慢性腎不全と慢性腎臓病の違い

慢性腎不全と慢性腎臓病の違い

この記事のポイント
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用語の変遷

2002年に慢性腎臓病(CKD)という概念が誕生し、従来の慢性腎不全から診断基準が大きく変化

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診断と分類の違い

慢性腎臓病は早期発見を目的とし、病期ステージで分類。慢性腎不全は腎代替療法が必要な進行した状態を指す

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治療戦略と医療連携

CKDの導入により、かかりつけ医と腎臓専門医の連携体制が確立され、早期介入による進行抑制が可能に


慢性腎不全(CRF: chronic renal failure)は、数カ月から数年以上にわたって持続的に腎機能が低下し、老廃物の体内への蓄積や体液の恒常性が維持できなくなった状態を指す伝統的な用語です。慢性腎不全の進行に伴い腎機能が障害された状態では、腎臓の働きが正常の30%以下まで低下し、さらに10%以下になった状態を末期腎不全と呼び、腎代替療法(透析や腎移植)が必要となります。

参考)末期腎不全と言われた


一方、慢性腎臓病(CKD: chronic kidney disease)は、2002年にアメリカで提唱された比較的新しい疾患概念で、慢性に経過するすべての腎臓病を包括的に指す用語です。CKDは、腎障害や腎機能の低下が3カ月以上続いている状態と定義され、尿検査や血液検査、画像検査で腎臓の機能や形態に異常が見られる場合に診断されます。

参考)慢性腎臓病(CKD)と腎不全について


この2つの用語の最も大きな違いは、対象とする病態の範囲と診断の目的にあります。慢性腎不全が主に透析療法が必要になる直前の尿毒症状態を対象としていたのに対し、CKDは腎機能が軽度低下している早期段階から末期腎不全まで、すべての病期を包括的に捉えることを目指しているんです。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/99/9/99_2068/_pdf

慢性腎不全の定義と診断基準

慢性腎不全とは、腎臓の予備能力が低下し、腎機能不全に至り、体液量や電解質、酸塩基平衡などの恒常性が持続できなくなった状態を指します。慢性腎臓病の進行に伴い腎機能が障害された状態を慢性腎不全と呼び、腎不全が悪化してついには命にかかわる状態になると、腎代替療法が必要となるんです。​
腎臓の働きが低下して正常の腎臓の30%以下の働きしかできなくなった状態を腎不全といい、さらに機能が低下して10%以下になった状態を末期腎不全と呼びます。末期腎不全では、eGFR(推算糸球体濾過量)が15mL/分/1.73㎡未満まで低下し、透析や腎移植などの腎代替療法が必要となる直前、または必要となった状態となります。

参考)https://j-ka.or.jp/ckd/vocabulary.php


診断には血液検査で尿毒素の一種である血清クレアチニン値が異常になっていることで診断がつき、尿中のタンパクや糖の異常、腹部の超音波検査で腎臓の腫れやサイズの縮小によって診断されることもあります。慢性腎不全では、むくみや夜間の頻尿、疲労感、貧血、息切れなどの自覚症状が現れ始めますが、症状が現れた時点ですでに腎機能が大幅に低下している可能性が高いんです。​
日本泌尿器科学会「末期腎不全と言われた」では、末期腎不全の原因や症状、検査方法について詳しく解説されています。

慢性腎臓病(CKD)の診断基準と病期分類

慢性腎臓病(CKD)は、以下の2つの基準のいずれか、または両方が3カ月を超えて持続した場合に診断されます。

参考)慢性腎臓病(CKD)とは

  1. 腎障害の存在が明らか(たんぱく尿陽性、または画像診断・血液検査・病理所見で腎障害が明らか)
  2. GFR(糸球体濾過量)が60mL/分/1.73㎡未満に低下している

CKDは、eGFR(推算糸球体濾過量)の数値によってG1からG5までの5段階に病期(ステージ)が分類され、さらに尿タンパク/アルブミン尿の程度によってA1からA3までの3段階に分類されます。

参考)CKD(慢性腎臓病)のステージとは?

