右心室と左心室の構造と機能
右心室の基本構造と肺循環機能
右心室は心臓の4つの部屋のうち、肺循環を担当する重要な血液ポンプです 。全身を巡って酸素を使い果たした静脈血を右心房から受け取り、肺動脈を通じて肺へと送り出します 。
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右心室の構造的特徴として、壁の厚さが左心室の約1/3程度と薄く設計されています 。これは肺循環における圧力が体循環に比べて大幅に低いためで、具体的には右心室の圧力は15~30mmHgという低い値で機能しています 。
肺循環系では、右心室から送り出された血液が肺の毛細血管で酸素を取り込み、二酸化炭素を放出した後、肺静脈を通って左心房に戻ってきます 。この過程で右心室は効率的な低圧ポンプとして機能し、肺でのガス交換を最適化する役割を果たしています。
左心室の強力なポンプ機能と体循環
左心室は右心室とは対照的に、全身への体循環を担当する心臓の主要なポンプです 。肺から酸素を豊富に含んだ動脈血を左心房から受け取り、強力な収縮により大動脈を通じて全身の臓器に血液を送り出します 。
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左心室の最も顕著な特徴は、その壁厚が右心室の約3倍にも達することです 。これは体循環において必要な高圧を発生させるためで、左心室内の圧力は100~130mmHgという高い値を示します 。この圧力は私たちが日常的に測定する血圧値とほぼ同等です。
左心室の収縮力は極めて強力で、1日におよそ10万回もの拍動を行い、ドラム缶40本分に相当する血液を全身に送り出しています 。この驚異的なポンプ性能により、脳から足先まで全身の細胞に必要な酸素と栄養素を届け続けています。
右心室と左心室の壁厚・容積の構造的差異
心室の壁厚は機能に直結した重要な構造的特徴で、左右の心室には明確な違いがあります。正常な心臓では左室壁厚:右室壁厚の比率は約3:1となっており、この差が両心室の機能分担を反映しています 。
左心室の壁厚は通常8~12mm程度で、特に心室中隔(左右の心室を隔てる壁)は最も厚くなっています 。一方、右心室の壁厚は2~5mm程度と薄く、低圧での効率的な血液拍出に適応した構造となっています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2724217/
心室の容積についても重要な差異があります。左心室は高圧を発生させるため、相対的に小さい容積で効率的な収縮を行います。対照的に右心室は、より大きな容積を持ちながらも低圧での拍出を行う特徴があります 。この容積と圧力の関係は、ラプラス法則(壁応力=圧力×半径/壁厚)によって説明され、各心室の最適化された設計を示しています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2739802/
右心室機能における意外な病的変化パターン
右心室の病態には、一般的にあまり知られていない特徴的なパターンがあります。肺高血圧症などの疾患では、右心室が過度な圧負荷を受けることで、通常は薄い右室壁が著明に肥厚する現象が起こります 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11255185/
興味深いことに、右心室は左心室と比較して代謝特性が大きく異なります。右心室の冠動脈血管壁の厚さは、左心室のように心筋内圧の影響を受けにくく、壁内での圧力変化が少ない特徴があります 。これは右心室の低圧環境に適応した独特の生理学的特性です。
また、先天性心疾患の中には単心室循環症候群という、左右どちらか一方の心室機能が著しく低下し、事実上一つの心室で全身と肺の循環を賄わなければならない病態があります 。このような症例では、残存する心室に過大な負荷がかかり、特殊な外科的治療が必要となります。
参考)単心室症(指定難病210) href=”https://www.nanbyou.or.jp/entry/4369″ target=”_blank”>https://www.nanbyou.or.jp/entry/4369amp;#8211; 難病情報センター
右心室不全は左心室不全と比較して早期発見が困難な場合が多く、症状が現れた時には既に進行している場合があります。これは右心室の構造的特徴と、肺循環の圧力変化に対する感受性の違いによるものです 。
参考)心不全の原因と治療|神田のユアクリニックお茶の水/御茶ノ水駅…
左心室における心筋肥厚と機能的意義
左心室の肥厚は病的状態を示す重要な指標で、高血圧性心疾患や大動脈弁狭窄症などで顕著に認められます 。正常な左室壁厚が8~12mmであるのに対し、病的肥厚では15mm以上に達することがあり、時には20mmを超える場合もあります 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2396316/
特に注目すべきは肥大型心筋症における左室肥厚で、この疾患では心室中隔が非対称性に肥厚し、左室流出路の閉塞を引き起こす場合があります 。患者の約500人に1人が罹患するこの疾患では、心筋の遺伝子変異により異常な肥厚が生じ、心臓の拡張機能が著しく低下します。
興味深い生理学的発見として、左室心尖部(心臓の先端部)の壁厚は、他の部位と比較して著明に薄く、正常でも1~2mm程度しかないことが明らかになっています 。この部位は左室の収縮において特殊な役割を担い、心尖部の動きが全体の心機能に重要な影響を与えています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC483320/
左室肥厚の程度は相対壁厚(壁厚/内径比)という指標で評価され、この値は左室内圧と密接な関係があります 。病的肥厚では、心筋の収縮能力は保たれていても、心室の拡張能力が低下し、心不全の原因となる場合があります 。