急性心不全と慢性心不全の違い
急性心不全の発症様式と病態生理
急性心不全は、心臓のポンプ機能が急激に破綻し、代償機転では血液循環を保てなくなった状態を指すんです。心筋梗塞などの虚血性心疾患が原因となるケースが最も多く、突如として心筋の壊死が進行することで心拍出量が急速に低下します。
発症機序としては、左室拡張末期圧や左房圧の上昇に伴う肺静脈うっ血による「後方障害」と、心拍出量減少に伴う「前方障害」の両方が関与しているんですよ。急性心不全では特に前兆がない場合も多く、激しい呼吸困難や肺水腫といった重篤な症状が急激に出現するため、早急な対応が必要となります。
参考)急性心不全と慢性心不全の違いって?|スタッフブログ|ゆみのハ…
代償機転を上回る急激な心臓ポンプ能の低下が特徴で、心筋梗塞以外にも急性心筋炎、心臓弁膜症、不整脈などが原因疾患となります。意外なことに、健康な心臓であっても術後や外傷患者で大量輸液による容量負荷が増加すると、急性心不全症状を呈することがあるんです。
参考)心不全の病態生理|急性・慢性心不全の病態を理解しよう!
慢性心不全の代償機転とリモデリング
慢性心不全は、心臓の機能が徐々に低下する状態で、症状が持続的または断続的に現れることが特徴なんです。慢性心不全では代償機転が働いており、心臓は血行力学的負荷に対応して構造と形態を変化させる「心室リモデリング」を起こします。
参考)【院長ブログ】急性心不全と慢性心不全の違いは? – おかもと…
心室リモデリングには2つのパターンがあり、血液量の増加による「遠心性肥大」では心臓の内腔・外腔ともに拡大します。一方、高血圧や心臓弁膜症による圧負荷では「求心性肥大」が起こり、心筋細胞が肥大して心臓の内腔は縮小し外腔は拡大するんですよ。
この心室リモデリングは生体の代償機転ですが、長期的には予後不良因子となることがSAVE試験などの大規模研究で明らかになっているんです。組織学的には心筋細胞の肥大と間質の線維化を伴い、アンジオテンシンⅡやエンドセリン、カテコラミンなどの神経体液性因子が関与していることが知られています。
急性心不全と慢性心不全の症状の違い
急性心不全の代表的な症状は、激しい呼吸困難、咳込み、喘鳴(ヒューヒュー、ゼイゼイという音)、胸部痛、圧迫感、むくみなどです。特に動いた時や横になった時に息苦しさを感じることが多く、夜間に悪化する傾向があります。
参考)急性心不全
肺に液体がたまることで湿った咳や血の混じった痰が出ることもあり、血圧の低下や脳への血流不足により意識が朦朧としたり失神することもあるんです。これらの症状は急激に悪化するため、直ちに医療機関を受診することが重要なんですよ。
一方、慢性心不全では安定期と悪化期を繰り返しながら日常生活に影響を及ぼします。日常生活運動で息切れが出るうちは外来治療で十分ですが、座っていて息切れが出たり寝ると咳が出る場合は心不全状態が悪化しつつあり、急激な症状悪化の可能性があります。慢性心不全患者が風邪や感染症などをきっかけに症状が急激に悪化することを「慢性心不全の急性増悪」と呼び、これは急性心不全の一つのタイプに分類されるんです。
参考)急性心不全
急性心不全と慢性心不全の治療方針
急性心不全の治療は緊急性が高く、救命や生命徴候の安定が優先されます。静脈内投与を行うケースが一般的で、薬剤を速やかに体内に投与し血行動態を改善することが求められるんです。長期予後の観点からは、血行動態の改善だけでなく、代償不全からの回復および臓器保護が重要なんですよ。
参考)https://med2.daiichisankyo-ep.co.jp/cardiology/knowledge/files/heart_failure/hf_04.pdf
特に心腎連関による病態悪化の抑制が課題となり、交感神経系、RAA系、炎症、酸化ストレスに対する抑制が必要です。カルペリチドなどの治療薬は、心筋梗塞後患者の左室機能を回復させ長期予後を改善することが報告されており、特に慢性腎臓病(CKD)合併患者で効果が著明なんです。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/41/4/41_484/_pdf/-char/en
