中咽頭がんとは 症状 原因 治療 診断

中咽頭がんとは

中咽頭がんの基本知識
📍

発生部位

軟口蓋・口蓋扁桃・舌根・咽頭後壁に発生する扁平上皮がん

🦠

主要原因

喫煙・飲酒とHPV感染の2つの発症経路

⚠️

特徴

頸部リンパ節転移が高頻度で初期症状が乏しい

中咽頭がんの解剖学的位置と役割

中咽頭は咽頭の中間部分に位置し、軟口蓋から喉頭蓋上縁までの範囲を指します。咽頭全体は鼻の奥から食道入口部までの約13cmの管状構造で、上咽頭・中咽頭・下咽頭の3つに区分されています。

参考)中咽頭がんについて:[国立がん研究センター がん情報サービス…


中咽頭には軟口蓋、口蓋扁桃、舌根、咽頭後壁が含まれ、食物と空気の通路として機能しています。軟口蓋は嚥下時に上昇して鼻腔への逆流を防ぎ、咽頭全体が嚥下や構音において重要な役割を担っています。

参考)中咽頭癌


国立がん研究センターの情報によると、中咽頭がんは頭頸部がんの一種で、発生率は人口10万人あたり0.2~0.3人と比較的まれな疾患です。

参考)中咽頭がん (ちゅういんとうがん)とは


国立がん研究センター がん情報サービスでは、中咽頭がんの詳細な解剖図と基本情報が掲載されています。

中咽頭がんの原因と発症メカニズム

中咽頭がんの発症には2つの主要な経路が存在します。従来からの原因として、喫煙と飲酒が強く関連しており、両者の相乗効果により発症リスクが40倍にまで増大することが報告されています。

参考)中咽頭がん


一方、近年増加しているのがヒトパピローマウイルス感染による中咽頭がんです。HPV関連中咽頭がんは日本で約50%、アメリカでは約70%を占めており、その88%がHPV16型に起因しています。

参考)中咽頭がん 全ページ:[国立がん研究センター がん情報サービ…


HPV関連がんと喫煙・飲酒関連がんでは、分子生物学的特性や治療反応性、予後が大きく異なるため、臨床的には異なる疾患として扱われています。日本人の約5%が咽頭にHPV感染を持っており、オーラルセックスやキスなどの性的接触が主な感染経路とされています。

参考)HPV(ヒトパピローマウイルス)で引き起こされる「中咽頭がん…


日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会では、HPV関連中咽頭がんの詳細な情報と予防の重要性について解説されています。

中咽頭がんの疫学と発症年齢

中咽頭がんは50~60歳代に好発し、男性に多い傾向があります。頭頸部悪性腫瘍全体の中で中咽頭がんが占める割合は約30~40%とされています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10719707/


組織型のほとんどが扁平上皮がんですが、中咽頭には扁桃腺などのリンパ組織が豊富に存在するため、悪性リンパ腫も発生しやすく、鑑別診断が必要です。​
注目すべき点として、HPV関連中咽頭がんは比較的若年層にも発症し、非HPV関連がんに比べて予後良好であることが知られています。この予後の違いから、最新のUICC病期分類ではp16免疫染色の陽性・陰性により病期が分類されるようになっています。

参考)中咽頭がん

中咽頭がんのリンパ節転移の特徴

中咽頭がんの最も重要な臨床的特徴は、高頻度で頸部リンパ節転移を起こすことです。咽頭周囲には豊富なリンパ組織とリンパ節が存在するため、初診時にすでにリンパ節転移が認められることが珍しくありません。

参考)中咽頭がん:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の…


臨床経過として、頸部のしこりが初発症状となり、精査の結果、中咽頭が原発巣と判明するケースも多く見られます。HPV関連中咽頭がんでは、原発巣が小さくてもリンパ節転移が大きく発見されることが特徴的です。

参考)HPV関連中咽頭がん-意外と知らない|耳鼻咽喉科・頭頸部外科


リンパ節転移の有無と範囲は予後を左右する重要な因子であり、病期分類においても重要な要素となっています。進行例では頸部郭清術によりリンパ節を一括して切除する必要がありますが、近年は機能温存を重視した術式が選択されるようになっています。

参考)中咽頭がん|頭頸部腫瘍(がん) – 横須賀共済病院

中咽頭がんと重複がんのリスク

中咽頭がん患者では、口腔・喉頭・食道など他の上部消化管臓器に重複がんが発生するリスクが高いことが知られています。これは喫煙や過度の飲酒という共通の発がん要因により、広範囲の粘膜が発がんリスクに曝されているためです。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10304137/


重複がんは同時性(同時期に発見)と異時性(時期をずらして発見)があり、治療後も継続的な経過観察が必要です。特に治療後も喫煙や飲酒を続けた場合、二次がん発生のリスクが著しく増大するため、禁煙・禁酒が強く推奨されています。

参考)がん情報サイト


近年、上部消化管内視鏡検査の普及により、無症状の段階で偶然発見される中咽頭がんが増加しています。これにより早期発見・早期治療の機会が増えており、予後改善に寄与しています。

参考)中咽頭がん href=”https://cancer-c.pref.aichi.jp/about/type/mesopharynx/” target=”_blank”>https://cancer-c.pref.aichi.jp/about/type/mesopharynx/amp;#8211; 愛知県がんセンター

