磨耗症の原因と予防法、診断から治療

磨耗症の原因と特徴

磨耗症の主な原因
🪥

不適切なブラッシング

硬い歯ブラシや強すぎる力での歯磨きが歯の表面を削ります

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歯ぎしり・食いしばり

睡眠中の無意識な力で歯が摩耗します

🔧

習慣的な物の使用

パイプや楊枝、義歯との接触による摩耗が起こります

磨耗症とは何か

磨耗症は、歯と歯以外のものが擦れ合って歯の表面が削れていく病気です。むし歯や歯周病と並び、3大歯科疾患のひとつに数えられていますが、日本ではあまり知られていない疾患なんです。歯の損耗(Tooth Wear)には大きく分けて酸蝕症、咬耗症、摩耗症、アブフラクションの4種類があり、磨耗症はこの中で歯ブラシや義歯、物理的な接触によって歯が削れる症状を指します。

参考)摩耗症


初期の段階では自覚症状が出ることは少ないですが、進行すると知覚過敏や歯の欠け、最終的には歯頚部で歯が折れることもあります。特に臼歯部の唇側歯頚部にくさび状の欠損が起きやすく、これを楔状欠損と呼びます。

参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E7%A3%A8%E8%80%97%E7%97%87

磨耗症の主な原因要素

最も多い原因は不適切な歯磨き方法です。硬い歯ブラシを使ったり、強い力でブラッシングしたり、粗い研磨剤入りの歯磨き剤を長期間使用することで歯の表面が削られていきます。歯ブラシをグー持ちで持つと無駄に大きな力がかかってしまい、磨耗症のリスクが高まるんです。

参考)磨耗症/くさび状欠損(症状・原因・治療など)|ドクターズ・フ…


歯磨き以外の原因としては、義歯の床縁やクラスプとの接触、楊枝や爪咬み、パイプなどの習慣的な使用が挙げられます。吹管奏者や硝子吹管工、釘や針を口にくわえる職業の方にも職業性の磨耗症が見られます。​
タバコのヤニや着色を落とす歯磨き粉には粗い研磨剤が入っているものが多く、長期的な使用はエナメル質を徐々に削り落としてしまいます。歯ブラシの硬さも重要で、硬いスポンジでガラスのコップを洗うとキズが入るように、硬い歯ブラシでの長期的なブラッシングは歯に同じことが起こり得るのです。

参考)Tooth Wearって?摩耗症とアブフラクションについて …

磨耗症と他のTooth Wearとの違い

磨耗症は咬耗症や酸蝕症と混同されがちですが、それぞれ原因が異なります。咬耗症は歯と歯が擦れ合って起こる症状で、歯ぎしりや食いしばりが主な原因です。一方、酸蝕症は細菌の関与がなく、酸性飲食物や胃酸による化学的な溶解で歯が削れる病気なんです。

参考)医院ブログ


重要なのは、酸蝕症があると歯の表面が軟らかくなり、磨耗症や咬耗症の進行が急速に進んでしまうという点です。そのため、酸蝕症は損耗症の中でも最も注意すべき病気とされています。

参考)損耗治療(歯の削れ)|神戸市西区の歯医者|しらみず歯科クリニ…


磨耗症は力がかかっているところが削れるのではなく、歯ブラシや物理的な接触部分が削れるという特徴があります。これに対して、アブフラクションは咬合ストレスによって歯頚部に応力が集中し、くさび状の欠損が生じる現象です。

参考)Tooth Wear口腔内でおこる硬組織欠損

磨耗症が引き起こす症状と合併症

磨耗症の進行により、歯髄と口腔内の距離が近くなると、冷水や歯ブラシの刺激により知覚過敏を起こします。くさび状欠損がさらに進行すると、むし歯を合併しやすくなり、歯髄に感染が起きることもあります。​
放置し続けると、木が倒されるように歯頚部で歯が折れることがあり、最終的には歯の寿命を縮める結果になってしまいます。歯ぎしりや食いしばりによる強い力は、体重の2倍から5倍に達し、60kgの人なら120kgから300kgもの力が歯に加わるとされています。

参考)ナイトガードの効果は3つ|歯ぎしりを放置した場合に生じるリス…


症状としては、冷たいものや甘いもの、酸っぱいものを摂取した際に歯のしみを感じたり、歯の見た目に異常を感じることがあります。初期段階では軽視しがちですが、症状が深刻になると欠損が神経まで達して歯の神経をとる治療や、歯の破折につながります。