慢性心不全では「ステージの進行を防ぐこと」を治療の目標とします。心不全の治療方針は、心不全ステージ分類と左心室の収縮機能による分類(HFrEFとHFpEF)により決定されるんです。適切かつ十分な薬物治療を行い、必要に応じてステージCでは植込み型除細動器(ICD)や心臓再同期療法(CRT)、ステージDでは補助人工心臓や心臓移植も検討されます。
参考)慢性期の治療について
急性心不全の予後と慢性心不全のセルフケア
急性心不全の治療成績は改善傾向にあり、入院中の死亡率は約8%程度まで低下していますが、依然として危険な病気であることに変わりありません。従来、心不全の5年間での死亡率は50%程度とされており、特にNYHA分類Ⅳ度まで重症化した患者では、適切な治療を受けなければ2年以内に50%が死亡するとされているんです。
参考)心不全の予後はがんより悪い!?|高齢者の心不全|心臓病の知識…
心不全で入院すると5年生存率は25%まで低下し、5年以内の心不全再入院率は85%に達するという報告もあり、心不全全体の予後はがんより悪いとも言われているんですよ。しかし、適切な急性心不全管理により次の急性増悪イベントを回避できれば、心不全全体の予後を改善できることが示されています。
参考)[寄稿]急性心不全におけるDECONGESTION(猪又孝元…
慢性心不全では患者の自己管理が重要な役割を果たし、自己管理能力を向上させることにより予後が改善することが知られています。セルフモニタリングでは「うっ血」や「低心拍出」による症状の有無・程度を患者自身がモニタリングし、早期に気づいて適切な対処行動をとることで症状の重症化を回避できるんです。
参考)慢性心不全のセルフケア|YUMINO’s コラム|活動報告|…
体重、血圧、脈拍などの測定値や自覚症状(息切れ、浮腫、倦怠感、食欲)を日々確認することがセルフモニタリングスキルとして重要なんですよ。安定した慢性心不全では、安静によるデコンディショニングは運動耐容能の低下を招くため、適度な運動療法が推奨されていますが、急性増悪時には運動は禁忌で活動制限と安静が必要となります。
参考)慢性心不全患者の看護・セルフケア支援の実際|セルフモニタリン…
急性心不全と慢性心不全における駆出率による分類
心不全治療で重要なのは、左室収縮能(駆出率:EF)によって治療反応性が異なるという点なんです。日本循環器学会ガイドラインでは、EF<40%を「駆出率が低下した心不全(HFrEF)」、50%以上を「駆出率が保たれた心不全(HFpEF)」、40%以上50%未満を「駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF)」と定義しています。
参考)慢性期心不全の薬物療法
本邦の急性心不全の疫学研究であるATTEND試験などから、心不全の約3-5割がHFrEFと考えられているんです。HFpEFではHFrEFと比べ、高齢女性、糖尿病や高血圧、心房細動のほかにCOPDといった非心血管疾患の併存が多いことが特徴なんですよ。
JCARE-CARD研究では、最も多い背景としてHFrEFでは虚血性心疾患が39.8%、HFpEFでは高血圧が44.3%と大きな違いを認めています。HFrEFに対してはACE阻害薬、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬などの予後改善効果をもつガイドライン推奨治療(GDMT)が確立されていますが、HFpEFについては現在も予後を改善する確立された治療がなく、来る心不全パンデミックの課題となっているんです。
参考)循環器内科|港北メディカルクリニック|横浜市都筑区の在宅医療…
心不全の約半数は収縮する力が保たれているにもかかわらず、左心室が硬くて拡張しにくくなっていることがわかっており、収縮機能が正常だからといって決して安心はできません。HFpEFの原因として最も多いのは高血圧で、高血圧が続くことで左心室の筋肉が分厚くなったり硬くなったりし、心臓が拡張するのにより大きな力が必要になり心臓に大きな負担がかかるんですよ。
日本循環器学会による急性・慢性心不全診療ガイドラインの参考情報は日本内科学会雑誌の解説で詳しく確認できます。
心不全のステージ分類とNYHA分類に関する詳細な情報は心不全オンラインの重症度分類ページが参考になりますよ。
慢性心不全の治療方針と薬物療法については心不全オンラインの慢性期治療ページでガイドラインに基づいた最新情報が得られます。