ツツガムシ病の症状
ツツガムシ病の初期症状と潜伏期間
ツツガムシ病は、病原体リケッチアを保有したツツガムシ幼虫に刺されてから5〜14日間の潜伏期を経て発症する感染症なんです。典型的な症例では、潜伏期間終了後に突然39℃以上の高熱を伴って発症し、全身倦怠感や食欲不振、強い頭痛、悪寒、筋肉痛、関節痛などの風邪様症状を呈しますよ。
参考)つつが虫病|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト
発症初期の症状は一般的な感冒症状と類似しているため、注意深い問診と身体診察が重要になります。特に野外活動歴や草むら、河川訪問の有無を確認することが診断の手がかりとなりますね。体温は段階的に上昇し、数日で40℃にも達することがあります。
潜伏期間は報告により若干の差があり、6〜21日とする文献もありますが、平均的には10〜12日程度とされています。この潜伏期間の知識は、患者からの問診で感染機会を推定する際に役立つでしょう。
参考)ツツガムシ病 – 16. 感染症 – MSDマニュアル家庭版
ツツガムシ病の刺し口の特徴と出現部位
刺し口は、ツツガムシ病診断における最も重要な臨床所見の一つで、およそ90%以上の患者に認められます。刺し口は、はじめ紅色丘疹から水疱へと変化し、続いて膿疱となり、発熱6日目頃には中央部が黒色痂皮状に変化していきますよ。
参考)https://nara.med.or.jp/for_residents/9493/
特徴的な所見として、中心部に黒いかさぶた(痂皮)があり、その周囲が赤く腫れた状態を呈し、直径は通常1〜2cm程度です。刺し口は脇の下、太ももの付け根、陰部、腹部など、皮膚の柔らかい隠れた部分に好発します。これはツツガムシが肌の露出部ではなく、衣服で覆われた柔軟部を好んで刺す習性によるものなんです。
参考)ツツガムシ病の原因や治療方法について解説|渋谷・大手町・みな…
刺し口近傍の所属リンパ節や全身のリンパ節の腫脹が患者の半数にみられます。注目すべき点として、ツツガムシに刺された時には痛みやかゆみを感じないことが多く、刺し口自体にも痛みがないため患者自身が気づきにくいという特徴があります。診察時には全身をくまなく観察し、隠れた部位の刺し口を見逃さないことが重要ですね。
参考)ツツガムシによる傷口はどのような見た目ですか? |ツツガムシ…
ツツガムシ病の発疹の分布と出現時期
発疹は発熱開始から3〜5日後、あるいは5〜8日後に出現し、体幹部を中心に顔面、四肢へと広がっていきます。発疹の性状は淡紅色の粟粒大から小豆大の丘疹状の皮疹で、1〜2cm程度の大きさのものが多発するのが特徴です。
発疹の分布パターンには臨床的に重要な特徴があり、体幹に優位な傾向があり、手掌や足底には通常出現しません。この点は日本紅斑熱との鑑別において有用な所見となりますよ。発疹の程度は患者によって異なり、軽度から重度まで様々です。
参考)身近に潜む感染症図鑑
全身にわたる発疹の出現は、病原体であるOrientia tsutsugamushiが血管内皮細胞に侵入して増殖し、全身性の血管炎を引き起こすことに起因しています。発疹、刺し口、発熱の三主徴は、ツツガムシ病診断における基本所見として理解しておく必要があるでしょう。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11261121/
ツツガムシ病の重症化症状と合併症
治療が遅れた場合、ツツガムシ病は重症化し、適切な抗菌薬投与がなされない場合の致死率は3〜60%と報告されている生命に関わる疾患です。重症化すると脳炎(約0.6%)、肺炎(約2%)、多臓器不全、播種性血管内凝固(DIC)などの重篤な合併症を引き起こします。
参考)ツツガムシ病(Scrub typhus)|症状からアプローチ…
重症化のサインとして、40度を超える高熱の持続、意識レベルの低下や錯乱状態、重度の息苦しさ、持続的な嘔吐や下痢による脱水症状、皮膚の広範囲にわたる紫斑や出血傾向などが挙げられますよ。意識障害は軽度の見当識障害から昏睡まで様々な程度で現れる可能性があり、特に高齢者では初期から見当識障害が目立つことがあります。
参考)ツツガムシ病|こばとも皮膚科|栄駅(名古屋市栄区)徒歩2分
