デュシェンヌ型筋ジストロフィーとガワーズ徴候の診断と症状

デュシェンヌ型筋ジストロフィーとガワーズ徴候の診断と症状

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの特徴的症状とガワーズ徴候
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ガワーズ徴候(登攀性起立)の特徴

近位筋の筋力低下により、床からの立ち上がり時に手で膝や大腿を支えながら体をよじ登るように起立する特徴的な動作

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デュシェンヌ型筋ジストロフィーの診断

X染色体上のジストロフィン遺伝子変異により発症し、血液検査でのCK高値と遺伝学的検査で確定診断される

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筋力低下の進行パターン

3~5歳で症状が顕在化し、近位筋から始まり徐々に進行し、10歳前後で歩行困難となる予後不良の疾患

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの基本的な症状と特徴

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、X染色体上にあるジストロフィン遺伝子の変異により発症する進行性筋ジストロフィーです 。出生男児約3,500人に1人の割合で発症し、ジストロフィンタンパク質が産生されないため筋細胞膜が壊れやすくなり、筋肉の崩壊と再生を繰り返しながら萎縮していきます 。

参考)「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」の意味や使い方 わかりやす…

デュシェンヌ型筋ジストロフィーは通常、2~3歳で発症し、典型例では下肢の近位筋から筋力低下が始まります 。初期症状には、転びやすい、走るのが遅い、階段昇降困難などがあり、3~5歳頃に運動発達の遅れが目立つようになります 。

参考)デュシェンヌ型筋ジストロフィーおよびベッカー型筋ジストロフィ…

疾患の特徴として、ほぼ全例の患児でふくらはぎ(腓腹筋)の仮性肥大が見られ、これらの筋肉は硬く触れます 。この仮性肥大は、脂肪や線維組織によって筋肉が置き換えられた結果生じる現象です。

ガワーズ徴候の特徴的な動作と診断的意義

ガワーズ徴候(Gowers’ sign)は、英国の神経学者William R. Gowersによって記載された特徴的な立ち上がり動作です 。この徴候は手で膝を押しながら大腿を徐々によじ登るように立ち上がることから、登攀性起立とも呼ばれています 。

参考)ガワーズ徴候 (理学療法ジャーナル 39巻5号)

デュシェンヌ型筋ジストロフィーでは、5~6歳頃から8歳位までにガワーズ徴候が認められるようになります 。腰部帯の筋力低下のため、手を膝にあて、自分の身体をよじ登るようにして起立するようになります 。

参考)医学界新聞プラス [第3回]ジストロフィノパチー

具体的な動作の特徴として、臀部を後ろへ突き出すような動作により膝の伸展を容易にしようとします 。起立時に使用する重要な筋肉である大殿筋(股関節)や大腿四頭筋膝関節)の筋力低下があると、上肢の補助を加えて起立しようとするためです 。

参考)筋疾患へのアプローチ│医學事始 いがくことはじめ

ガワーズ徴候を呈する他疾患との鑑別診断

ガワーズ徴候は筋ジストロフィーに特異的な症状ではなく、近位筋の筋力低下を示すさまざまな疾患で観察されます 。筋炎やKugelberg-Welander病のような筋原性疾患でも認められることが知られています 。
Lambert-Eaton筋無力症候群(LEMS)では、四肢近位部の筋力低下、腱反射の低下、自律神経障害の三徴を特徴とし、ガワーズ徴候を伴う下肢の筋力低下が見られます 。さらに、ドライマウス、眼瞼下垂、複視、便秘などの自律神経症状も併発します。

参考)LEMSの症状 – ダイドーファーマ株式会社

特発性炎症性ミオパチーでは、対称性の近位筋筋力低下により階段昇降や立ち上がり困難(登攀性起立、ガワーズ徴候)、上肢が挙がりにくいなどの症状を呈します 。これらの疾患では血液検査でのCK値やその他の筋酵素の上昇パターン、筋生検所見、遺伝学的検査により鑑別されます。

参考)特発性炎症性ミオパチー|大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・…

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの診断方法と検査

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの診断には、専門の医師による詳細な評価が必要です 。初期の段階では血液検査が重要で、特にクレアチンキナーゼ(CK)、AST、ALTの3つの値に注目します 。これらの値が高い場合は筋肉が壊れているサインとなります。

参考)デュシェンヌ型筋ジストロフィーの診断と検査

筋細胞の崩壊に伴ってクレアチンキナーゼ(CK)の血中濃度が著明に上昇するため、発症前の乳児期でも血液検査で発見されることがあります 。CK値は正常値の10~100倍程度まで上昇することが多く、早期診断の重要な手がかりとなります。
最終的な確定診断は遺伝子検査によって行われ、X染色体上のジストロフィン遺伝子の変異を確認します 。ジストロフィン遺伝子は2.4メガベースペア(240万塩基対)という巨大な遺伝子であり、様々な部位で変異が生じる可能性があります 。

参考)筋ジストロフィーとその最新治療、専門医がわかりやすく解説! …

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの臨床経過と合併症

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの臨床経過は予測可能で、5~6歳頃に運動機能のピークを迎えた後、徐々に筋力が低下していきます 。患児の大半が12歳までに車椅子の使用が必要になり、従来は20歳までに呼吸器系合併症により死亡することが多いとされていました 。

参考)デュシェンヌ型筋ジストロフィーの症状

心筋病変の結果、拡張型心筋症、伝導障害、不整脈などが見られます 。このような心臓合併症は14歳までに症例の約3分の1に起こり、18歳以上の症例では全例に起こりますが、運動能力の低下により症状が顕在化するのは比較的遅期になります。

呼吸機能についても進行とともに低下し、呼吸筋の筋力低下により息苦しさや呼吸不全を生じます 。また、動作性能力よりも言語性能力の障害が顕著な非進行性の軽度知的障害が約3分の1の患者に見られることも特徴的です 。骨格系では脊柱側弯症や関節拘縮なども進行し、包括的な管理が必要となります。