眼科医がレーシックしない理由と安全性

眼科医がレーシックしない理由

眼科医がレーシックを選ばない3つの理由
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専門知識による慎重な判断

合併症やリスクを詳しく知っているため、自身の目には慎重にならざるを得ない

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職業的メリットが少ない

細かい診察や手術で近くを見る機会が多く、遠視矯正の必要性が低い

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感染症リスクへの配慮

流行性角結膜炎など強力な感染症に接触する機会が多いため

眼科医がレーシックを避ける医学的根拠

眼科医は視力矯正の専門家でありながら、自身にレーシック手術を受けない傾向があります。これは決してレーシックが危険だからではなく、専門知識に基づいた慎重な判断によるものです。youtube

参考)眼科医がレーシックやICLをしない理由|レーシック経験者

眼科医がレーシックを選ばない最大の理由は、合併症のリスクを詳しく知っているからです。レーシック手術では、角膜拡張症(ケラトエクタジア)が0.1%未満の確率で発症する可能性があり、これは術後に円錐角膜のような形状変化を起こす最も忌むべき合併症の一つとされています。また、DLK(層間炎症)、ドライアイ、グレア・ハロー現象などの合併症についても熟知しているため、健康な目にあえて手術を行うリスクと利益を慎重に天秤にかけているのです。
さらに、眼科医は「長期的なリスクを完全に予測できない」という医師としての慎重な姿勢を持っています。レーシックは比較的新しい手術法であり、20年、30年後の長期的な影響についてはまだ完全には解明されていません。プロフェッショナルとして、自分自身の目に対してもこの不確実性を重視する傾向があります。

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眼科医の職業環境とレーシック適応の関係性

眼科医の職業的な特性も、レーシックを選ばない理由の一つです。眼科の診療は顕微鏡を使った極めて細かい作業が中心となり、手術時も肉眼ではなく顕微鏡で拡大して作業を行います。「3針縫った」という表現でも、眼科では数mm切っただけで3針縫うほどの精密性が求められるのです。

参考)眼科医に「メガネをかけている人」が多いのはなぜ?コンタクトや…

このような細かい作業では近くを見ることが多く、遠くの視力矯正の必要性が相対的に低いという特徴があります。一般的にレーシックは遠くを見やすくする手術ですが、眼科医にとっては日常業務に支障がない程度の近視であれば、あえて手術を受けるメリットが少ないのです。
また、高学歴ほど近視が多いという研究結果もあり、医学部卒業という高学歴の眼科医には近視が多く、メガネに対する抵抗感も一般より低いとされています。これも手術を選択しない理由の一つとなっています。

眼科医が直面する感染症リスクとコンタクト回避

眼科医がレーシックだけでなくコンタクトレンズも避ける傾向にあるのは、感染症への曝露リスクが関係しています。特に流行性角結膜炎アデノウイルス感染症)は非常に感染力が強く、学級閉鎖や病棟閉鎖を引き起こすほどの威力を持っています。
このウイルスは目やにや涙に含まれ、接触した部分では2週間もウイルスが生存し続けます。アルコール消毒だけでは完全に防ぎきれないため、眼科医は日常的にこうした強力な病原体と接触するリスクを抱えています。コンタクトレンズを装用していると目に手が行きやすくなり、感染リスクが高まるため、多くの眼科医がメガネを選択しているのです。
さらに、眼科の診療は集中して目を使う作業が多く、まばたきの回数が減って目が乾燥しやすい環境にあります。通常1分間に20回程度のまばたきが、集中時には大幅に減少するため、ドライアイになりやすいコンタクトレンズは職業的に不向きなのです。

眼科医によるレーシック実施統計の現状

日本におけるレーシック手術の実施状況を見ると、その変遷は非常に興味深いものがあります。2008年頃のピーク時には年間約40〜45万件もの手術が行われていましたが、2013年の調査では約7万1千件と大幅に減少しています。現在では年間約2万件程度と推定されており、ピーク時から約20分の1以下まで減少しています。

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この激減の背景には、2009年の銀座眼科事件が大きく影響しています。手術器具の不十分な滅菌により複数の患者に角膜炎が発症したこの事件は、日本のレーシックに対する信頼を大きく損ないました。その後も「レーシック難民」と呼ばれる術後の不調に苦しむ患者の存在や、集団訴訟、厚生労働省からの注意喚起などが相次ぎ、日本特有の慎重な医療文化と相まって手術件数の減少が続いています。
興味深いことに、世界的にはレーシック手術は依然として多く行われており、この日本独特の減少傾向は、眼科医の慎重な姿勢と患者の安全性重視の文化を反映していると考えられます。

眼科医から見たICLとレーシックの安全性比較

近年、レーシックの代替として注目されているICL(眼内コンタクトレンズ)についても、眼科医の見解は慎重です。ICLはレーシックと異なり角膜を削らない術式ですが、眼内手術という特性上、異なるリスクを抱えています。

参考)ICL・眼内コンタクトレンズのデメリットやリスクは?安全性に…

ICLの最も重要なリスクは眼内炎という感染症で、発症確率は約1/6,000(0.02%)とされています。この確率は決して高くありませんが、適切な対応を行わなければ最悪の場合失明に至る可能性もあるため、眼科医としては十分に注意すべき合併症として認識されています。

参考)ICLのデメリットを眼科専門医が解説|後悔しないための判断基…

レーシックの合併症と比較すると、ICLでは角膜拡張症のリスクはありませんが、代わりに白内障緑内障を引き起こす可能性があります。また、レンズサイズの不適合による再手術や、乱視用レンズの回転による軸ずれなど、ICL特有の合併症も存在します。

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眼科医がこれらの手術を自身には選択しない理由は、「リスクが高すぎる」からではなく、プロフェッショナルとしての慎重な判断と、個々のライフスタイルに応じた最適解の選択によるものです。メガネで十分に日常生活や職業上の要求を満たせるのであれば、あえて手術のリスクを取る必要はないという、合理的な判断なのです。