重症化の過程では中枢神経系、呼吸器系、循環器系への影響に特に注意が必要です。呼吸困難は間質性肺炎の合併を示唆する重要な症状で、初期は軽度の息切れとして始まりますが、進行すると著明な呼吸困難を呈することがあるんです。紫斑の出現は血小板減少や凝固異常の存在を示唆する重要なサインで、特に急速に拡大する紫斑や粘膜からの出血を伴う場合は重症化のリスクが高いと考えられますね。
ツツガムシ病の検査所見と診断の要点
臨床検査では、CRP強陽性、ASTおよびALTなどの肝酵素の上昇がおよそ90%の患者にみられます。その他、異形リンパ球の出現、血小板減少、低ナトリウム血症なども特徴的な所見として認められますよ。
診断には血清学的検査と遺伝子検査が用いられ、間接蛍光抗体法または間接免疫ペルオキシダーゼ法による抗体検査が標準的です。急性期血清でIgM抗体が80倍以上、またはペア血清で抗体価が4倍以上上昇した場合を陽性とします。ペア血清は急性期から約2週間後に回復期の血清を採取する必要があり、2回目の検体提出を忘れないことが重要なんです。
参考)亀田感染症ガイドライン:リケッチア感染症 – 亀田総合病院 …
Kato型、Karp型、Gilliam型の標準三型についての抗体検査のみ保険収載されていますが、これらの標準型の抗体が陰性でも臨床的にツツガムシ病を疑う場合は、保健所経由で各地方衛生研究所に非標準型の抗体検査を相談することができます。検査の特異性と迅速性から、全血や痂皮を用いた遺伝子検査(PCR法)を抗体検査と組み合わせて診断することが推奨されますね。
国立感染症研究所によるツツガムシ病の詳細情報
ツツガムシ病の治療薬と治療期間
ツツガムシ病の治療には、テトラサイクリン系抗生物質が第一選択薬として使用されます。具体的には、ドキシサイクリンまたはミノサイクリンが効果的で、成人では100mgを1日2回、小児では2.2mg/kgを1日2回投与し、治療期間は7〜14日間が標準的ですよ。
代替薬として、クロラムフェニコール、アジスロマイシン、リファンピシンも有効性が確認されています。これらは妊婦や8歳未満の小児、薬剤アレルギーがある患者などドキシサイクリンを使用できない症例で選択されるんです。通常、適切な抗菌薬治療を開始すれば速やかに効果が現れ、発熱は治療開始後24〜48時間以内に解熱することが多いですね。
重要な点として、診断確定を待たずに臨床的にツツガムシ病を疑った時点でテトラサイクリン系抗菌薬による治療を開始することが推奨されています。治療が遅れると重症化し、死亡例もあることから、早期発見・早期治療が患者の予後を大きく左右する重要な要素となりますよ。ペニシリン系やセフェム系抗生物質は無効であることにも注意が必要です。
日本感染症学会によるリケッチア感染症の治療指針
ツツガムシ病の地域・季節性と医療従事者の注意点
ツツガムシ病は北海道を除く全国で発生しており、地域により発生時期が大きく異なります。月別報告数の全国集計では5〜6月と11〜12月に二つのピークがあり、北日本などでは春から初夏に、房総半島や西日本などでは晩秋から初冬に多く発生する傾向がありますよ。
参考)『 つつが虫病 』に注意しましょう – 岡山県ホームページ(…
この季節パターンの違いは、媒介するツツガムシの種類とその生態、地理的分布、気候条件によって決まります。アカツツガムシは北日本の一部に限られKato型を媒介し、フトゲツツガムシは全国に分布しKarp型とGilliam型を媒介します。タテツツガムシは山形県から九州南部まで分布しKawasaki型とKuroki型を媒介するんです。
参考)https://idsc.niid.go.jp/iasr/31/363/tpc363-j.html
医療従事者としての重要な注意点は、発生時期がその年の気候により影響を受けること、年間を通して本症を含むダニ媒介性リケッチア症を常に疑うことが必要だということですね。また、ヒトの移動に伴い、汚染地域に出かけて感染し帰宅後発症する例もあるため、汚染地域だけでなく広く全国の医療機関で注意が必要となります。日本紅斑熱との鑑別も重要で、両疾患とも発熱、発疹、刺し口を三主徴とするため、臨床所見の細かな違いを理解しておくことが求められますよ。
厚生労働省によるツツガムシ病の公式情報