病期ステージ eGFR(mL/分/1.73㎡) 腎機能レベル
G1 90以上 正常または高値
G2 60〜89 軽度低下
G3a 45〜59 中等度低下(前半)
G3b 30〜44 中等度低下(後半)
G4 15〜29 高度低下
G5 15未満 末期腎不全


ステージG1とG2は、腎障害はあるものの腎臓の働きは正常から軽度低下の状態で、回復の余地があることから、原因となる病気を調べ治療することが重要です。ステージG3では腎臓の機能が半分近く低下している状態と考えられ、むくみや夜間の頻尿、疲れやすいといった自覚症状も現れ始めます。ステージG4とG5では透析や腎移植の準備段階から腎代替療法が必要となる状態です。

参考)腎臓の機能をチェックしてみましょう


CKDの診断基準が明確になったことで、早期発見と適切な治療介入が可能となり、末期腎不全への進行を遅らせることができるようになったんです。

参考)https://enoki-iin.com/contents/news/20250624_01.html


森下記念病院「慢性腎臓病(CKD)と腎不全について」では、CKDの定義や検査方法、症状について患者向けにわかりやすく説明されています。

慢性腎臓病の概念が誕生した背景

慢性腎臓病(CKD)という概念は、2002年にアメリカで提唱された全く新しい概念です。それ以前は、慢性に進行する腎臓の疾患は数多くあり、腎臓の疾患名はわかり難いとの批判がありました。そこで、さまざまの腎疾患を主に蛋白尿と腎機能の面より新たにCKDと定義したんです。

参考)https://jsn.or.jp/jsn_new/iryou/kaiin/free/primers/pdf/CKDguide2009.pdf


CKDという病名は腎臓専門医のためではなく、一般かかりつけ医のための病名として導入されました。CKDという概念が生まれた背景には、透析や腎移植を必要とする人の世界的な増加があります。腎障害のある患者を早期に発見し、その原因に応じた治療や生活習慣の改善を進めることで、透析や腎移植に至る人の数を減らそうという目的があったんです。

参考)「腎を知る最終回」—慢性腎臓病(CKD)とは – めでぃログ


日本腎臓学会では2004年に慢性腎臓病対策委員会を設置して、疫学調査研究、診療システム構築、社会への働きかけ、国際協調・貢献を4つの柱として、総合的にCKD対策を行ってきました。2007年9月には「CKD診療ガイド」初版が発行され、2012年6月には「CKD診療ガイド2012」が出版されるなど、わが国のCKD診療がアップデートされてきました。

参考)https://jsn.or.jp/journal/document/55_1/048-055.pdf


CKDは、末期腎不全(ESKD: end-stage kidney disease)に進展するばかりでなく、心血管疾患(CVD: cardiovascular disease)の危険因子であることから国際的にも注目されています。日本では、CKDの人は正常腎機能の人と比較して心血管疾患の発症頻度が高いことが報告されており、GFRが低下するほど(腎機能が低下するほど)心血管疾患の相対リスクの上昇が認められるんです。

参考)慢性腎臓病(CKD)|生活習慣病部門 – 腎臓・高血圧内科|…

慢性腎不全から慢性腎臓病への用語の変遷

従来の慢性腎不全(chronic renal failure: CRF)という用語は、主として透析療法が必要になる直前の尿毒症状態を対象としていました。しかし、この用語では腎機能が軽度から中等度低下している早期の段階を適切に表現できず、早期発見や早期介入の機会を逃してしまう問題がありました。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/107/3/107_510/_pdf/-char/ja


2002年以降、慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)という新しい概念が導入されたことで、腎機能が軽度低下している段階から末期腎不全まで、すべての病期を統一的に評価し管理する体制が整いました。CKDは「腎機能が低下している状態」の総称であり、背景にはさまざまな疾患があります。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/95/12/95_12_2553/_pdf


現在では、CKDの進行段階を示す用語として、保存期腎不全という表現も使われています。保存期腎不全とは、腎代替療法に向かう途中の、腎機能がある程度以上悪くなった状態のことを指し、明確な定義はありませんが、様々な合併症を引き起こすCKDステージ3から5の腎代替療法開始前までを指すことが一般的です。

