構音障害の種類と分類
構音障害は発音するための器官や神経筋系の問題により、適切に発音できない状態を指します。臨床現場では原因に応じて分類され、それぞれ異なる評価方法と介入アプローチが必要なんです。日本音声言語医学会の診療の手引きでは、神経筋系の障害によって起こる話しことばの異常を運動障害性構音障害として定義しています。
参考)https://www.shien.co.jp/media/sample/s3/BK07588.pdf
構音障害の3つの基本分類
構音障害は原因によって大きく3つに分類されます。それぞれの分類は病態生理が異なるため、正確な鑑別が治療方針の決定に直結するんです。
参考)https://forum.nise.go.jp/kotoba/htdocs/index.php?page_id=22
器質性構音障害は、発音器官そのものの形態的異常によって生じます。口蓋裂などの先天的な形成異常や、口腔がん術後の形態異常が代表例です。舌や口腔・顔面の一部を切除した場合、物理的に正常な構音点や構音様式を作ることが困難になるため、特定の音の発音が不正確になります。
参考)構音障害(症状・原因・治療など)|ドクターズ・ファイル
運動障害性構音障害は、発声発語器官を動かす神経筋系の障害により発話運動の遂行が障害された状態です。脳血管障害、パーキンソン病、脳性麻痺などの神経難病で見られます。構音器官の形態には問題がないものの、思い通りに動かすことができないため発話が不明瞭になるんです。
機能性構音障害は、発声発語器官の運動障害や器質的な欠陥がなく、原因が明らかでない構音障害と定義されます。構音の獲得過程で何らかの要因が関与し、誤った構音習慣を身に付けてしまった発達性構音障害といえます。小学校入学間近でも赤ちゃんことばが治らない場合や、特定の音に独特な歪みがある場合が該当します。
参考)https://www.jda.or.jp/park/relation/language_02.html
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の診療の手引きでは、これらの分類に基づいた評価と治療方針が示されています。
運動障害性構音障害の診療の手引き – 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
構音障害の運動障害性構音障害のタイプ分類
運動障害性構音障害は障害部位により、さらに細かく分類されます。ダーレイらによって確立された分類法では、現在7つのタイプに分けられています。
参考)構音障害の原因疾患とタイプ分類|me;は言語聴覚士ってよ。
痙性構音障害は両側性の錐体路障害で生じ、偽性球麻痺を呈します。発話の短い途切れ、構音の歪み、発話速度の低下、声の高さや大きさの単調性、開鼻声、努力性嗄声が特徴的です。抑揚の乏しい単調で不明瞭な話し方が見られ、特に子音がはっきり発音できません。
参考)https://www.jibika.or.jp/uploads/files/Dysarthria_2023.pdf
弛緩性構音障害は下位運動ニューロン障害により球麻痺を呈します。気息性嗄声、発話の短い途切れ、構音の歪み、声の大きさ・高さの単調性、開鼻声が認められます。ギランバレー症候群や重症筋無力症、筋ジストロフィーなどが原因となります。
失調性構音障害は小脳系の障害で見られます。声の大きさの過度の変動、音・音声の持続時間が不規則で途切れがち、強勢の過剰などが特徴です。数語ずつとぎれとぎれで不明瞭な断綴性発話や、ゆっくりと粘っこい調子で話す緩徐発語が観察されます。酔っ払いのような話し方に聞こえることが特徴的なんです。
運動低下性構音障害はパーキンソン病などの錐体外路系疾患で出現します。気息性嗄声、発話の加速、同語反復などが特徴的です。比較的速く後半に加速する発話、声域の制限と単調子な発話が見られます。
参考)病態-構音
運動過多性構音障害はハンチントン舞踏病が代表的な疾患です。声の大きさ・発話速度の変動、音素・語間の伸び、発話全般の不規則性などが認められます。
混合性構音障害はいくつかのタイプが混在した疾患で出現します。筋萎縮性側索硬化症では弛緩性と痙性が混在し、ウィルソン病では痙性・失調性・運動低下性が混在して出現するんです。
この分類に関する詳しい情報は言語聴覚士向けの専門資料に記載されています。
構音障害の機能性構音障害の特徴
機能性構音障害には発達の未熟さに起因するものと、構音学習に問題があるものがあります。正常の構音発達では、特にサ行において遅れる場合があり、いわゆる未熟構音を認めることがあるんです。
参考)機能的構音障害
未熟構音はいわゆる赤ちゃんことばで、小さな子どもに関しては問題ありませんが、就学までには正しい発音を身につけることが望ましいです。カ行音がタ行音に置き換わる、サ行音がタ行音に置き換わるなどの置換が見られます。
参考)知ってほしい、構音障害
異常構音には複数の種類があります。側音化構音は「い」列の音、「け・げ」「さ行・ざ行」などに起こりやすい独特な歪み音で、訓練が必要なことが多いです。舌の中央部分が盛り上がり、上顎の中央部分に接触して発音してしまう状態なんです。
