パーソナリティ障害一覧と各タイプの特徴

パーソナリティ障害の一覧と分類

パーソナリティ障害の3つのクラスター
🔵

A群クラスター(奇妙で風変わり)

妄想性、統合失調質、統合失調型の3つのパーソナリティ障害が含まれ、対人関係における孤立や疑念が特徴的です

🔴

B群クラスター(演技的で情緒的)

反社会性、境界性、演技性、自己愛性の4タイプを含み、感情の不安定さと衝動性が目立ちます

🟢

C群クラスター(不安または恐怖)

回避性、依存性、強迫性の3タイプで構成され、不安や恐怖感が行動を制限します


パーソナリティ障害は、DSM-5において10種類に分類され、さらに3つのクラスター(A群、B群、C群)にまとめられています。これらの分類は臨床現場で広く用いられており、各タイプが持つ特徴的な行動パターンや対人関係の様式を理解するための重要な枠組みとなっています。

参考)精神科 パーソナリティー障害 パーソナリティー障害の分類とは…


A群クラスターには妄想性パーソナリティ障害、統合失調質(シゾイド)パーソナリティ障害、統合失調型パーソナリティ障害が含まれます。これらは奇妙で風変わりな様子を特徴とし、対人関係において孤立や疑念を抱きやすい傾向があります。

参考)パーソナリティ症の概要 – 08. 精神疾患 – MSDマニ…


B群クラスターは反社会性、境界性、演技性、自己愛性パーソナリティ障害で構成され、演技的で感情的、移り気な様子が目立ちます。このグループは衝動性が高く、対人関係において激しい情緒の変動を示すことが特徴です。

参考)パーソナリティ障害とは?特徴・種類・原因をわかりやすく解説|…


C群クラスターには回避性、依存性、強迫性パーソナリティ障害が含まれ、不安や恐怖を感じやすい様子を特徴としています。これらのタイプは内向的で、対人関係において過度な不安を抱える傾向があります。

参考)こころの病気コンテンツ 林直樹先生に「パーソナリティ障害」を…

パーソナリティ障害のA群クラスターの特徴

A群クラスターには3つのパーソナリティ障害が含まれており、それぞれが独特の臨床像を示します。妄想性パーソナリティ障害は、他者への疑念や不信感が極めて強く、被害妄想的な思考パターンを持つことが特徴です。患者は常に他者の悪意を疑い、善意の行動さえも悪意と解釈する傾向があります。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2992453/


統合失調質パーソナリティ障害は、対人関係への興味や欲求が著しく乏しく、感情表現が平板であることが特徴です。孤独を好み、社会的な交流を避ける傾向があり、喜怒哀楽の表現が少ないため周囲からは冷淡な印象を持たれることがあります。

参考)人格障害


統合失調型パーソナリティ障害では、魔術的思考や奇妙な信念を持ち、知覚体験の異常を伴うことがあります。社会的孤立と思考や言語の風変わりさが特徴的で、統合失調症のリスク因子としても注目されています。​

パーソナリティ障害のB群クラスターの詳細

B群クラスターは臨床現場で最も遭遇頻度が高く、治療上の課題も多いグループです。境界性パーソナリティ障害は一般人口における有病率が約1.6%から5.9%と推定され、精神保健施設では診断率がさらに高くなります。この障害の特徴は、見捨てられ不安、不安定な対人関係、感情の調節不全、衝動的行動、慢性的な空虚感などが挙げられます。

参考)https://bsd.neuroinf.jp/w/index.php?title=%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%BD%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%83%86%E3%82%A3%E9%9A%9C%E5%AE%B3amp;mobileaction=toggle_view_desktop


診断されるケースの約75%が女性であり、18歳から25歳の間に最も多く診断される傾向があります。境界性パーソナリティ障害の診断には、DSM-5で規定された9つの診断基準のうち5つ以上が該当する必要があります。