参考)楔状欠損について

Tooth Wearの種類 原因 特徴
磨耗症 歯ブラシ、義歯、物理的接触 歯頚部のくさび状欠損
咬耗症 歯と歯の接触、歯ぎしり 咬合面の平坦化
酸蝕症 酸性飲食物、胃酸 化学的溶解、細菌非関与
アブフラクション 咬合ストレス 歯頚部への応力集中

磨耗症のリスクが高い人の特徴

利き手側の歯に磨耗症ができやすい傾向があり、毎日の習慣の積み重ねで起こることが多いです。加齢や歯周病によって歯肉が下がると歯の根元が露出し、エナメル質に比べて柔らかい象牙質が露出するため、歯ブラシなどの刺激で削れて楔状欠損につながりやすくなります。

参考)しみる原因?楔状欠損とは


歯科衛生士の指導を受けずに自己流で歯磨きを続けている方、ホワイトニング効果を謳う研磨剤入り歯磨き粉を常用している方、職業上の習慣で特定の物を口にくわえる方などは、特に注意が必要です。​
吹奏楽器の演奏者は楽器のマウスピースとの接触で特定部位の磨耗が起こりやすく、磨耗部の外形はくわえた物質の形状に相応します。こうした職業性の磨耗症は、一般的な歯磨きによる磨耗とは異なるパターンを示すことがあるんです。​

磨耗症の診断と検査方法

磨耗症の診断プロセス

磨耗症の診断は、歯の表面にある微細な傷や欠けの有無、歯の形の変化を注意深く観察することから始まります。歯科医師は噛み合わせの状態や顎関節に違和感がないかを確認しながら、歯が削れるスピードや部位の特徴を総合的に見極めていきます。

参考)磨耗症


視診では特に臼歯部の唇側歯頚部にくさび状の欠損がないか、歯の咬合面が平坦になっていないかなどをチェックします。必要に応じてレントゲン撮影や口腔内写真の記録を行い、少しずつ進行している変化も見逃さないよう管理するのです。

参考)磨耗症・咬耗症|中川歯科クリニック


歯ぎしりの頻度が高いと思われる場合には、就寝時の歯の接触状況を調べるためにスプリント(マウスピース)を用いた検査方法が選択されることもあります。マウスピースに徐々に傷や削れが生じることで、実際に歯ぎしりや食いしばりが行われているか確認できるんです。​

磨耗症と鑑別すべき疾患

磨耗症と間違えやすい症状として、くさび状欠損や酸蝕症が挙げられます。くさび状欠損の原因は歯ぎしり、食いしばり、過剰なブラッシング、酸によるエナメル質の溶解、咬合ストレス、食生活など多岐にわたります。​
酸蝕症はむし歯菌が酸を作って歯を溶かすのと異なり、細菌の関与がありません。若年者ではスポーツドリンクや清涼飲料水が原因となり、中高年では食酢の飲用や摂食障害が原因となりやすい特徴があります。​
特に重要なのは、酸蝕症と磨耗症が併発しているケースです。酸蝕症で歯の表面が軟らかくなっている状態で歯ぎしりや強いブラッシングで力がかかると、一気に歯が削れていく可能性が高くなります。このため、酸蝕症は咬耗や摩耗を加速させる最も注意すべき病気とされているんです。​

磨耗症の進行度評価

磨耗症の進行度は、欠損の深さや範囲、知覚過敏の有無などで評価されます。軽度の場合は生活習慣の改善や適切なブラッシング指導で対処できることが多いです。

参考)Tooth Wear (トゥースウェア)について(スタッフブ…


中等度になると、歯の形状が明らかに変化し、知覚過敏の症状が頻繁に現れるようになります。この段階ではコンポジットレジンによる修復治療が必要になることがあります。

参考)歯がボロボロ…それは、Tooth Wearかもしれません。原…


重度の磨耗症では、歯髄に近い深さまで欠損が進行し、歯髄炎のリスクが高まります。放置すると歯頚部で歯が折れる可能性もあるため、早期の治療介入が重要です。

参考)歯ぎしり・食いしばりの影響について解説 – ちかファミリー歯…

磨耗症の治療アプローチ

磨耗症の保存的治療法

軽度の磨耗症では、まず原因となる生活習慣の改善が最優先されます。歯科衛生士によるブラッシング指導で、歯ブラシの当て方や力加減を学ぶことが有用です。口腔ケアの専門家である歯科衛生士から、個別のブラッシング指導を受けることで、根本的な原因を取り除くことができるんです。

