仰臥位における褥瘡好発部位の発生メカニズムと予防法

仰臥位における褥瘡好発部位

仰臥位における褥瘡好発部位の特徴
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主要好発部位

仙骨部、踵骨部、後頭部、肩甲骨部などの骨突出部位に好発

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発生メカニズム

持続的圧迫による血流障害と組織壊死が主な原因

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予防アプローチ

体位変換、ポジショニング、リスクアセスメントによる包括的予防

仰臥位における主要好発部位の特徴

仰臥位では体重が限られた部位に集中することで、特定の骨突出部に褥瘡が発生しやすくなります 。日本褥瘡学会の2016年実態調査によると、一般病院における褥瘡発生部位の順位は、①仙骨部、②踵部、③尾骨部、④大転子部、⑤脊椎部となっており 、仰臥位における 仙骨部踵骨部 の褥瘡が圧倒的に多いことが確認されています 。

参考)褥瘡(じょくそう)が骨の出ている部位にできやすいのはなぜ?

骨の出っ張りがある部位に褥瘡ができやすい理由は、限局性の圧迫が褥瘡の原因となり、身体のなかでも骨突出部は圧迫力が直接組織へ影響しやすく、特に皮下組織が少ないためです 。仰臥位では仙骨部が最も多く、次いで踵骨部、肩甲骨部、後頭部に発生しやすい傾向があります 。
意外にも知られていない事実として、高齢者の背部(棘突起列部)や脊髄損傷患者の背部(後弯突出部)にも褥瘡が発生することが明らかになっています 。さらに、骨突出部で周囲に筋肉や脂肪などの軟部組織が比較的多い部位(坐骨結節部など)では、嚢腫を形成する 滑液包炎型褥瘡 という特殊な形態の褥瘡も存在します 。

仰臥位における褥瘡発生のメカニズム

褥瘡発生の最大要因は、身体に加わった外力による皮膚および軟部組織への持続的圧迫です 。皮膚の一定部位に圧迫が加わると、皮膚および軟部組織の血管が圧迫されて血流が途絶えます 。特に骨突起部には体圧が集中しやすく、圧力および応力による循環障害が増大します 。

参考)褥瘡のメカニズム / 褥瘡辞典 for MEDICAL PR…

体重によって皮膚と軟部組織に圧力が加わることで、①圧縮応力、②圧迫性せん断応力、③引っ張り応力の 3つの力が複合 して皮膚血流に障害を与え、褥瘡を発生させます 。これらの静的外力に加えて、体位変換や移動時には動的外力として摩擦やずれが発生し、組織損傷のリスクをさらに高めます 。

参考)褥瘡の発生要因・メカニズムをおさらいしよう!

驚くべき研究結果として、仰臥位姿勢における褥瘡好発部位の応力解析では、仙骨部や踵骨部における外力状態の詳細な評価が工学的手法で行われており、これらの部位での応力分布パターンが明らかにされています 。この阻血状態が一定時間以上続くことにより不可逆的な組織壊死が生じて褥瘡となるのです 。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/782b27528f5562d913a3cc467a2f48cb31574335

仰臥位におけるブレーデンスケールを用いたリスクアセスメント

褥瘡予防において、リスクアセスメント・スケールの使用は褥瘡予防・管理ガイドライン第4版で「推奨度B(根拠があり、行うよう勧められる)」とされています 。最も高いエビデンスレベルを有するブレーデンスケールは、「知覚の認知」「湿潤」「活動性」「可動性」「栄養状態」「摩擦とずれ」の6項目で構成されています 。

参考)ブレーデンスケール、OHスケールなど|褥瘡のリスクアセスメン…

各項目は「1点:最も悪い」から「4点:最も良い」で評価し(「摩擦とずれ」のみ1~3点)、合計点は6~23点となります 。合計点が低いほどリスクが高く、国内でのカットオフ値は14点、病院では14点以下、在宅では17点以下が高リスクとされています 。ブレーデンスケールを褥瘡予防プログラムの一部として用いることで、褥瘡の発生率を50~60%低減させることができると報告されています 。

参考)ブレーデンスケール【ナース専科】

特に仰臥位の患者では、活動性と可動性の項目で低スコアとなりやすく、これらの項目の評価が褥瘡発生予測において重要な指標となります 。実際の臨床現場では、栄養状態良好で体動も自立している場合は低リスクですが、脊椎転移から対麻痺が出現すると活動性、可動性以外の項目についても詳細な評価が必要になります 。

参考)https://www.jahcm.org/assets/images/project/pdf01/side_5-1-13.pdf

仰臥位における体位変換とポジショニング技術

仰臥位における褥瘡予防の基本は、定期的な体位変換とポジショニングです 。基本的に2時間を超えない範囲で体位変換を行いますが、粘弾性フォームマットレスや上敷二層式エアマットレスなどを使用する場合は、4時間を超えない範囲で行ってもよいとされています 。
推奨される体位変換の方法として、骨の突き出しがない広い面積のお尻の筋肉(殿筋)で体重を受けることができる 30度側臥位 があります 。30度側臥位では、支持面積が90度側臥位よりも大きくなり、骨突出部への圧が軽減されます 。さらに、30度側臥位では骨突出部のない殿部で体重を支持できることも褥瘡予防につながります 。

参考)ポジショニングで褥瘡予防! 体位別アプローチのコツ

体位変換のスケジュール例として、2時間仰臥位、次の2時間は右30度側臥位、次の2時間は仰臥位、次の2時間は左30度側臥位といったローテーションが効果的です 。体位変換時はベッドからの転落や摩擦・ずれをなくすため、できれば2人で行い、寝衣のしわによる圧迫をなくすよう整えることが重要です 。

参考)褥瘡のできやすい患者を30度側臥位にするのはなぜ?|体位の保…

仰臥位における先進的褥瘡予防技術と今後の展望

近年の技術革新により、仰臥位における褥瘡予防にも新しいアプローチが導入されています。体圧分布マッピングを用いた in-bed body posture monitoring システムでは、10名の健康な参加者による19種類のベッド上姿勢のデータを収集し、仰臥位、腹臥位、右側臥位、左側臥位の識別精度向上が図られています 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10941443/

このシステムは畳み込みニューラルネットワーク(CNN)と深層学習技術を活用して、患者の体位を自動的に監視し、適切なタイミングでの体位変換を促すことで褥瘡予防を支援します 。特に高齢者の全体的健康状態(栄養、精神的健康、可動性)の段階的低下に起因する褥瘡発生リスクに対して、効果的な予防戦略を提供する可能性があります 。
さらに、ブレーデンスケールとAPACHE IIスコアの比較研究では、ICU患者における褥瘡発生予測において両スケールの有効性が検証されており、仰臥位患者の重症度評価にも新たな知見が得られています 。これらの技術的進歩により、従来の主観的評価に加えて客観的データに基づく褥瘡予防戦略の構築が可能となってきています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11915442/

理学療法の観点からも、仰臥位における褥瘡好発部位への除圧効果の高いポジショニングについて研究が進められており、褥瘡予防クッションの最適な配置方法が検討されています 。今後は、個々の患者の身体特性や疾患特性に応じたパーソナライズされた褥瘡予防プログラムの開発が期待されています。