心臓弁膜症の症状と段階別評価

心臓弁膜症の症状と段階

心臓弁膜症の進行段階と特徴
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初期段階(0〜3度)

無症状で経過することが多く、健康診断の聴診で心雑音から発見されることが一般的です。

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重症段階(4度)

息切れ、動悸、胸痛などの自覚症状が出現し、日常生活に支障をきたすようになります。

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末期段階

心不全状態に進行し、安静時でも苦しさを感じるようになり、緊急の治療介入が必要です。

心臓弁膜症の重症度評価と5段階分類

心臓弁膜症の重症度は、心エコー検査を中心とした客観的な指標によって0~4度の5段階で評価されます。

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この評価システムでは、弁の狭窄や逆流の程度を定量的に測定し、心臓への負担度を数値化します。具体的には、心エコー検査で大動脈弁口面積(AVA)、大動脈弁最大血流速度(Vmax)、大動脈弁平均圧格差(mPG)などの指標を用いて判定されます。

参考)大動脈弁狭窄症(重症度分類)


僧帽弁閉鎖不全症とは?原因・症状・検査・治療・手術方法|ニュ…


国立循環器病研究センターによると、僧帽弁や大動脈弁の弁膜症では、最も重い4度にまで進行すると、徐々に「息切れ」「動悸」「胸痛」などの症状が悪化し、やがては苦しくて動けない「心不全」状態になります。

参考)弁膜症疾患|心臓外科|心臓血管外科部門|診療科・部門のご案内…

心臓弁膜症の初期段階における無症状期の特徴

心臓弁膜症の最大の特徴は、初期段階では症状がほとんど現れないことです。

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この無症状期は「代償期」とも呼ばれ、弁が壊れることで心臓への負担が増えても、心臓が自らの形態を変化させることで対応します。

参考)心臓外科 心臓弁膜症 国際医療福祉大学成田病院


具体的には、出口が狭くなると心臓は筋肉を肥大させて強い圧力を出せるようにする「心肥大」が起こり、漏れが生じると心臓を大きくして多くの血液を送り出せるようにする「心拡大」が生じます。​
この代償機構のおかげで、体には必要な血液が送り届けられ、特に自覚症状は現れません。しかし、こうした間も病気は徐々に進行していきます。​
患者の中には「前より息が切れるけど年だからしょうがないかな」と考え、症状を加齢によるものと誤認して経過観察してしまう方もいます。​
このため、健康診断での聴診による「心雑音」の発見が重要になります。弁が狭くなったり閉まりが悪くなると血流に異常が生じ、それが異常な雑音として聴き取れるようになるからです。

参考)どんな検査?

心臓弁膜症の進行段階と出現する症状

心臓弁膜症は数年かけて徐々に進行するため、体もある程度は慣れていきます。​
中等度以上になると、心臓に負担をかけた状態、つまり日常生活での歩行時や階段を上った時などに、息切れや動悸が出やすくなります。​
さらに進行すると、少し動いただけでも症状が出るようになり、重症の心不全にまでなると、横になって寝ていると苦しくなり、座っていた方が楽という「起坐呼吸」といった症状が出る場合もあります。​
また、下腿を中心とした全身のむくみが出現してきます。​
大動脈弁狭窄症では、息切れや胸痛、失神が特徴的で、重症化しても無症状の場合もありますが、重症の大動脈弁狭窄症はそれのみで突然死のリスクになります。​
大動脈弁閉鎖不全症では、動悸や息切れなどがありますが、相当重症化しない限り失神や突然死は少ないとされています。​
心臓弁膜症のNYHA心機能分類による症状評価

医療現場では、患者の症状の程度を評価するため、問診時にNYHA(エヌワイエイチエー)心機能分類という指標を用いて重症度を4段階評価しています。

参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E5%BF%83%E8%87%93%E5%BC%81%E8%86%9C%E7%97%87/contents/170606-012-WB


NYHA分類では、Ⅰ度を「悪くない」、Ⅱ度を「少し悪い」、Ⅲ度を「中程度に悪い」、Ⅳ度を「非常に悪い」と評価します。​
Ⅱ度~Ⅲ度の患者の多くは待機手術となりますが、この評価は絶対的なものではなく、症状の有無は手術を考慮するきっかけと捉えられます。​
ただし、NYHA心機能分類はあくまで診断の補助という位置付けであり、手術適応を決定する際には、心エコー検査などの客観的な重症度評価と併せて総合的に判断されます。​
また、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)という心臓への負担の程度を表す数値も重要な指標となり、正常値は18pg/mLですが、この値が100pg/mLを超えている場合は手術を考慮します。​
手術適応を考える上では、NYHA心機能分類Ⅱ度以上の臨床症状、心房細動の出現、血栓塞栓症状の出現の3点が重要とされています。