参考)境界性パーソナリティ障害


自己愛性パーソナリティ障害は、誇大な自己評価と承認欲求の高さが特徴です。他者への共感性が乏しく、特権意識を持ち、他者を利用することに罪悪感を感じません。表面的には自信に満ちて見えますが、内面には劣等感が潜んでいることが多いです。

参考)パーソナリティ障害の10種類の特徴、症状をわかりやすく解説 …


反社会性パーソナリティ障害は、他者の権利や感情を軽視し、社会規範やルールを無視する傾向があります。罪悪感や共感性の欠如が顕著で、攻撃性や衝動性が高く、法律違反を繰り返すことがあります。境界性パーソナリティ障害との違いは、反社会性では法やルールの軽視が中心的な特徴であるのに対し、境界性では見捨てられ不安と感情の不安定さが中核となる点です。

参考)反社会性パーソナリティ障害とは?特徴・口癖・接し方・末路まで…


演技性パーソナリティ障害は、過度に演劇的な感情表現と注目を引こうとする欲求が特徴的で、常に他者の注意を自分に向けておくことを求めます。​

パーソナリティ障害のC群クラスターの臨床像

C群クラスターは不安や恐怖が行動を制限するグループで、神経症に関連した気質を持つことが特徴です。回避性パーソナリティ障害は、拒絶されることへの過度な恐怖から対人関係を避ける傾向があります。一般人口における有病率は約2.4%と推定され、社会不安障害うつ病との併存が多く見られます。

参考)発達障害・解離性障害・パーソナリティ障害 – 医療法人社団真…


この障害では、批判や否定への恐れが強く、自己評価が低いため新しい人間関係を築くことが困難です。日本特有の社会構造や文化的要因が発症に影響している可能性も指摘されています。​
依存性パーソナリティ障害は、自分で判断することが困難で、常に他者に意思決定を委ねる傾向があります。患者は一人でいることに強い不安を感じ、見捨てられることを極度に恐れます。診断には精神状態検査(MSE)や心理テストとしてミネソタ多相性格目録(MMPI)、パーソナリティ診断質問票(PDQ)などが用いられます。

参考)依存性パーソナリティ障害の周囲の接し方: 診断から対処方法ま…


強迫性パーソナリティ障害は、完璧主義と柔軟性の欠如が特徴で、細部へのこだわりが強すぎて全体の目標達成が困難になります。秩序や規則への固執が日常生活や対人関係に支障をきたすことがあります。​

パーソナリティ障害の疫学と性差の実態

パーソナリティ障害の有病率は診断基準や調査方法によって異なりますが、重要な疫学データが蓄積されています。精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)や国際疾病分類(ICD)に基づく調査によると、境界性パーソナリティ障害の一般人口における有病率は約1.6%から5.9%と推計されています。

参考)https://www.mdpi.com/2077-0383/10/15/3294/pdf


クラスター別の分析では、3つのクラスターにおいて精神科合併症の分布パターンや性別分布に違いがあることが示されています。境界性パーソナリティ障害では診断されるケースの約75%が女性であり、18歳から25歳の間に最も多く診断される傾向があります。

参考)境界性人格障害の総合情報: 疫学データ、性差、診断基準、治療…


地域差と国際比較では、北米で約1.4%、ヨーロッパで約2.1%、アジアで約0.7%、日本では約0.5%から1%の有病率が報告されています。文化や社会環境、医療アクセスの違いが診断率に影響を与えている可能性があります。​
回避性パーソナリティ障害の有病率は約2.4%とされ、性別では女性の方が診断される頻度がやや高いことが示唆されています。これは社会的期待や役割に基づくストレス、コミュニケーションの仕方の違いなどが関連していると考えられます。​

パーソナリティ障害におけるICD-11とDSM-5の診断基準の違い

ICD-11は約30年ぶりの大規模改訂により、パーソナリティ障害の診断体系を根本的に変更しました。従来のカテゴリカルな分類を完全に廃止し、全体的な重症度に基づく「軽度」「中等度」「重度」の3段階評価を導入した点が最大の特徴です。

