鼠径部しこり痛くない症状の病気
鼠径ヘルニアの特徴的症状
鼠径ヘルニアは鼠径部しこりの最も代表的な原因疾患です。本疾患では腹腔内臓器が筋膜の隙間から皮下に脱出し、特徴的な膨らみを形成します 。立位や腹圧増加時に膨らみが顕著になり、臥位では自然に還納される点が診断の重要なポイントです 。
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初期段階では痛みを伴わないことが多く、ピンポン球様の柔らかい膨らみとして触知されます 。患者は鼠径部の違和感や突っ張り感を訴えることがありますが、明確な疼痛は認められません 。この無痛性の特徴により、患者が医療機関への受診を遅らせる要因となることがあります 。
鼠径ヘルニアの診断は身体所見による評価が基本となります。立位での膨らみの確認、用手還納の可否、咳嗽時の膨隆増大などが重要な診断指標です 。超音波検査により他疾患との鑑別診断が可能であり、特にリンパ節腫大や血管病変との区別に有用です 。
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鼠径部リンパ節腫大の診断
鼠径部リンパ節腫大は感染症から悪性疾患まで多様な原因で発生します 。正常なリンパ節は通常2-3mm程度ですが、病的状態では1cm以上に腫大することがあります 。鼠径リンパ節は水平群と垂直群に分類され、水平群は腹腔・骨盤・膣部から、垂直群は下肢からの感染に反応します 。
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悪性リンパ腫による鼠径部リンパ節腫大は重要な鑑別診断の一つです 。悪性リンパ腫では通常痛みを伴わない硬いしこりとして触知され、複数のリンパ節領域に同時に腫大を認めることがあります 。急速な増大を示す場合には痛みを伴うこともありますが、多くの症例では無痛性です 。
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感染性リンパ節腫大では足部の外傷、皮膚感染症、性感染症などが原因となります 。特に鼠径リンパ肉芽腫症は性感染症の一つとして重要で、Chlamydia trachomatisが原因となり所属リンパ節の腫脹と自然排膿を特徴とします 。
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鼠径部良性腫瘍の鑑別
脂肪腫は鼠径部に発生する代表的な良性腫瘍の一つです 。皮下脂肪組織の良性増殖により形成され、通常は柔らかく可動性のある腫瘤として触知されます 。脂肪腫は基本的に無痛性ですが、神経を圧迫する場合には疼痛を伴うことがあります 。
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粉瘤(表皮囊腫)は皮膚の下に袋状構造が形成され、角質や皮脂が貯留する良性病変です 。鼠径部は摩擦や湿潤により粉瘤が発生しやすい部位で、中央に黒い開口部を認めることが特徴的です 。感染を併発すると発赤、腫脹、疼痛を伴いますが、非感染時は無痛性です 。
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その他の良性病変として、皮様囊腫、ガングリオン、血管腫などが鑑別診断に挙げられます 。これらの病変は画像診断により特徴的な所見を示すことが多く、超音波検査やMRI検査が診断に有用です 。
鼠径部動脈瘤の特徴
鼠径部動脈瘤は比較的稀な疾患ですが、重要な鑑別診断の一つです 。大腿動脈の拡張により鼠径部に拍動性腫瘤を形成し、触診により明瞭な拍動を触知できることが特徴です 。動脈瘤では硬い壁と明瞭な拍動を認める一方、静脈瘤では柔らかく拍動を認めません 。
動脈瘤の診断には超音波検査が有用で、内部の血流を確認することができます 。血管の形状は管状であり、鼠径ヘルニアのピンポン球様の形状とは明らかに異なります 。また、臥位でも膨らみが消失しないことも鑑別の重要なポイントです 。
動脈瘤は破裂のリスクがあるため、診断確定後は血管外科での精査と治療方針の決定が必要です 。現在では経皮的ステントグラフト内挿術など低侵襲治療の選択肢もあり、患者の全身状態を考慮した治療選択が重要です 。
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鼠径部女性特有疾患の考慮点
女性の鼠径部しこりでは、ヌック管水腫が重要な鑑別診断となります 。ヌック管は通常1歳頃までに閉鎖する組織ですが、成人でも開存している場合があり、液体貯留によりしこりを形成します 。ヌック管水腫では大きさの変動を認めますが、ヘルニアのように用手還納はできません 。
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子宮内膜症がヌック管に発生する場合もあり、この場合は月経周期に関連した症状の変動を認めることがあります 。ヌック管内膜症では疼痛を伴うことが多く、無痛性しこりとは異なる臨床像を示します 。
大腿ヘルニアも女性に多い疾患で、鼠径靭帯の下方、大腿輪から腹腔内容が脱出する病態です 。大腿ヘルニアは嵌頓率が高く、早期の外科的治療が推奨されます 。診断には詳細な身体所見に加え、CT検査やMRI検査が有用です。