ノモグラムとアセトアミノフェン中毒診断の実践的活用法

ノモグラムによるアセトアミノフェン中毒の診断と治療

ノモグラムによるアセトアミノフェン中毒診断の要点
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Rumack-Matthewノモグラム

血中濃度と時間から治療適応を視覚的に判定

最適な測定時間

摂取後4時間以降の血中濃度測定が必要

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アセチルシステイン治療

ノモグラム結果に基づく解毒剤投与の判定

ノモグラムとアセトアミノフェン中毒の基本概念

ノモグラムは、複数の変数を組み合わせて予測確率を視覚的に表現する医療診断ツールです 。医療分野では、患者の生存率予測や疾患リスク評価に広く活用されており、特にアセトアミノフェン中毒の診断において重要な役割を果たしています 。

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アセトアミノフェン中毒は、一般的に150mg/kg以上の摂取で肝障害を生じる可能性があり、急性摂取後は血中濃度測定とノモグラムを組み合わせて治療適応を決定します 。このノモグラムを活用することで、医師や患者が複数の因子がどの程度予後に寄与するのかを視覚的に理解しやすくなり、より良い治療方針の意思決定に繋げることができます 。

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Rumack-Matthewノモグラムの実践的使用法

Rumack-Matthewノモグラムは、アセトアミノフェンの単回急性摂取時の肝毒性の可能性を予測する標準的なツールです 。このノモグラムは血漿アセトアミノフェン濃度と摂取からの経過時間の半対数プロットで表現され、治療ライン(4時間後で150mcg/ml)と新たに設定されたハイリスクライン(4時間後で300mcg/ml)により治療適応を判定します 。

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摂取後4時間以降に血中濃度を測定し、ノモグラムにプロットすることが重要です 。これは、4時間以前に得られた血清中濃度がピーク濃度を示さない可能性があるためです 。遅発放出型製剤の場合は、摂取後4時間以降と、さらにその4時間後の2回測定を行い、いずれかの値がRumack-Matthewの毒性ラインを上回った場合に治療が必要となります 。

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アセトアミノフェン中毒の病態生理と肝毒性機序

アセトアミノフェンは常用量では大半が肝臓でグルクロン酸抱合や硫酸抱合で代謝され排泄されますが、過量摂取時にはチトクロームP450(主にCYP2E1)で酸化され、活性代謝物N-アセチル-p-ベンゾキノンイミン(NAPQI)が生成されます 。NAPQIは通常、肝細胞内でグルタチオン抱合を受けて無毒化されますが、グルタチオン抱合能力の限界を超えると、肝内にNAPQIが蓄積し、肝細胞構成蛋白と共有結合して肝細胞障害が惹起されます 。

参考)第11回 アセトアミノフェンによる肝障害はなぜ起こるの?

中毒症状は4段階で進行します。第1期(0~24時間)では食欲不振、悪心、嘔吐が見られ、第2期(24~72時間)では右上腹部痛とAST、ALTの上昇が認められます 。第3期(72~96時間)で嘔吐および肝不全症状、AST、ALT、ビリルビン、INRがピークとなり、第4期(5日目以降)では肝毒性が消失するか多臓器不全に進行する可能性があります 。

ノモグラムを活用したアセチルシステイン治療の適応決定

アセチルシステイン(NAC)は、アセトアミノフェン中毒の標準的な解毒剤として使用されます。血中濃度がノモグラムの治療ラインを上回る場合、または摂取量が中毒量(体重当たり150-200mg/kg、成人では10g以上)の場合に投与されます 。

参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00066031.pdf

アセチルシステインの投与は、アセトアミノフェン摂取後なるべく早期に開始することが重要で、8時間以内が望ましいとされています 。投与法は、初回にアセチルシステインとして140mg/kg、次いでその4時間後から70mg/kgを4時間ごとに計17回投与する方法が一般的です 。NACはグルタチオンを増加させることで、NAPQIによる肝障害を軽減する効果があります 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphcs/51/7/51_435/_pdf

ノモグラム活用時の特殊な状況と注意点

単回摂取の正確な時刻が確認できない場合は、最悪のケースを想定してノモグラムを使用する必要があります 。例えば、患者が午後6時から9時までの間に過剰摂取したと述べた場合、摂取時刻は午後6時として(最悪のケース)判定を行います 。
静脈内投与によるアセトアミノフェン過剰摂取については、医原性のものが多く、時間および総用量に関して信頼できる情報が入手できるため、Rumack-Matthewノモグラムが毒性の予測に使用できます 。しかし、静脈内投与による過剰摂取の確実な治療法は確定しておらず、毒物学者または中毒情報センターへのコンサルテーションが推奨されます 。
活性炭の投与は、アセトアミノフェン摂取後4時間以内であれば効果的とされており、ハイリスク群では4時間を超えていても検討されます 。最新のガイドラインでは、急性中毒の定義が「最初にアセトアミノフェンを口にしてから24時間以内のプレゼンテーション」として明確化され、何時間かけて服用していても急性中毒として扱われるようになりました 。