参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyt.2021.655548/pdf


ICD-11では、パーソナリティ機能の障害を自己機能(アイデンティティと自己方向性)と対人機能(共感性と親密性)の4領域で評価します。これらの領域の2つ以上に中等度以上の障害があることがパーソナリティ障害診断の条件となっています。さらに5つの特性領域(否定的感情性、離脱性、非社会性、脱抑制性、アナンカスティック)で行動を記述できます。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8141634/


日本精神神経学会の「パーソナリティ症および関連特性群」に関する論文では、ICD-11がDSM-5第3部の代替モデルを継承しつつ発展させた経緯が詳しく解説されています。
一方、DSM-5は二重構造を採用しており、セクションIIで従来のカテゴリカルな10個のパーソナリティ症を維持しながら、セクションIII(代替モデル:AMPD)でディメンショナルな評価を導入しています。DSM-5のパーソナリティ機能評価尺度(LPFS)とICD-11の評価には共通点がありますが、特性領域ではDSM-5が精神病性と敵対性を含むのに対し、ICD-11はアナンカスティック特性と反社会性を採用する点で相違があります。

参考)DSM-5とICD-11におけるパーソナリティ症について


ICD-11では境界性パターン指定子が追加され、確立された治療に反応する可能性のある個人を特定できるようになりました。これは実質的にDSM-5の境界性パーソナリティ障害の診断基準に基づいています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8636038/

パーソナリティ障害の自己機能と対人機能の障害

パーソナリティ障害の本質は、自己機能と対人機能の両方またはいずれかの長期的な障害にあります。自己機能の障害は、自己同一性の不安定さと自己方向性の欠如として現れます。具体的には、自分がどのような人間なのかはっきりせず、価値観や目標、外見などが一貫しないという問題があります。

参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyt.2021.654026/pdf


自己同一性の問題では、患者は安定した自己イメージを持つことができず、感情や思考が状況によって極端に変化します。自己評価が外的な評価に過度に依存し、内的な一貫性を欠くことが特徴的です。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4316724/


対人機能の障害は、他者との親密な関係が維持できないことや感情への鈍感さとして表れます。共感性の欠如により、他者の感情やニーズを理解することが困難で、人間関係において過度に傷ついたり他者を傷つけたりします。

参考)世界保健機構 (WHO) のパーソナリティ症(障害)の診断基…


ICD-11の新しい診断基準では、これらの自己機能と対人機能の障害についてさらに詳しく掘り下げて理解することが求められます。この2つの機能が共に(どちらか1つでもよい)長期間にわたり障害されていることがパーソナリティ障害診断に必要です。​
DSM-5第3部の代替診断基準でも、パーソナリティ機能の4領域(アイデンティティ、自己方向性、共感性、親密性)の2つ以上に中等度以上の障害があることが条件とされています。この評価アプローチは長年の精神分析・精神力動的概念化と収束しており、理論的な基盤を持っています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8085265/

機能領域 障害の内容 臨床的特徴
自己同一性 自己イメージの不安定さ 価値観や目標が一貫しない、自己評価が外的評価に依存
自己方向性 目標設定と達成の困難 人生の方向性が定まらず、意思決定が困難
共感性 他者の感情理解の困難 他者のニーズや感情に鈍感、配慮の欠如
親密性 深い関係の維持困難 安定した人間関係が築けない、関係が極端に変動

パーソナリティ障害では、これらの機能障害によって慢性的な気分の落ち込み、不安感、情緒不安定などの症状が起こり、死にたいと訴える人もいます。一見うつ病と似ているため抗うつ薬による治療が行われることもありますが、パーソナリティ障害では抗うつ薬が気分を改善することはありません。​
境界性パーソナリティ障害の包括的レビュー(PMC)では、自己イメージ、対人関係、感情の不安定性がこの障害の中核的特徴であることが詳述されています。