認知障害の種類と分類
認知障害は様々な病態を包含する症候群であり、適切な分類と理解が医療従事者にとって極めて重要です 。現在、医学界では認知障害を軽度認知障害(MCI)と認知症の2つの大きなカテゴリーに分けて理解することが一般的となっています 。この分類システムにより、患者の症状進行段階を正確に把握し、適切な介入タイミングを判断することが可能になります 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4104432/
認知障害における軽度認知障害の位置づけ
軽度認知障害(MCI)は、正常な認知機能と認知症の中間に位置する重要な病態です 。厚生労働省の統計によると、65歳以上の高齢者の約13%、推計400万人がMCIの状態にあるとされており、これは認知症予防の観点から非常に重要な対象群となっています 。MCIの特徴として、認知機能の低下は認められるものの、日常生活における基本的な機能は保持されている点が挙げられます 。また、MCIの患者は年間約7.1%の確率で認知症へと進行するリスクを有しており、これは正常認知機能者の進行率0.2%と比較して顕著に高い数値です 。
認知障害の健忘型と非健忘型による分類体系
MCIは記憶障害の有無により、健忘型MCIと非健忘型MCIに大別されます 。健忘型MCIは、主として記憶力の低下が主要な症状として現れ、将来的にアルツハイマー型認知症に進行する可能性が高いとされています 。一方、非健忘型MCIでは記憶障害は顕著ではなく、言語機能障害(失語)、道具使用困難(失行)、空間認知障害などが主症状となり、前頭側頭型認知症やレビー小体型認知症への移行リスクが高いことが知られています 。さらに詳細な分類では、認知機能障害の範囲により単一領域型と多領域型に細分化され、複数の認知領域に障害が及ぶ多領域型では認知症への進行リスクがより高くなることが研究で示されています 。
参考)軽度認知障害(MCI)と認知症の違いとは?症状、原因、予防法…
認知障害のアルツハイマー型認知症の特徴
アルツハイマー型認知症は、全認知症患者の67.6%を占める最も頻度の高い認知症タイプです 。病理学的には、脳内でのβアミロイドの沈着と神経原線維変化を特徴とし、大脳皮質、海馬、前脳底部での神経細胞死とシナプス減少が病態の基盤となります 。臨床的には近時記憶障害が最も特徴的な初発症状であり、視空間認知障害も早期から認められます 。症状の進行は緩徐で段階的であり、局所神経症候を伴わないことが診断上の重要なポイントとなります 。特に記憶機能では、最近の出来事から順次忘却が進行し、遠隔記憶は比較的保持される傾向があります 。
認知障害の血管性認知症と進行パターン
血管性認知症は脳血管障害による認知機能低下を特徴とする認知症タイプで、その進行パターンに独特な特徴があります 。最も顕著な特徴は「階段状」の症状進行であり、脳卒中発症時に急激な悪化を示し、その後は症状が安定または一時的改善を見せることがあります 。しかし、再発時には再び症状が急激に悪化するという反復パターンを示します 。症状は脳血管病変の部位により多様で、記憶障害、判断力低下に加えて、運動麻痺、歩行障害、嚥下障害、言語障害などの局所神経症状が早期から併発することが特徴的です 。また、感情面では抑うつ症状や意欲低下、感情失禁(突然の泣き笑い)なども頻繁に観察されます 。
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認知障害の前頭側頭型認知症における言語機能低下
前頭側頭型認知症は認知症全体の1-10%を占める比較的稀な病型ですが、若年発症が多く、独特の症状パターンを示します 。この病型は3つのサブタイプに分類され、行動障害型前頭側頭型認知症(bvFTD)、意味性認知症、進行性非流暢性失語を含みます 。特に言語機能の観点では、意味性認知症では物の名前が出ない、概念理解困難などの症状が、進行性非流暢性失語では発語の流暢性低下、音韻のひずみが特徴的に現れます 。前頭葉病変が優位な場合、理性的判断能力の低下により社会的不適切行動、万引きなどの問題行動、同じ行為の反復(常同行動)などが初期から顕著に現れることがあります 。これらの症状は記憶障害に先行して出現するため、性格変化と誤解されることも多く、早期診断の困難さを示しています 。