参考)口蓋化構音とは
口蓋化構音は「さ行」「た行」「つ」「ら行」「な行」等の発音で口の中でこもった発音になります。舌の中央部分が盛り上がり、上顎の中央部分に接触し発音してしまう状態です。子どもの頃から発音がしづらいことが多く、自然に治ることは少なく、大人になっても治らない場合がほとんどなんです。
声門破裂音はのどの奥の方で作られる音で、咳払いに似た声や喉に力を入れた母音に近い音に聞こえます。ぱ行・か行・た行などで起こりやすい特徴があります。
機能性構音障害の治療には、構音状態を理解し異常構音がある語句に限定されていたり発達途中と考えられる場合は経過観察を行います。4歳以上となり症状が固定する可能性がある場合には構音訓練を行うんです。
参考)疾患から診療科を探す(当院で診療可能な疾患か否かは、事前にお…
構音障害の評価と検査方法
構音障害の評価では、難聴の有無、口腔・鼻腔・口唇などの構音諸器官の形態や機能に異常がないかを診察します。言語聴覚士による構音検査では、発せられたことばが正常か否か、正常の構音発達の範囲内に入るものか否かを評価します。
参考)https://www.jda.or.jp/park/relation/language_03.html
会話明瞭度はコミュニケーション手段として会話がどの程度相手に伝わるかを検査します。簡単な会話をして「よく分かる」から「全く分からない」までの5段階で評価するんです。
参考)神経疾患によるコミュニケーション障害の看護|障害の特徴(構音…
構音検査では日本語のうち代表的な「パ行」「タ行」「サ行」「ラ行」「カ行」を発音します。音が正常に作られているか、発音している時に口唇や舌がどのような動きをしているかを調べます。動的パラトグラムによる舌と硬口蓋の接触パターンの分析や、超音波断層法による舌の運動観察なども客観的評価法として用いられます。
参考)https://www.jarm.or.jp/nii/rihanews/No23/RN2312BD.HTM
交互運動能力検査では「パ・タ・カ」の音を速くたくさん言うことで、発話速度やリズムの異常を調べます。「パ」では口唇閉鎖運動、「タ」では舌の先の運動、「カ」では舌の後方部の運動がどの程度連続してできるかを評価するんです。
鼻咽腔閉鎖機能検査は発音時の鼻漏れを検査します。上あごの奥にある軟口蓋によって鼻と口の境がしっかり閉じられるかを調べ、閉鎖が不良な場合は開鼻声や鼻音化が生じます。
構音機能の評価では、発声・発音、話し方、会話の明瞭さ、舌の動きなどを確認したうえで行います。最長発声持続時間の測定では「あー」と出来るだけ長く言い続けて持続時間を測り、10秒以下の場合は声帯など喉に何らかの問題があることが考えられます。
評価に関する詳細情報は日本歯科医師会のサイトで解説されています。
構音障害のリハビリテーションと訓練方法
構音障害のリハビリテーションでは、各タイプに応じた訓練方法が選択されます。言語療法と運動療法を組み合わせることで、患者の発語能力を総合的に改善していきます。
参考)言語聴覚士の訓練内容とは?具体的なリハビリ方法についても解説
口・舌の体操は構音訓練の一環として行われます。深呼吸や首・肩のストレッチで発声時に使用する呼吸筋をリラックスさせた後、口を大きく開ける・閉じる、頬を膨らませる・凹ます、舌を突き出す・戻す、舌を上下左右に動かすなどの動作を含む体操を行うんです。
発声練習では患者の声帯を強化し、声を安定的に出せるようにします。「あ・い・う・え・お」の発声を反復することで発音器官の動きを改善します。発音訓練では患者の特定の発音の誤りを矯正し、正確な発音を習得させるための練習を繰り返し行うことで、日常会話の明瞭さが向上するんです。
失調性構音障害に対しては、構音生成ドリル、ペーシングボードを用いた訓練、リズミック・キューイング法が有効とされています。構音生成ドリルは「ボール:ポール」のように音素だけが異なる音節や単語が対になったもので、構音運動を調節することで発話の明瞭度を改善します。ペーシングボード訓練では色の異なるスロットを指で押しながら一音ずつ発話し、強制的に発話の速度を遅くさせることで構音の正確性を高めるんです。
参考)失調性構音障害の特徴とリハビリ・コミュニケーションのポイント…
呼吸法の改善も重要な訓練要素です。呼吸法の訓練により声量や発声の安定性が改善され、特に横隔膜を活用した深い呼吸法が効果的とされています。
本の音読は構音障害のリハビリとして効果的な方法の一つです。好きな本や新聞の記事などを毎日10分程度声に出して読むことで、発音の流暢さや明瞭さの向上が期待できます。
参考)【言語聴覚士が解説】自宅でできる構音障害のリハビリ方法7選!…
機能性構音障害の構音訓練には、聴覚的訓練という正しい音の聞き分けを認識させる訓練と、正しい音を出す練習をする構音訓練があります。単音の構音から始め、単音節、単語、文章、対話へと段階的に音を固定させていくんです。
言語聴覚士による訓練内容の詳細は専門サイトで紹介されています。
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