敗血症の症状と臨床徴候
敗血症の初期症状とバイタルサイン変化
敗血症の初期症状として最も重要なのは頻呼吸であり、呼吸性アルカローシスを引き起こす呼吸数22回/分以上が早期の重要な指標となっています。発熱も敗血症の代表的な初期症状ですが、高齢者や免疫不全患者では逆に低体温(36℃未満)を呈することもあるため注意が必要です。
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初期段階では、悪寒を伴う発熱、全身のふるえ、発汗といった症状が出現し、一見すると風邪のような症状として見過ごされやすいのが特徴です。この段階で「毛布をかぶりたくなるほどの悪寒」がある場合は、敗血症である可能性が高いとされています。心拍数の上昇(90回/分以上)も初期から認められ、頻脈と頻呼吸の組み合わせは敗血症を疑う重要なサインとなります。
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敗血症の感染源別症状と身体所見
敗血症の感染源として最も頻度が高いのは肺炎、腹腔内感染症、尿路感染症の3つであり、それぞれに特徴的な症状が併存します。
肺炎を感染源とする敗血症では、咳、喀痰、呼吸困難などの呼吸器症状に加え、聴診でラ音(crackles)が聴取されます。腹腔内感染症(胆道感染症、腸閉塞、虫垂炎など)が原因の場合は、腹痛、嘔吐、下痢といった消化器症状とともに、腹部の圧痛、肝叩打痛、腹膜刺激徴候などの身体所見が認められます。
尿路感染症による敗血症では、頻尿、排尿時痛、残尿感、腰痛などの尿路症状に加え、下腹部圧痛や肋骨脊柱角の叩打痛が特徴的です。皮膚軟部組織感染(褥瘡など)が原因の場合は、発赤、疼痛、膿、皮膚びらん、壊死といった局所症状が観察されます。
感染源に関連した症状の確認は、適切な抗菌薬選択や外科的ドレナージの必要性判断において極めて重要です。
参考)https://www.wakayama-med.ac.jp/med/eccm/assets/images/library/bed_side/46.pdf
敗血症性ショックと循環不全の症状
敗血症が重症化して敗血症性ショックへ進行すると、適切な輸液負荷にもかかわらず収縮期血圧100mmHg以下、平均動脈圧65mmHg未満の持続的な低血圧を認め、血管収縮薬の投与が必要となります。この状態では血清乳酸値が2mmol/L(18mg/dL)以上に上昇し、組織低灌流と細胞代謝異常を反映します。
循環不全の身体所見として、口腔内粘膜の乾燥、頸静脈の虚脱、毛細血管再充満時間(CRT)の延長(2秒以上)が重要な指標となります。特に膝の網状皮斑(mottling)は循環不全とプレショックの予兆として注目すべき身体所見です。
末梢の冷感、チアノーゼ、尿量の著しい減少(0.5mL/kg/時未満)も敗血症性ショックの典型的な症状であり、これらの症状が認められた場合は死亡率が40%以上と極めて高く、緊急の集中治療が必要となります。
敗血症における多臓器障害の症状と評価
重症敗血症では2つ以上の重要臓器が同時に障害される多臓器障害(MODS)が発生し、臓器障害数が増加するにつれて段階的に死亡率が上昇することが大規模研究で示されています。
中枢神経障害では意識変容、傾眠傾向、見当識障害、Glasgow Coma Scale(GCS)15点未満の意識レベル低下が認められ、敗血症性脳症として知られています。呼吸器障害では急性呼吸窮迫症候群(ARDS)が発症し、頻呼吸、呼吸困難、酸素化不良(PaO2/FiO2<300mmHg)といった症状が出現します。
参考)第46回日本集中治療医学会学術集会/敗血症性多臓器不全のメカ…
腎障害では尿量減少(<0.5mL/kg/時)、血清クレアチニン値の上昇(2.0mg/dL以上)が認められ、急性腎障害へと進行します。肝障害では血清ビリルビン値の上昇(2.0mg/dL以上)、黄疸が出現し、凝固障害(播種性血管内凝固:DIC)では血小板減少(<100×10³/μL)、皮下出血、紫斑が特徴的です。
DICの合併率は20.1%ですが、その死亡率は52.9%と極めて高く、皮膚の出血傾向を認めた場合は直ちに凝固系の評価が必要です。
日本産科婦人科学会の敗血症の診断基準と評価法に関する解説では、SOFAスコアを用いた臓器障害の系統的評価方法が詳しく紹介されています。
敗血症診断におけるqSOFAスコアの活用
qSOFA(quick Sequential Organ Failure Assessment)スコアは、ICU以外の環境で敗血症を迅速にスクリーニングするために開発された簡易評価ツールです。評価項目は「意識変容(GCS15点未満)」「収縮期血圧100mmHg以下」「呼吸数22回/分以上」の3項目で、このうち2項目以上を満たす場合に敗血症を疑い、詳細なSOFAスコアによる臓器障害評価に進むことが推奨されています。
参考)https://www.bdj.co.jp/safety/articles/ignazzo/vol13/hkdqj200000uhuf3.html
米国の大規模データ解析により、qSOFAスコアが2点以上の患者は2点未満の患者と比較して3~14倍の死亡率を呈することが示されており、予後予測ツールとしての有用性が確立されています。ただし現在では、qSOFAは特異度が高い一方で感度が低く見逃しが増える可能性が指摘されており、使用する際は他のスクリーニングツールとの併用や総合的な臨床判断が重要とされています。
バイタルサインの中でも特に呼吸数の測定は軽視されがちですが、qSOFAスコアでは呼吸数が重要な評価項目となっており、定期的な測定と評価の習慣化が求められます。
看護roo!のSOFAスコアの臨床活用に関する解説では、実際の臨床現場でのスコアリング方法が具体的に紹介されています。
敗血症の予後と長期的な症状への影響
敗血症の死亡率は重症度によって大きく異なり、敗血症では10%以上、敗血症性ショックでは40%以上と報告されています。予後不良因子として、高齢、高血糖、凝固異常、発熱または低体温、白血球減少、血小板減少、複数の併存疾患の存在が挙げられます。
感染源別では、尿路感染による敗血症が最も死亡率が低く、逆に腸管虚血による敗血症は死亡率が高いことが知られています。敗血症から回復した患者においても、長期予後として退院後の死亡リスクや再入院リスクの上昇が報告されています。
退院後も睡眠障害、関節痛、認知機能の低下、臓器障害の残存といった長期的な影響が残存する場合があり、これらは集中治療後症候群(PICS)として認識されています。重症患者の認知機能低下は非常に重要な問題であり、早期からのリハビリテーション介入、せん妄予防、適切な栄養療法が長期予後改善のために推奨されています。
敗血症の早期認識と迅速な治療介入が予後改善の鍵であり、医療従事者は症状の変化を継続的に観察し、重症化の兆候を見逃さないことが求められます。