の検査と確定診断|茨城県水戸市の小沢眼科内科病院
石原表は感度が非常に高く、色覚異常のある患者には区別しにくい色の組み合わせで数字と背景を描いた表を使用する方法です。しかし、石原表を含む仮性同色表は、色覚異常のスクリーニングが目的であり、確定診断に用いられるものではありません。
パネルD-15テストは、連続した色相の15個のチップを色が連続的に変化するように並べてもらう検査で、色覚異常の程度と種類を判断することが可能です。この検査は正常と異常の区別を行うのではなく、中等度以下の異常か、強度の異常かを判定することができます。
参考)色覚異常
アノマロスコープ検査は、色覚検査の中で唯一確定診断が可能とされる検査です。被検者にアノマロスコープを覗き込んでもらい、上半円の赤色と緑色の混合比を調整し、下半円の黄色と同じ色になるポイントを探します。その時の赤色と緑色の混合比や光の強さ、同じ色に見える範囲などから色覚異常の型や程度を判定します。
アノマロスコープ検査の際には、目の色順応に注意が必要です。しばらく覗いているうちに色順応が起こると色味が徐々に薄くなり、正確な検査結果が得られなくなるため、スムーズかつ的確に検査を実施できる高度な検査技術と豊富な経験が求められます。
色覚異常が日常生活と職業選択に与える影響
色覚異常があっても多くの場合は日常生活に支障なく過ごすことができますが、職業選択においては考慮が必要な場合があります。社会的な差別撤廃の機運の高まりとともに、制度的な障害はほとんどなくなっており、以前は義務づけられていた入社時健康診断の色覚検査も廃止されています。
しかし、鉄道関連、航空関連の企業や、その下請けや納入企業は、健康診断で色覚検査による採用制限を行っているところもあります。警察官、消防官、自衛官、航空管制官、航空乗務員、海技士(航海)、機関部船員、小型船舶操縦士、海上保安官、皇宮護衛官、入国警備官などの職種では色覚異常による制限があります。
一方、色覚感覚が必要となる職種として、広告、印刷業、映像や画像処理、建築関係、医療関係、繊維服飾関係、食品管理、染色業、美容師などがあり、これらの職種では仕事上やりにくい可能性があります。
参考)色覚異常があると 焼き肉がうまく焼けない!? ということにつ…
実際に職業を選択する場合には、職業適性の一つとして色覚のことを考慮しておくとよいでしょう。自分の色覚異常が軽度だと思っていても、働き始めてから思わぬ問題に気付き、色覚外来に相談するケースも少なくありません。自分の色覚特性や制度上の制限について、普段から情報を多く集めておくことが、就職の際の強い味方となります。
参考)小学生の色覚異常:学校生活や家庭での対応法とサポートのコツ|…
日常生活では、焼き肉を焼く際に肉の焼け具合が判断しにくい、信号の色が見分けにくいなどの具体的な困難が生じることがあります。しかし、これらの問題を前向きに解決するためには、情報を多く取り入れることが役立ち、周囲の人から教えてもらうことにより、多くの悩みは解決できます。
色覚異常の診断における石原表の限界と誤診のリスク
石原表は色覚異常のスクリーニングとして広く使用されていますが、確定診断には使えないという重要な限界があります。色覚検査表を「誤読する色覚正常者」も「正読する色覚異常者」もわずかにいるため、正常か異常かの確定診断はアノマロスコープを用いるべきとされています。
医療検査の精度を評価する指標として感度と特異度がありますが、石原表の特異度は低く、偽陽性が多いのではないかという複数の指摘があります。日本の報告では、石原表を使った学校検診では異常疑いが男子4.8%、女子0.4%でしたが、アノマロスコープ・パネルD15テストによる精密検査を行った後は男子4.5%、女子0.2%に減少しました。
参考)https://www.koiwase.com/action/document04.html
イギリスで行われた石原表の感度と特異度の大規模調査の結果を日本の色覚異常の発生頻度に当てはめると、男性の5割近く、女性では9割以上がアノマロスコープによる検査では正常と判定される可能性を示唆しています。このデータは、スクリーニング検査で陽性となった患者に対して、必ずアノマロスコープによる確定診断を行う重要性を強調しています。
標準色覚検査表は、1型色覚異常と2型色覚異常とを区別する分類表が優れており、TMCは石原表と比較して、色紙を張って作ってあることが特徴です。いずれもスクリーニング検査であり、精密検査では再び仮性同色表を用いた検査を行い、そのうえでアノマロスコープ検査とパネルD-15テストを行う必要があります。
参考)https://www.nig.ac.jp/color/barrierfree/barrierfree1-8.html
日本眼科医会の色覚異常に関する詳細な情報と検査方法の解説
国立遺伝学研究所による色覚の原理と色盲のメカニズムの学術的解説