脳損傷の種類と分類
脳損傷は医学的に体系化された分類システムによって整理されています。外傷の発生機序により一次性脳損傷と二次性脳損傷に大別され、一次性脳損傷は受傷時の直接的な衝撃によって生じる損傷を指します 。二次性脳損傷は受傷後に時間の経過とともに発現する脳の損傷で、血腫の増大による脳の圧迫、脳浮腫、脳内血腫などによって発生し、放置すれば頭蓋内圧が亢進する危険性があります 。
脳損傷の一次性・二次性分類
一次性脳損傷は受傷インパクトの大きさによって決まる損傷であり、一次的脳損傷自体を治療することは困難とされています 。対照的に二次性脳損傷は一次的脳損傷の受傷後に、低酸素や低血圧などの付加的な要因により生じる損傷であり、治療介入を行うことで損傷の更なる増悪を予防することが可能です 。
参考)https://www.nms.ac.jp/sh/jmanms/pdf/015020071.pdf
二次性脳損傷をきたす因子は全身性因子と頭蓋内因子に分けられます。全身性因子には低血圧、低酸素、貧血、高体温、高二酸化炭素血症があり、頭蓋内因子には頭蓋内圧亢進、頭蓋内占拠性病変、脳浮腫、脳血管攣縮などが含まれます 。
脳損傷の局所性・びまん性分類
局所性脳損傷は脳挫傷、急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、外傷性脳内血腫の4つの病態に分類されます 。受傷部位と頭蓋骨内部の圧力上昇の関係によって特有の症状を呈し、比較的限定された脳領域の損傷が特徴です 。
びまん性脳損傷は脳の広い範囲で神経に損傷を来した状態で、外傷時に回転がかかった衝撃を受けることで神経にハサミで切られるような力が加わって起こります 。軽度脳震盪、古典的脳震盪、遷延性昏睡に分類され、重度になると軽度・中等度・重度びまん性軸索損傷へと進行します 。
参考)TBIの分類
脳損傷の重症度分類と意識障害
脳損傷の重症度は受傷後の意識障害の程度によって評価され、Glasgow Coma ScaleまたはJapan Coma Scaleを基に軽度・中等度・重度の3段階に分けられます 。受傷後の意識レベルが軽度・中等度であった場合は軽症・中等症頭部外傷、重度であった場合は重症頭部外傷と定義されています 。
脳震盪の重症度も3段階のレベル分類が採用されています。レベル1(軽度)は一過性に意識が混濁するが失神はなく記憶正常な状態、レベル2(中等度)は2分以内の失神と記憶障害・手足のしびれ・持続する頭痛吐気を呈し、レベル3(高度)は2分以上の失神とより重篤な症状を示します 。
参考)子供のスポーツと脳震盪(のうしんとう) – 医療法人 松田脳…
脳損傷の特殊病型と機序
外傷性脳損傷では特殊な病型として脳浮腫の発生機序が重要な意味を持ちます。外力により損傷された脳組織には梗塞と異なりある程度以上の脳血流が存在し、浮腫液の供給源となります 。損傷された脳組織は細胞の破壊により浮腫液が貯留しやすい環境を作り上げ、さらに合併する低酸素や急性硬膜下血腫の存在は脳腫脹・脳浮腫を助長します 。
参考)頭部外傷性浮腫の最近の進歩とその画像—びまん性と挫傷性浮腫 …
頭部への強い衝撃や外傷は脳組織に直接的な損傷を与えることで血液脳関門を破壊し、血管から脳組織へと異常な水分が漏出することで脳浮腫を起こします 。交通事故や転落事故などによる頭部外傷では、受傷直後から数時間以内に急性期の脳浮腫が発生することが知られています 。
参考)脳浮腫 – 脳・神経疾患
脳損傷分類の臨床的意義と診断
脳損傷の適切な分類は治療方針の決定において極めて重要な役割を果たしています。重症頭部外傷においては脳実質が広範に障害されることにより不可逆性の意識障害、凝固線溶系障害が起こり予後不良となる原因となるため、早期の正確な分類診断が求められます 。
軽度の脳震盪であってもセカンドインパクト症候群のリスクが存在し、一度脳震盪を起こすと次の打撲で脳震盪を起こすリスクは増加し、より重篤になりやすいという特徴があります 。そのため軽微な症状であっても慎重な経過観察と段階的復帰プログラムが推奨されています 。