中咽頭がんの症状と早期発見

中咽頭がんは初期段階では無症状であることが多く、早期発見が困難な疾患です。症状が出現する段階では、すでにある程度進行していることも少なくありません。​
主な症状として以下が挙げられます。​

  • 飲み込むときの違和感や疼痛
  • 持続する咽頭痛
  • のどからの出血
  • 開口障害(口を大きく開けにくい)
  • 舌の運動障害
  • 耳への放散痛
  • 嗄声(声の変化)
  • 頸部のしこり

進行例では嚥下障害や構音障害が顕著となり、気道狭窄により呼吸困難を来し、気管切開が必要となる場合もあります。舌根部の腫瘍は自己観察が困難なため、これらの症状が持続する場合は早期に耳鼻咽喉科を受診することが重要です。​

中咽頭がんの診断と検査

中咽頭がんの診断は視診・触診から始まり、喉頭ファイバースコープや内視鏡による詳細な観察が行われます。腫瘍が疑われる場合、組織生検を実施して病理学的に確定診断を行います。​
扁桃の深部に発生した腫瘍では粘膜表面に異常が見られないこともあり、粘膜を切開して深部から生検する必要がある場合もあります。組織診断では扁平上皮がんの確認に加え、p16免疫染色によりHPV関連がんか否かを判定します。​
病期決定のための画像検査として、以下が実施されます。​

検査項目 目的
造影CT 原発巣の広がりとリンパ節転移の評価
MRI 軟部組織の詳細な評価
PET-CT 遠隔転移の検索と全身評価
超音波検査 頸部リンパ節の詳細評価

これらの検査結果を総合してTNM分類に基づく病期(ステージ)が決定され、治療方針が立てられます。

参考)頭頸部がんの病期(ステージ)とは?


愛知県がんセンターでは、中咽頭がんの診断プロセスと各種検査について詳しい情報が提供されています。

中咽頭がんの治療方法と選択

中咽頭がんの治療には手術、放射線治療、薬物療法があり、病期と患者の状態に応じて選択されます。治療選択においては根治性と機能温存(嚥下・構音機能)のバランスが重要です。

参考)中咽頭がん 治療:[国立がん研究センター がん情報サービス …


早期がん(ステージI・II)の治療選択

参考)中咽頭がんの治療方法として、ステージごとにそれぞれどのような…

  • 経口的切除術(TOVS、ELPS)
  • ロボット支援手術(TORS)
  • 放射線単独治療

進行がん(ステージIII・IV)の治療​

  • 化学放射線療法(抗がん剤と放射線の併用)
  • 拡大手術と遊離皮弁による再建
  • 頸部郭清術(リンパ節転移に対して)

近年、ロボット支援手術(ダヴィンチXiサージカルシステム)が保険適用となり、低侵襲で機能温存性の高い手術が可能になっています。放射線治療では強度変調放射線治療(IMRT)により、正常組織への照射を最小限に抑えながら腫瘍に高線量を投与できるようになりました。

参考)放射線治療|日本頭頸部癌学会 頭頸部がん情報


頸部郭清術においても、従来の根治的術式から機能温存を重視した術式へと変化しており、術後のQOL向上が図られています。​

中咽頭がんの予後と療養

中咽頭がんの予後は、病期、HPV関連の有無、治療法により大きく異なります。HPV関連中咽頭がんは非関連がんに比べて遺伝子変異が少なく、治療反応が良好で予後も良いことが知られています。

参考)中咽頭がリンパ節に転移した場合、余命はどれくらいですか? |…


予後を左右する主要因子​

  • 原発腫瘍の大きさと浸潤範囲
  • リンパ節転移の有無・数・部位
  • 遠隔転移の有無
  • HPV関連がんか否か
  • 患者の全身状態

治療後は定期的な経過観察が必須で、局所再発や二次がんの早期発見に努めます。化学放射線療法を行った場合、口腔や咽頭の粘膜炎による疼痛、嚥下障害、味覚障害などの副作用が出現することがあり、支持療法が重要です。​
機能障害に対しては、言語聴覚士による嚥下リハビリテーションや構音訓練が行われ、術後のQOL向上を目指します。治療後も禁煙・禁酒を継続することが、二次がん予防と予後改善に極めて重要です。​

中咽頭がんの予防とワクチン

中咽頭がんの予防において、喫煙・飲酒関連がんについては禁煙と節酒が最も効果的です。一方、HPV関連中咽頭がんについては、HPVワクチン接種が予防の要となります。​
HPV関連中咽頭がんの88%はHPV16型が原因であり、現在利用可能な2価・4価・9価すべてのHPVワクチンで予防可能です。子宮頸がん予防として女性への接種が推奨されているHPVワクチンは、中咽頭がん予防にも有効であることから、男性への接種も推奨されるようになってきています。​
感染経路としてオーラルセックスやキスなどの性的接触が知られており、適切な性行動と早期のワクチン接種が予防戦略として重要です。早期発見のためには、持続する咽頭症状や頸部のしこりに気づいた際、速やかに耳鼻咽喉科を受診することが推奨されます。​
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会では、HPVワクチンによる中咽頭がん予防の最新情報が提供されています。