参考)腎臓・リウマチ膠原病科 保存期腎不全 (Advanced C…


このように、慢性腎不全という用語は今でも臨床現場で使用されていますが、その意味合いはCKDの中の進行した病期を指すものとして位置づけられるようになりました。CKDステージG5を末期腎不全(end-stage kidney disease: ESKD)と呼び、腎代替療法が必要となる直前または必要となった状態のことを指すんです。​

慢性腎臓病における医療連携と治療戦略

現在、わが国にCKD患者は1,300万人から1,500万人といわれ、成人の7〜8人に1人がCKDに該当します。これだけ多くの患者数に対し、腎臓専門医のみでは対応不可能と考えられ、非腎臓専門医の先生方といかに病診連携を確立していくかが大きな課題となっています。

参考)慢性腎臓病病診連携


CKDの重症度はたんぱく尿と腎機能によって表わされ、治療戦略および病診連携もそれに基づいてガイドラインが示されています。腎臓専門医のCKD診療のポイントは、蛋白尿・血尿から腎炎を鑑別し、ステロイドや免疫抑制療法を行う腎炎・ネフローゼ症候群を含むたんぱく尿の多いCKDステージ1-3と、非代償期の管理および腎代替療法へのなだらかな移行を必要とするCKDステージ4または5です。​
一方、かかりつけ医等のCKD診療のポイントは、ACE阻害薬およびARBを主体とした血圧の管理と生活習慣の是正が重要であるたんぱく尿が軽微なCKDステージ1-3または4です。軽症のうちは血圧や血糖の管理や減塩指導等の一般的な内科診療が中心ですが、重症化すると合併症予防や最適な腎代替療法(血液透析腹膜透析、腎移植)の選択や準備など、専門性の高い診療が必要となるんです。

参考)地域における医療提供体制の整備


メディカルスタッフ等の協力のもと、紹介・逆紹介、2人主治医制など、かかりつけ医等と腎臓専門医療機関等の連携を推進することで、CKDを早期に発見・診断し、良質で適切な治療を早期から実施・継続できる診療体制を構築することが目的です。​
CKDの治療の目的は、末期腎不全へ至ることを阻止する、あるいは末期腎不全へ至る時間を遅らせることです。また、心血管疾患の発症危険因子であるCKDを治療することで、心血管疾患の新規発症を抑制する、あるいは既存の心血管疾患の進展を阻止することも重要な治療目的となります。​
腎疾患政策研究事業「地域における医療提供体制の整備」では、CKDの病診連携の課題と解決策について詳しく解説されています。

慢性腎臓病の主要な原因疾患

CKDの背景疾患には、生活習慣病に関連したものでは糖尿病で生じる糖尿病性腎臓病、高血圧による高血圧症性腎硬化症という疾患があります。また、腎炎と言われるような腎臓に慢性的な炎症を来す疾患もCKDの原因疾患の1つになります。​
日本透析医学会の報告では2019年の1年間で新たに40,885人が末期腎不全状態になり、腎代替療法を受け始めましたが、高齢化も進行しており導入患者の平均年齢は70.42歳と報告されています。原因で最も多いのは糖尿病性腎症が41.6%、次いで高血圧などによる腎硬化症が16.4%、三番目が慢性糸球体腎炎が14.9%です。​
糖尿病が10年近く続くと、尿の中に普段は出てこないアルブミンが混じってしまうことがあります。血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が高くなった高血糖状態が続く糖尿病を長く患っていると、全身の血管だけでなく腎臓もダメージを受けてしまうんです。糖尿病性腎症は血糖や血圧をしっかりコントロールすることで、進行を遅らせることができ、早期に治療を行えば改善も期待できます。​
高血圧が長い期間続くと、腎臓の中の血管が固まって細くなり、腎機能が低下する病気に腎硬化症があります。腎硬化症からくるCKDの患者はゆっくりと腎機能が低下するのが一般的で、尿検査で異常がなかった高齢者で、ほかの理由で血液検査を受けた際に血清クレアチニンの値から見つかることがあるんです。糖尿病性腎症は毎年増加してきましたが、その割合は2009年をピークにして近年は低下してきており、一方で腎硬化症は毎年増え続けており、2019年に初めて慢性糸球体腎炎を抜き二番目に多い原疾患となりました。​