尿道カテーテル留置時の陰部洗浄と感染予防
尿道カテーテル留置患者における陰部洗浄の基本原則
尿道カテーテル留置患者の陰部洗浄は、CAUTI(カテーテル関連尿路感染症)の予防において最も重要な基本ケアの一つです。尿道留置カテーテルは感染症リスクを高める医療器具であり、挿入から4日で10%、7日以上で25%、30日以上ではほぼ100%に尿路感染が発生するとされています。
陰部洗浄の主な目的は、尿道口周囲の常在菌や汚染物質を除去し、カテーテルを介した上行感染を防ぐことです。微生物の侵入経路として、カテーテルと尿道粘膜の間隙からの逆行性感染が最も頻度が高く、患者自身の消化管常在菌がカテーテルや陰部に付着することで感染が成立します。
参考)https://www.city.sapporo.jp/hospital/worker/infection_ctrl/documents/05_20220817.pdf
医療従事者は、カテーテル留置中の患者に対して清潔の保持と不快感の緩和を目的として、最低でも1日1回の陰部洗浄を実施する必要があります。汚染が強い場合や便失禁がある場合には、その都度適宜実施することが推奨されています。
参考)https://www2.huhp.hokudai.ac.jp/~ict-w/kansen/3.02_nyoudouryuuticatheter.pdf
尿道カテーテル留置時の女性患者陰部洗浄手順
女性患者の陰部洗浄では、尿道口と肛門の位置が近接しているため、感染リスクが特に高くなります。そのため、必ず尿道口側から肛門側に向けて洗浄することが重要です。
洗浄の具体的手順は以下の通りです:🚿
・洗浄ボトル内のお湯(38-40℃)で陰部を濡らし、患者の温度感を確認する
・洗浄剤を十分に泡立ててから陰部に塗布する
・恥骨部・鼠径部から上から下に向けて洗浄を開始する
・大陰唇を開き、小陰唇との間を丁寧に洗浄する(恥垢が溜まりやすい部位)
・カテーテル挿入部から2.5~5cm程度遠位に向かって清拭する
参考)https://www.jsicm.org/meeting/kanto-koshinetsu/2020/highlight_0803.pdf
注意点として、同じ綿球や清拭用品を使い続けると汚れが他の部位に付着するため、部位ごとに交換することが重要です。また、洗浄後は消毒薬が残らないよう十分にお湯で流し、水分を押し当てるように優しく拭き取ります。
参考)男女それぞれの陰部洗浄の方法を解説。看護師が配慮するべきこと…
尿道カテーテル留置時の男性患者陰部洗浄手順
男性患者の陰部洗浄では、解剖学的構造の特徴を理解した手順が必要です。特に包皮の内側や亀頭部、陰嚢の裏側は恥垢が溜まりやすい部位として注意深く洗浄する必要があります。
参考)男女で異なる尿道カテーテルの挿入方法を解説。看護師が気をつけ…
男性の洗浄手順は以下の通りです:🔧
・尿道口にお湯が入らないよう注意しながら陰部を濡らす
・泡立てた洗浄剤を陰部に塗布する
・性器を持ち上げ、包皮を体幹側に寄せて亀頭部を露出させる
・外尿道口部から亀頭部を清拭し、カテーテル挿入部周囲を重点的に洗浄する
・睾丸を圧迫しないよう注意しながら陰嚢の裏側も洗浄する
男性の場合、カテーテル固定は陰茎を上向きにして下腹部に固定することが重要です。下向きに固定すると尿道陰嚢角をカテーテルで圧迫し、血行障害や尿道損傷を起こす可能性があります。
感染予防のための消毒と観察ポイント
陰部洗浄後の消毒については、現在のエビデンスでは石鹸による陰部洗浄とイソジン消毒では感染率に有意差がないとされています。むしろ、適切な洗浄手技と清潔保持が重要です。
消毒を行う場合の手順として、女性では陰唇を広げ前から後ろへ左右陰唇を数回、男性ではカテーテル挿入部周囲、亀頭部、陰茎全体を消毒します。使用する消毒薬は0.02%ヒビテングルコネート液、0.01~0.025%オスバン液、またはイソジン液が推奨されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsnr/27/1/27_20040105009/_pdf
観察ポイントとして以下の項目に注意する必要があります:📋
・尿の性状(混濁、血尿、異臭の有無)
・カテーテル周囲の分泌物や炎症所見
・患者の発熱や全身状態の変化
・尿量の減少や尿流出の停止
尿道カテーテル管理における最新の感染対策知見
近年の研究では、CAUTI予防のための精密管理プランの有効性が報告されています。このプランでは、エビデンスに基づく最適な実践方法の要約を活用し、カテーテル留置期間の短縮と医療スタッフの手指衛生遵守率向上を目指しています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10929873/
特に注目すべき点として、カテーテル留置中の膀胱洗浄については、消毒薬や抗菌薬による定期的な膀胱洗浄は感染症を減少させることができないとされています。むしろ、適切な無菌的手技とドレナージの閉鎖系維持がリスク低下に重要です。
参考)http://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/3-3_06.pdf
また、最新の技術として銅硫化物ナノロッドを組み込んだ抗菌性尿道カテーテルや、亜鉛と銀ナノ粒子を用いた二層ナノエンジニアリングカテーテルなどの開発が進んでいます。これらの技術は、従来の管理方法と併用することで、より効果的な感染予防が期待されています。
参考)https://www.mdpi.com/1422-0067/25/21/11440
医療従事者は、基本的な陰部洗浄手技を確実に習得するとともに、最新のエビデンスに基づいた感染対策を継続的に学習し、患者の安全確保に努める必要があります。