概日リズム睡眠・覚醒障害の治療方法
概日リズム睡眠・覚醒障害における高照度光療法の実際
高照度光療法は、2,500ルクス以上の明るさを持つ専用の照射器具を使用する治療法です。この治療では、患者さんに朝起床直後に高照度光を浴びてもらうことで、体内時計をリセットします。光がメラトニンというホルモンの分泌を抑制し、その約14〜16時間後に再びメラトニンが分泌されることで、睡眠リズムの調整を図るという仕組みです。
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医療機関によっては、明るい光を浴びられる特別室を設けているところもあり、通院での治療が可能です。ただし、光療法には頭痛、眼精疲労、倦怠感、イライラ感などの副作用が報告されているため、患者さんの状態を慎重に観察する必要があります。
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特に注意が必要なのは、服用中の薬剤や眼疾患の有無です。一部の薬剤では光に対する感受性が高まることがあり、また眼に疾患がある場合は高照度光療法を避けるべきケースもあります。
概日リズム睡眠・覚醒障害に対する薬物療法のアプローチ
薬物療法では、メラトニン受容体作動薬が中心的な役割を果たします。メラトニンは脳の松果体で産生される催眠作用を持つホルモンで、睡眠と覚醒のリズムを調整する重要な役割を担っています。
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メラトニン受容体作動薬の服用タイミングは、患者さんの睡眠相のタイプによって異なります。睡眠相後退型の場合、就寝時刻の5時間前に服用することで概日リズムを1時間以上前進させる効果が報告されています。一方で、入眠困難に対してベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系の睡眠導入剤が補助的に使われることもありますが、これらは起床困難などの副作用があるため積極的には推奨されません。
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また、ビタミンB12は体内時計の光に対する反応を高める効果があると考えられており、治療に用いられることがあります。メラトニン系薬剤と併用することで、リズム調整の効果を高めることが期待できます。
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概日リズム睡眠・覚醒障害の診断における評価方法
診断では、まず詳細な問診と睡眠日誌の記録が基本となります。睡眠日誌では、少なくとも2週間以上にわたって就寝時刻と起床時刻を記録し、睡眠と覚醒のリズムの経時的な変化を捉えます。
より客観的な評価方法として、アクチグラフィが広く利用されています。アクチグラフィは腕時計型のウェアラブルデバイスで、体動を測定する3次元加速度計が内蔵されており、患者さんの活動量と休息パターンを長期間にわたって記録できます。この非侵襲的な検査により、主訴だけでは得られない睡眠・覚醒リズムの詳細な情報を把握することができます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/83/3/83_113/_pdf/-char/ja
睡眠ポリグラフ検査は、概日リズム睡眠・覚醒障害の診断には原則として必要ありませんが、他の睡眠障害の合併が疑われる場合には検討されます。例えば、周期性四肢運動障害や睡眠時無呼吸症候群などが併存する可能性がある場合です。
参考)検査のご紹介
概日リズム睡眠・覚醒障害における生活習慣修正の重要性
生活習慣の修正は、概日リズム睡眠・覚醒障害の治療において基盤となる重要なアプローチです。毎日同じ時刻に就寝し、同じ時刻に起床する規則正しい生活リズムを維持することで、体内時計の一定化を図ります。
朝の光浴びは特に重要で、起床後すぐにカーテンを開けて外の景色を見たり、散歩をしたりして自然光を浴びることが推奨されます。ただし、太陽光を直接見ると目に障害を及ぼす危険があるため、患者さんへの指導では必ず注意喚起が必要です。
夜間の環境管理も同様に重要です。寝室を暗くすることはもちろん、パソコンやスマートフォンの使用を就寝1時間前には控えるよう指導します。液晶画面から出る青色光は460nm付近の波長で、体内時計の感受性が高いため、夜間に長時間見続けると体内時計が昼間が続いていると勘違いしてしまいます。やむを得ず使用する場合は、ナイトモードの活用や青色光を遮る黄色~オレンジ系のサングラスの装着を提案することもあります。
概日リズム睡眠・覚醒障害のタイプ別特徴と治療上の注意点
概日リズム睡眠・覚醒障害は、いくつかのタイプに分類され、それぞれ特徴的な症状と治療上の注意点があります。
睡眠相後退型は最も頻度が高く、思春期や若年成人に多く見られます。夜遅くから明け方まで眠れず、昼頃や夕方まで起きられないという症状が特徴的で、無理に朝早く起きても午前中の強い眠気や集中力の低下に悩まされます。治療では、高照度光療法とメラトニン受容体作動薬の組み合わせが効果的です。
睡眠相前進型は高齢者に多く、夕方から強い眠気が生じ、早朝に覚醒するタイプです。日常生活に困ることが比較的少ないため、問題視されていない場合も多いとされています。ただし、早朝覚醒という症状からうつ病と誤診される可能性があるため、鑑別診断が重要です。
非24時間睡眠・覚醒リズム障害は、毎日30分から1時間程度、睡眠相が後退していくのが特徴です。全盲者に多く見られ、光による体内時計の同調機能が損なわれることが原因とされています。また、視覚障害がない場合でも、太陽光が届きにくい室内環境で長時間生活していると発症しやすいことが知られています。
交代勤務障害は、夜勤など通常は眠る時間帯に労働することで生じる概日リズムの乱れです。本来眠るべき夜間に働き、活動すべき昼間に眠ることを強いられるため、体内時計は常に「時差ボケ」のような状態に陥ります。
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概日リズム睡眠・覚醒障害における患者指導と予後
治療を受けて症状が改善した後も、生活習慣への継続的な注意が不可欠です。不規則な睡眠や不適切な時間帯での光曝露により、再び症状が再発する可能性があるためです。
治療期間については、数週間から数ヶ月かかることが一般的です。この病気の治療目標は、体内時計のリズムを環境の明暗周期に同調させることであり、時間をかけて徐々にリズムを修正していく必要があります。
医療従事者として注意すべき点は、概日リズム睡眠・覚醒障害には双極性障害やうつ病、注意欠如多動症などの精神疾患が併存している場合があることです。そのようなケースでは、精神科疾患の治療も同時に行う必要があります。
また、認知症やパーキンソン病などの神経変性疾患、発達障害を持つ小児において、不規則睡眠・覚醒リズム障害が合併することが知られています。これらの基礎疾患がある患者さんでは、1日の中で睡眠と覚醒が不規則に現れ、典型的には4時間以上続けて眠れず、日中頻繁に昼寝がみられます。
患者さんが社会生活や日常生活に支障をきたしている場合、例えば学校や仕事に行けない、家族と生活時間帯が合わない、日中の強い眠気や思考力の低下があるといった状況では、専門医への受診を勧めることが重要です。日本睡眠学会専門医が所属する医療機関への紹介を検討すべきでしょう。
参考となる情報として、国立精神・神経医療研究センターの概日リズム睡眠・覚醒障害に関する情報では、各タイプの詳細な説明と治療法について解説されています。
また、厚生労働省e-ヘルスネットの概日リズム睡眠障害のページには、患者さん向けの分かりやすい情報がまとめられており、患者教育の資料としても活用できます。