無呼吸症候群とマウスピース治療
無呼吸症候群に対するマウスピース治療は、正式には口腔内装置(OA:Oral Appliance)またはスリープスプリントと呼ばれる治療法です 。この治療は、睡眠中に下顎を前方に移動させることで上気道の狭窄を防ぎ、無呼吸や低呼吸の発生を減少させる仕組みです 。特に軽度から中等度の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)患者において、CPAP療法に代わる有効な治療選択肢として位置づけられています 。
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マウスピース治療の最大の特徴は、その簡便性と携帯性にあります 。CPAP装置のような大型機械が不要で、就寝時に口腔内に装着するだけという手軽さから、旅行や出張が多い患者にも適用しやすい治療法です 。また、医科での確定診断を受けた後、歯科医院において健康保険適用で作製することが可能で、患者の経済的負担も軽減されます 。
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無呼吸症候群におけるマウスピース治療の生理学的メカニズム
マウスピース治療の根本的なメカニズムは、下顎前方誘導による上気道の解剖学的改善にあります 。睡眠中、重力の影響により舌根が後方に落下し、上気道を狭窄または閉塞することが無呼吸症候群の主要因です。マウスピースは下顎を前方に約4-6mm移動させることで、舌の位置を前方に保持し、咽頭後壁との間に必要な気道空間を確保します 。
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この下顎前方移動により、舌根だけでなく軟口蓋、口蓋垂、咽頭側壁なども前方に牽引され、上気道全体の断面積が増加します 。研究によると、適切に調整されたマウスピースにより、無呼吸低呼吸指数(AHI)が平均約9回/時間減少することが報告されています 。ただし、CPAPと比較するとAHI改善効果はやや劣り、重度のOSA患者では完全な症状抑制は困難とされています 。
無呼吸症候群におけるマウスピース治療の適応条件と効果判定
マウスピース治療の適応条件は明確に定められており、主に軽度から中等度の閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者が対象となります 。具体的には、AHI 5-30回/時間の範囲で、CPAP療法の適応とならない、または CPAP療法に耐容できない患者が適応となります 。重度の OSA患者(AHI >30回/時間)では、第一選択治療としてCPAP療法が推奨されますが、CPAP不耐容の場合の代替療法として検討されます 。
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治療効果の評価は、客観的指標と主観的指標の両方で行われます。客観的指標では、治療前後でのAHI低下、最低酸素飽和度の改善、いびき音の減少が重要な評価項目です 。主観的指標としては、Epworth眠気尺度(ESS)の改善、起床時頭痛の軽減、日中の眠気や集中力低下の改善が挙げられます 。一般的に、マウスピース装着により即効性のある症状改善が期待でき、装着初日から効果を実感する患者も少なくありません 。
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無呼吸症候群におけるマウスピース治療の副作用と長期影響
マウスピース治療には、軽微ではあるものの注意すべき副作用が存在します 。最も頻繁に報告される副作用は、治療開始初期の顎関節違和感や軽度の痛みで、これは通常1-2週間で改善します 。しかし、長期使用による歯列の変化も重要な懸念事項として報告されています。10年間の追跡調査では、長期使用により前歯の傾斜や咬合の変化が生じる可能性が示されており、定期的な歯科でのモニタリングが不可欠です 。
唾液分泌の変化も一般的な副作用として知られています 。使用開始初期には唾液分泌が増加し、よだれが出やすくなることがある一方、口腔内の乾燥を感じる患者もいます。これらの症状は多くの場合、数週間で慣れにより改善しますが、口腔ケアの指導や必要に応じた装置調整が重要です。また、朝起床時の一時的な咬合違和感は比較的頻繁に報告される症状で、通常30分程度で改善し、顎の体操により症状軽減が可能です 。
無呼吸症候群におけるマウスピース治療の保険適用と作製プロセス
マウスピース治療を保険適用で受けるためには、医科と歯科の連携による標準化された手順を踏む必要があります 。まず、呼吸器内科や耳鼻咽喉科等の睡眠障害専門医療機関で睡眠時無呼吸症候群の確定診断を受け、医師から歯科への紹介状(診療情報提供書)を取得することが必須条件です 。この紹介状なしでは保険適用とならず、全額自己負担での治療となります 。
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歯科医院での作製プロセスでは、まず口腔内検査により歯や顎の状態、マウスピース作製の適応性を評価します 。その後、上下顎の印象採得、咬合記録採取を行い、技工所でマウスピースを作製します。完成後は装着指導、調整を行い、必要に応じて睡眠検査と連携して効果判定を実施します。保険適用の場合、患者負担は約1万円程度となり、比較的経済的な治療選択肢といえます 。
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無呼吸症候群におけるマウスピース治療の最新動向と併用療法
近年のマウスピース治療では、従来の上下顎一体型(モノブロック型)から上下顎分離型への移行が進んでいます 。上下顎分離型装置の代表例であるソムノデント(SomnoMed MAS)は、装着中の開口、会話、水分摂取が可能で、患者の QOL向上に大きく寄与します 。また、下顎位置の微調整が容易で、睡眠検査と併せた最適化調整が可能という利点があります 。
興味深い最新の動向として、CPAPとマウスピースの併用療法も注目されています 。重度のOSA患者において、CPAP単独では十分な効果が得られない場合、マウスピース併用によりCPAP圧を低下させ、患者の耐容性を向上させることが可能です。この併用療法により、従来CPAP不耐容であった患者の治療継続率向上が期待されており、今後の治療戦略として重要な選択肢となる可能性があります 。