前庭神経炎のリハビリテーション効果と治療法

前庭神経炎のリハビリテーション

前庭神経炎のリハビリテーション
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急性期治療

ステロイド治療と安静により炎症を抑制し、前庭代償を促進

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平衡訓練

頭部運動と視覚訓練により動的前庭代償を効率的に誘導

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理学療法士連携

専門的な運動療法により早期機能回復と転倒予防を実現

前庭神経炎の急性期における薬物治療

前庭神経炎の急性期治療では、激しいめまいと嘔吐に対する対症療法と、神経炎症の抑制を目的とした治療が必要です 。急性期には7%炭酸水素ナトリウム(メイロン)の静注投与によりめまい感の軽減を図ります 。嘔気・嘔吐に対してはメトクロプラミドの静注やドンペリドンの座薬投与が効果的です 。

参考)前庭神経炎 (ぜんていしんけいえん)とは

不安が強い場合にはジアゼパム5mgの筋注を行いますが、抗不安薬は前庭代償の初期過程を促進する作用があることが知られています 。炎症の抑制と前庭代償促進を目的として、可能な限り早期にステロイドの全身投与を行うことが推奨されています 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/122/8/122_1097/_pdf

ステロイド治療に関してコクランライブラリーのメタ解析では、急性期の経口ステロイド治療は1カ月後のカナル・パレーシス(CP)の完全回復に効果があることが報告されています 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/119/3/119_220/_pdf

前庭神経炎の慢性期における平衡訓練の効果

前庭神経炎の慢性期では、前庭代償を効率的に促進させる平衡訓練が重要な治療法となります 。平衡訓練は前庭リハビリテーションとも呼ばれ、神経可塑性を利用して中枢神経系における代償機能を促進します 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/nararigakuryohogaku/17/0/17_34/_pdf/-char/ja

平衡訓練の主要な構成要素として、座位での頭部運動訓練、立位でのバランス訓練、歩行訓練があります 。頭部運動訓練では固定視標を見ながらの頭部左右回旋により前庭動眼反射の適応を誘導します 。立位バランス訓練では、垂直軸を意識した体幹と頭部の前後左右への傾斜運動により耳石器脊髄反射の適応を促進します 。

参考)https://www.memai.jp/wp-content/uploads/2022/02/%E5%B9%B3%E8%A1%A1%E8%A8%93%E7%B7%B4%E3%83%BB%E5%89%8D%E5%BA%AD%E3%83%AA%E3%83%8F%E3%83%93%E3%83%AA%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%AE%E5%9F%BA%E6%BA%962021%E6%94%B9%E8%A8%82.pdf

訓練効果として、姿勢安定性の改善、固視機能の向上、動揺視の軽減、日常生活活動の制限軽減が期待されます 。特に歩行中の頭部運動を組み合わせた訓練は動的前庭代償を効率的に促進し、歩行安定性の向上に寄与します 。

参考)エビデンスベースに基づいた前庭リハビリテーションの工夫

前庭神経炎リハビリテーションにおける理学療法士との連携

近年、前庭リハビリテーションにおける理学療法士との連携による治療効果が注目されています 。理学療法士による専門的な前庭リハビリテーションは、ホームエクササイズのアドヒアランスを高める効果があることが報告されており、前庭リハビリテーションガイドライン2024年版ではエビデンスレベルAとして評価されています 。

参考)https://www.kunisaki-hp.jp/uploaded/attachment/488.pdf

米国では約1700名の理学療法士が前庭リハビリテーションSpecial Interest Group(SIG)に登録され、専門的な前庭リハビリテーションを実施しています 。日本においても理学療法士と協働で実施する前庭リハビリテーションが増加しており、医師による外来診察と理学療法士による監督指導下での訓練を組み合わせた治療体制が推奨されています 。

参考)前庭リハビリテーション:その実際と治療効果

理学療法士による前庭リハビリテーションでは、1回あたり40~60分間、月2~4回の頻度で2か月間を目途に実施し、個別のリハビリプログラムによる治療者監視下での実施が効果的とされています 。転倒リスクの軽減と円滑な社会活動への復帰を目指した包括的なアプローチが可能となります 。

前庭神経炎における代償機能のメカニズム

前庭神経炎による一側内耳障害では、前庭系の左右不均衡が中枢前庭系の神経可塑性、すなわち前庭代償により是正されます 。前庭代償は静的前庭代償と動的前庭代償に分類され、それぞれ異なるメカニズムで機能回復を促進します 。

参考)https://www.mediproduce.com/shukitaikai35/dl/pro_skill_02-08.pdf

静的前庭代償の初期過程では、前庭神経核間の交連線維や前庭小脳により健側前庭神経核ニューロンの自発発火が抑制され、左右の前庭神経核ニューロンの活動性不均衡が是正されます 。後期過程では、低下していた障害側前庭神経核ニューロンの自発発火が回復します 。
動的前庭代償では、健側の前庭神経核ニューロンからの交連線維を介した入力により、障害側前庭神経核ニューロンの回転刺激に対する反応性が回復します 。動的前庭代償には健側からの前庭入力が重要であるため、一側前庭障害患者はめまいの急性期を過ぎれば早期離床が推奨されます 。
不十分な動的前庭代償による慢性の平衡障害には、前庭リハビリテーションが有効であり、特に小脳での前庭代償が平衡障害改善に大きく関わっています 。

前庭神経炎の感覚代行訓練と転倒予防効果

前庭神経炎患者では、低下した前庭情報を他の感覚情報で代行する感覚代行機能の獲得が重要です 。感覚代行訓練では「足底で床からの感覚を意識しながら」立位で身体を安定させる訓練を実施します 。

参考)めまいに対する運動療法の基礎知識

訓練段階として、閉脚立位から継足立位、単脚立位へと段階的に負荷を増加させ、開眼から閉眼条件、床面からクッション上での立位へと難易度を調整します 。裸足での実施により効果が高まることが知られています 。
体性感覚情報による前庭情報の代行により、感覚情報の重み付けの変化を誘導し、姿勢制御能力の改善が期待されます 。高齢者では約3割が日常生活に支障をきたすめまいやふらつき症状が生じており、前庭リハビリテーションによる転倒リスクの軽減と歩行能力改善効果が報告されています 。

参考)世田谷区の耳鼻科|用賀駅北口みさわ耳鼻咽喉科|嗅覚・めまいリ…

特に前庭神経炎で長期にめまいが持続するケースや良性発作性頭位めまい症を繰り返すケースでは、感覚代行訓練を含む前庭リハビリテーションが効果的とされています 。視覚情報を遮断した条件での頭部体幹傾斜運動により前庭脊髄反射が強化され、効率的な適応誘導が可能となります 。