不妊症と看護学生の学習ポイント

不妊症と看護学生の学習内容

不妊症看護の学習で押さえるべき重要ポイント
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不妊症の定義と基礎知識

生殖年齢のカップルが避妊せず定期的に性生活を送っても1年以上妊娠しない状態を不妊症と定義します

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不妊症の検査と治療過程

基礎体温測定、精液検査、子宮卵管造影など6大基本検査から生殖補助医療まで段階的に進む治療を理解します

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心理社会的支援の重要性

不妊治療中の患者さんは身体的負担だけでなく心理的ストレスも大きく、看護師による継続的な心理支援が必要です

不妊症の定義と原因の理解

不妊症は生殖年齢の男女が避妊せず定期的な性生活を1年以上続けても妊娠しない状態を指します。以前は2年という定義でしたが、WHOやアメリカの学会基準に合わせて1年に短縮されました。日本では約10~15%のカップルが不妊に悩んでおり、近年では7組に1組、将来的には3.5組に1組になるという統計もあります。

参考)5.不妊の原因と検査 href=”https://www.jaog.or.jp/lecture/5-%E4%B8%8D%E5%A6%8A%E3%81%AE%E5%8E%9F%E5%9B%A0%E3%81%A8%E6%A4%9C%E6%9F%BB/” target=”_blank”>https://www.jaog.or.jp/lecture/5-%E4%B8%8D%E5%A6%8A%E3%81%AE%E5%8E%9F%E5%9B%A0%E3%81%A8%E6%A4%9C%E6%9F%BB/amp;#8211; 日本産婦人科医会


不妊症の原因は女性側と男性側でほぼ1対1の割合で存在し、男性不妊の割合も約50%を占めています。女性側の主な原因には排卵因子(無排卵、ホルモン異常)、卵管因子(卵管通過障害、骨盤腹膜炎による癒着)、子宮因子(子宮内膜症子宮筋腫)があります。男性側では造精機能障害(無精子症、乏精子症、精子無力症)や精管通過障害が主な原因です。

参考)看護師国家試験 第101回 午後60問|看護roo![カンゴ…


女性の年齢は不妊症の治療効果に大きく影響し、加齢による卵子の質の低下により妊娠率が下がります。30代前半の着床率は30~40%ですが、40代では10~20%以下になるため、早期の検査開始が推奨されています。

参考)看護師国家試験 第104回改変 午前81問|看護roo![カ…


日本産科婦人科学会の不妊症の原因と検査に関する情報はこちらで詳しく解説されています。

不妊症の6大基本検査とアセスメント

不妊症の診断には系統的な検査が必要で、看護学生は各検査の目的と方法を理解する必要があります。

参考)https://www.jaog.or.jp/sep2012/JAPANESE/PUB/funin/chiryo/kensa.htm

6大基本検査の内容

検査項目 目的 実施時期
基礎体温測定 排卵の有無、排卵日予測、黄体機能評価 毎日継続的に測定
一般精液検査 精子濃度、運動率、形態の評価 4~7日間の禁欲期間後
頸管粘液検査 頸管粘液の量と性状の評価 排卵日近く
フーナーテスト 頸管粘液中への精子進入の確認 排卵日頃の性交後
子宮卵管造影 子宮形態、卵管通過性、癒着の評価 月経直後
経腟超音波検査 子宮・卵巣の状態、卵胞発育の観察 月経周期に応じて

月経周期に合わせた内分泌検査も重要で、卵胞期にはLH、FSH、プロラクチンを測定し、黄体期にはプロゲステロン濃度を測定して黄体機能を評価します。クラミジア抗体検査や甲状腺機能検査も初期スクリーニングに含まれます。

参考)不妊治療 【3】不妊症の検査|不妊について|一般の皆様へ|徳…


看護学生は検査の説明と心理的支援の重要性を学び、患者さんが検査内容を理解し安心して受けられるよう配慮する必要があります。

参考)https://www.nurse.or.jp/nursing/wp-content/uploads/2022/03/10_funinshou_A_20220330.pdf

不妊症治療の種類と看護過程

不妊症治療は一般不妊治療から生殖補助医療へと段階的にステップアップします。

参考)https://kango-oshigoto.jp/media/article/2629/


一般不妊治療にはタイミング療法、排卵誘発薬(クロミフェン、ゴナドトロピン)の投与、人工授精(AIH)があります。タイミング療法は超音波検査とホルモン測定で排卵日を予測し、最適な性交のタイミングを指導する方法です。人工授精は洗浄濃縮した精子を子宮腔内に直接注入し、精子と卵子の出会う確率を高める方法です。

参考)https://www.aska-pharma.co.jp/mint/womanhealth/funin/


生殖補助医療(ART)には体外受精-胚移植(IVF-ET)、顕微授精(ICSI)、凍結融解胚移植(FET)があり、2022年より保険適用が開始されました。体外受精では採卵後に体外で受精させた胚を子宮内に移植します。