参考)僧帽弁狭窄症


心臓弁膜症治療のガイドラインでは、重症度分類を正しく評価することおよび症状の有無が重要となっています。日本循環器学会「弁膜症治療のガイドライン」

参考)https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/04/JCS2020_Izumi_Eishi.pdf

心臓弁膜症の診断における心エコー検査の重要性

心臓弁膜症の診断において、心エコー検査は最も重要な検査とされています。

参考)治療方針を決めるための検査


心エコー検査では、超音波を使って心臓の弁の動き、狭窄や血液の逆流を調べ、弁の動きや血液の流れを目視することが可能です。​
具体的には、どこの弁がどの程度狭くなっているのか、閉まりが悪くなっているのか、そしてなぜそのようになっているのかを把握することができます。​
重症度評価では、定性評価法と定量評価法の両方が用いられ、僧帽弁逆流の場合、カラードプラジェット面積、Vena contracta幅、肺静脈血流シグナルなどの定性評価、および僧帽弁逆流量、僧帽弁逆流率、有効逆流弁口面積などの定量評価が行われます。​
新ガイドラインでは、慢性の僧帽弁逆流が一次性(器質性)と二次性(機能性)に分類されており、重症度の評価が異なるため、注意が必要です。

参考)心エコーによる僧帽弁逆流の重症度評価と問題点


弁膜症の重症度評価については、かつては心臓カテーテル検査のSellers分類がゴールドスタンダードでしたが、現在は心エコー検査が主流となっています。

参考)Sellers分類(セラーズ分類)|大動脈弁閉鎖不全症・大動…


ただし、心エコー図検査による評価が困難な場合や、心エコー図の所見と臨床症状に乖離がある症例に対しては、心臓カテーテル検査が行われます。​

心臓弁膜症の早期発見と定期受診の意義

心臓弁膜症は、無症状の段階でも手術が推奨されることがあるため、定期的な受診と超音波検査が非常に重要です。​
これは、一度壊れた弁は自然に治癒することはなく、適切なタイミングで手術をすることが患者の予後に大きく影響するためです。​
心臓弁膜症を早期に発見し、適切なタイミングで治療することで、心不全に至る前に弁の機能を回復させ、より元気に長生きできる可能性が高まります。​
手術のタイミングを逸しないことが重要であり、循環器専門医による定期的な状態確認と、必要に応じた薬物治療、そして薬物治療でも改善が認められない場合の手術療法の検討が求められます。​
心臓の機能は、手術に至るまでにどれだけ心臓に負担をかけていたかによって術後の回復が異なるため、心臓の機能が末期的になる前に手術をしたほうが、心臓の回復も期待できます。​
国立循環器病研究センターでは、手術の前日もしくは前々日に入院し、手術は3時間程度、術後2日ほど集中治療室で過ごした後、1週間から10日ほどで退院できるくらいの体力を回復し、その後外来通院を2、3か月することで創部も治癒し普通の生活に戻れるとしています。​
手術後には適切な心臓リハビリテーションを行い、安全かつ適切な管理をすることで、手術前以上の元気な状態になることが目標とされています。​

段階 重症度(0〜4度) 症状 治療方針
初期(代償期) 0〜2度 無症状 定期観察、薬物療法
中等度 3度 歩行時・階段で息切れ 薬物療法、手術検討
重症 4度 少し動くだけで症状出現 手術適応
末期(心不全) 4度 起坐呼吸、全身浮腫 緊急手術

日本循環器学会の弁膜症治療ガイドラインには、各弁膜症の詳細な重症度評価基準と治療方針が記載されており、医療従事者にとって重要な参考資料となっています。日本循環器学会「弁膜症治療のガイドライン」
一般社団法人心臓弁膜症Voice(ボイス)では、患者向けの検査や診断に関する詳しい情報が提供されています。心臓弁膜症Voice「どんな検査?」
心臓弁膜症の診断と治療に関する総合的な情報は、日本心臓財団のウェブサイトでも詳しく解説されています。日本心臓財団「心エコーによる僧帽弁逆流の重症度評価と問題点」