参考)歯磨きで歯は摩耗する?|中野の歯医者


歯ブラシは「ふつう」の硬さを選び、優しい力で磨くことが推奨されます。力加減については歯科衛生士に相談し、小刻みに磨くことを心がけましょう。研磨剤の粗い歯磨き粉の使用を控え、特にホワイトニング用の歯磨き粉の常用は避けるべきです。

参考)歯の損耗について


歯ぎしりや食いしばりが原因の場合、ナイトガード(マウスピース)の装着が効果的です。ナイトガードは強化プラスチック製で人間の歯よりも柔らかい素材のため、歯ぎしりや食いしばりをしても、ナイトガードが削れるだけで歯そのものは保護できます。

参考)睡眠中のマウスピース(ナイトガード)による効果は?装着するメ…

治療法 適用症例 効果
ブラッシング指導 軽度の磨耗症 原因除去、予防効果
ナイトガード 歯ぎしり・食いしばり 歯の摩耗防止、負担分散
レジン充填 中等度の欠損 歯の形態回復、知覚過敏改善
セラミッククラウン 重度の磨耗 歯の補強、審美性回復

磨耗症の修復治療

磨耗が進んでしまった歯は、コンポジットレジン(白い樹脂)を詰めて補強します。これにより歯の見た目を改善し、知覚過敏も軽減されます。コンポジットレジン充填は、歯に直接接着材をつけ、そこに樹脂を詰めて特殊な光を当てて固める治療法です。

参考)保険適用の白い詰め物「コンポジットレジン」 – 長野フォレス…


基本的には小さな欠損に限られますが、多くの場合1回の通院で治療を終わらせることが可能です。むし歯が小さければ治療は簡単で、短時間で費用もそれほどかからず、治療痕も目立ちません。​
歯が短くなったり、しみる症状が出ている場合には、セラミッククラウンを使って歯を修復することもあります。詰め物や被せ物の材料が樹脂製や金属製といった保険診療によるものである場合、噛む力によって徐々に消耗したり変形していくため、セラミック製にアップグレードすることが歯を守る一助になるんです。

参考)歯ぎしり食いしばりが歯や詰め物に与える悪影響とは?

磨耗症におけるナイトガードの役割

ナイトガードを口の中につけて眠ると、上下の歯が直接ぶつかるのを防げます。その結果、力が直接歯に伝わらず、摩耗や欠け、ヒビ割れなども防止できます。ナイトガードは歯の表面に直接加わる力を緩和し、歯の摩耗を防ぐ役割を果たすんです。

参考)マウスピースで快適な朝を!歯ぎしり改善の第一歩


詰め物や被せ物の寿命を延ばす効果もあります。歯ぎしりや食いしばりがあると自分の歯だけでなく、銀歯やプラスチックの詰め物、被せ物なども壊れやすくなりますが、ナイトガードをつけることで噛む力が全体的に分散され、特定の箇所に力が集中することを防ぎます。

参考)ナイトガードの効果!歯ぎしり・食いしばり対策


ナイトガードは透明で違和感の少ない素材を使用しており、就寝時のストレスも軽減できます。オーダーメイドのナイトガードを装着することで、就寝中の歯ぎしりから歯を守ることができるんです。

参考)【歯の摩耗とは?原因と予防法をわかりやすく解説|大阪市都島区…


ナイトガードの効果は3つ|歯ぎしりを放置した場合に生じる問題

ナイトガードの効果や使用方法の詳細は、こちらのサイトで詳しく解説されています。

磨耗症治療における生活習慣の改善

食生活の改善も重要です。酸性のものを過剰に摂取しないようにし、炭酸飲料や酸っぱいものを摂取した後は口を水ですすぐか、摂取後すぐ歯磨きを行うと良いです。ただし、酸性飲料摂取直後の歯磨きは避け、30分後の遅延歯磨きが推奨されています。​
硬いものを無理に噛まない、姿勢に気をつける、ストレスをためないといった生活習慣の見直しも効果的です。猫背や片側だけで噛むクセは避けるべきです。​
ストレスが原因で歯ぎしりをすることが多いため、リラックスする習慣をつけることも重要です。寝る前にスマホを控える、深呼吸をするなどのストレス管理が推奨されます。​
噛み合わせの治療を行うことも選択肢のひとつです。上顎と下顎の位置関係の不調和は歯ぎしり食いしばりを増長・増悪させてしまうため、顎の位置の不調和を取り除いて改善することが結果的に歯ぎしり食いしばりを軽減し、歯や被せ物を守る環境を作ることに繋がっていきます。​