参考)不妊治療に寄り添う“こころのサポート”をスタート、不妊治療患…


看護師の役割として、初診時には問診を取り治療歴や希望を聴取し、検査や治療法、費用について説明します。治療中は診察後に看護師が対応し不明点を解消し、治療のコーディネートを行います。治療のステップアップ時や治療が長期にわたる場合の継続的な支援も重要です。

参考)納得して不妊治療を受ける共有意思決定プロセスへの看護支援|一…


厚生労働省の不妊治療に関する支援制度についてはこちらで最新情報が確認できます。

不妊症患者の心理的特徴と看護支援

不妊症患者は身体的負担だけでなく、欠如感、喪失感、自尊感情の低下、被差別体験による傷つきなど独特で複雑な心理過程を経験します。体外受精等の不妊治療初期段階でも軽度以上の抑うつ症状を抱える患者の割合は54.0%に達するという調査結果もあります。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjam/20/1/20_1_1_69/_pdf


看護学生が理解すべき不妊症患者の心理的特徴として、治療結果の不確かさと時間的制限によるストレス、カップルでの治療という特殊性、仕事との両立の困難さがあります。特に治療が長期化すると「治療の出口が見えない」「孤独感や不安に押しつぶされそう」といった訴えが増加します。

参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/05/s0523-1b.html


看護師による心理的支援の実際として、初診時から信頼関係を構築し、継続的に患者の思いを傾聴することが重要です。診察後の看護師対応により「話を聞いてもらってすっきりした」「疑問点が解決した」という反応が得られ、納得した意思決定支援につながります。

参考)不妊症看護認定看護師になるには?役割やメリットも解説


不妊症看護の基礎理論には危機理論、喪失と悲嘆、ストレスコーピング理論、セルフケア理論、エンパワーメント、意思決定理論、家族関係論などがあり、これらの理論を活用してアセスメントと看護介入を行います。​

看護師国家試験での不妊症の出題傾向

看護師国家試験では不妊症に関する問題が母性看護学の分野で定期的に出題されています。

参考)看護師国家試験 第112回 午前62問|看護roo![カンゴ…


過去の国家試験での主な出題内容を確認すると、第101回では「不妊症とその原因の組合せ」が問われ、卵管の疎通性障害と骨盤腹膜炎の関連が正解でした。第104回では不妊症の定義(1年間の妊娠不成立)、頻度(10組に1組)、体外受精への公的助成制度、女性の年齢と治療効果の関係、男女の原因比率が問われました。第112回では原因不明の割合、基礎体温測定の検査としての位置づけ、女性の年齢と治療効果の関係が出題されました。

参考)不妊症について href=”https://www.ikyo.jp/commu/question/1116″ target=”_blank”>https://www.ikyo.jp/commu/question/1116amp;#8211; 医教コミュニティ つぼみクラ…

国家試験対策として押さえるべきポイントは以下の通りです。

📌 不妊症の定義:1年以上妊娠しない状態(以前は2年)​
📌 頻度:10組に1組(最近は7組に1組という報告も)​
📌 原因:男女ほぼ1対1の割合、男性因子約50%

参考)一般社団法人日本生殖医学会|一般のみなさまへ – 生殖医療Q…


📌 検査:基礎体温測定が最も基本的​
📌 年齢:女性の加齢により治療効果が低下​
📌 治療:2022年より体外受精等に保険適用​
看護師国家試験の問題例と解説はこちらで確認できます。

不妊症看護における多職種連携と倫理的配慮

不妊症看護では多職種との連携と倫理的配慮が重要な要素となり、看護学生はこれらの視点も学ぶ必要があります。​
生殖医療チームには医師、看護師、臨床検査技師、胚培養士、心理カウンセラー、不妊症看護認定看護師などが含まれ、各専門職が連携して患者中心の医療を提供します。看護師は多職種間の調整役として、患者が望む治療を選択できるよう支援体制を構築します。周産期医療チーム、がん医療チーム、リハビリテーションセンター、教育機関、行政機関との連携も必要です。​
倫理的配慮の面では、第三者が介在する配偶子・胚の提供、着床前診断・出生前診断、生殖補助医療の適用範囲、子どもが出自を知る権利など、様々な倫理的課題が存在します。生殖医療を必要とする患者・家族の権利を擁護し、適切な倫理的判断に基づいて自己決定を尊重した看護を実践することが求められます。​
看護師は遺伝カウンセリングを受けるカップルへの支援、性機能障害のカップルへの支援、提供配偶子を用いた治療時の支援、生殖機能温存を望むがん患者への支援など、多様なニーズに対応する能力が必要です。​
生殖看護認定看護師(旧:不妊症看護認定看護師)は「実践」「指導」「相談」の3つの役割を担い、専門的な知識と技術を用いて水準の高い看護を提供します。2022年現在、全国で172名の認定看護師が活動しており、今後は生殖看護認定看護師として教育課程が再開される予定です。​
日本看護協会の生殖看護認定看護師教育カリキュラムの詳細はこちらで確認できます。