磨耗症治療後のメンテナンス

治療後に剥がれてきたり欠けてしまうなどの不具合がないかどうかは、定期的なメンテナンスでチェックする必要があります。そうすることでコンポジットレジンで治療した歯を長持ちさせることができるんです。​
定期的な歯科検診により、歯の摩耗を早期に発見し、適切な対処を行うことができます。定期検診の中で必要に応じて治療や予防策を提案され、早期に対処することで将来的な歯の健康を守ることが可能です。​
噛み合わせや補綴物のチェックも同時に行えるため、3ヶ月から6ヶ月ごとの定期検診が推奨されています。歯科医院には治療のためではなく予防のために通院できるのが理想的です。​

磨耗症の予防戦略

磨耗症予防のための正しい歯磨き法

正しいブラッシングを身につけることが磨耗症予防の基本です。力を入れすぎない、柔らかめの歯ブラシを使う、小刻みに磨くことを心がけましょう。歯ブラシの持ち方も重要で、グー持ちではなくペン持ちにすることで無駄に大きな力がかかるのを防げます。​
研磨剤入りの歯磨き粉の使用には注意が必要です。特にタバコのヤニや着色を落とす歯磨き粉には粗い研磨剤が入っているものが多く、長期的な使用はエナメル質を徐々に削り落としてしまいます。​
歯ブラシの硬さ選びも慎重に行うべきです。硬いスポンジでガラスのコップをゴシゴシ洗うとコップに細かなキズが入るように、長期的に硬い歯ブラシを使えば歯にも同じことが起こり得るんです。​

磨耗症予防における食習慣の管理

酸性食品の摂り方に注意することが重要です。だらだら、ちびちびした摂取は酸蝕症を生じやすくします。Holding(酸性飲料をため込む飲み方)やSwishing(口腔内で激しく移動させる飲み方)は避けるべきです。​
柑橘系果実を前歯で直接かじる行為やスライス果実をなめる行為は、特に注意が必要です。これらの行為は歯の表面を直接酸にさらすため、酸蝕症のリスクを高めます。​
酸性飲料摂取後は、すぐに歯磨きせず水でうがいをする、またはキシリトールガムを噛むなどして口腔内のpHを整えることが推奨されます。摂取直後の歯磨きを避け、30分後の遅延歯磨きが効果的です。​

磨耗症予防のための歯ぎしり対策

歯ぎしりの癖がある場合は、ナイトガードと呼ばれるマウスピースを使用することが推奨されます。ナイトガードは寝ている間に歯ぎしりから歯を保護する装置で、気になる場合はいつでも歯科医師に相談できます。​
ボツリヌストキシン治療も選択肢のひとつです。歯ぎしり食いしばりは過度な筋肉の酷使によるものですので、ボツリヌストキシン治療によって筋肉の与える力をコントロールすることで、歯や詰め物などに過剰な力がかからないようにすることが可能です。​
ストレス管理も重要な予防策です。リラックスする習慣をつけることで、無意識の歯ぎしりや食いしばりを軽減できる可能性があります。寝る前にスマホを控える、深呼吸をするなどの方法が効果的です。​

磨耗症予防における定期検診の重要性

定期的な歯科検診により、磨耗症の早期発見と適切な対処が可能になります。噛み合わせや補綴物のチェックも同時に行え、3ヶ月から6ヶ月ごとの定期検診が推奨されています。​
早期に磨耗の兆候を見つけ、軽度のうちに予防・処置することが大切です。歯科医師は歯の表面にある微細な傷や欠けの有無、歯の形の変化を注意深く観察し、少しずつ進行している変化も見逃さないよう管理してくれます。​
歯科医院には治療のためではなく予防のために通院できるのが理想的です。磨耗症や歯ぎしりを守るために、興味がある方はまず相談から始めてみることをおすすめします。​
摩耗症 | 口腔病理基本画像アトラス

日本口腔病理学会が提供する摩耗症の画像アトラスでは、臨床的な所見や病理学的特徴が詳しく解説されています。

磨耗症予防のための職業的配慮

職業性の磨耗症には特別な配慮が必要です。吹管奏者、硝子吹管工、釘や針を口にくわえる職業の方は、定期的に歯科検診を受けることが推奨されます。​
吹奏楽器の演奏者は楽器のマウスピースとの接触で特定部位の磨耗が起こりやすいため、演奏時の姿勢や楽器の当て方を見直すことも有効です。磨耗部の外形はくわえた物質の形状に相応するため、職業性の磨耗症は一般的な歯磨きによる磨耗とは異なるパターンを示します。​
義歯を使用している方は、義歯の床縁やクラスプとの接触による磨耗に注意が必要です。定期的に義歯の適合をチェックし、必要に応じて調整することで磨耗のリスクを減らせます。​