頸椎ヘルニアの診断と治療法

頸椎ヘルニアの基本的理解


頸椎ヘルニアの主要な特徴
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椎間板の変性による神経圧迫

加齢により水分を失った椎間板が飛び出し、神経根や脊髄を圧迫する疾患です

神経根症と脊髄症の違い

神経根症では片側の症状、脊髄症では両側に症状が現れます

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自然治癒の可能性

約60~90%は保存療法により症状が軽快することが報告されています



頸椎椎間板ヘルニアは、首の椎骨間に位置する椎間板が後方に突出し、神経組織を圧迫することで発症する疾患です。椎間板は中央の髄核とそれを取り囲む線維輪で構成されており、加齢とともに水分含有量が減少し弾力性を失います 。特に40歳以降では椎間板の変性が顕著となり、60歳代ではほとんどの人に何らかの変性が認められます 。

参考)大室整形外科 脊椎・関節クリニック

椎間板の変性により線維輪に亀裂が生じると、髄核が神経側に飛び出し、神経根や脊髄を圧迫します 。この圧迫により、首や肩の痛み、腕や手の痛みやしびれ、握力低下などの症状が現れます 。医学的には、神経根が圧迫される場合を「神経根症」、脊髄が圧迫される場合を「脊髄症」と呼び、それぞれ異なる症状パターンを示します 。

参考)頚椎症性脊髄症とは|病気の概要と脳神経外科医による手術の特徴…

興味深いことに、頸椎椎間板ヘルニアの60~90%は自然治癒する傾向があり、特に神経根型では保存的治療により症状が軽快することが多いとされています 。しかし、症状の程度や進行状況により、積極的な治療介入が必要となる場合もあります 。

参考)頚椎椎間板ヘルニア|症状や治療法、手術、再発予防など解説

頸椎ヘルニアの症状と病態

頸椎ヘルニアの症状は、圧迫される神経組織の部位により大きく異なります。神経根症の場合、通常は片側の腕や手に限局した痛みやしびれが現れ、特定の首の動きにより症状が悪化します 。一方、脊髄症では両側の上肢に症状が現れ、重症化すると下肢にも影響し歩行困難を生じる可能性があります 。

参考)頚椎症性脊髄症(頚髄症)・頚椎症性神経根症

診断において重要なのは、Spurlingテストと呼ばれる神経学的検査です。これは頸椎を伸展させ頭部を症状のある側に回旋し体軸方向に圧迫することで、該当側の上肢に根性痛を誘発する検査です 。この検査により、症状と神経根レベルの関連性を評価できます 。

参考)頸椎椎間板ヘルニア – 06. 筋骨格系疾患と結合組織疾患 …

また、最新の研究では、椎間板ヘルニアは一般的に無症状であることも多く、MRI上の異常と症状との慎重な相関検討が重要であることが示されています 。このため、画像所見だけでなく、詳細な問診と神経学的所見の評価が診断において極めて重要となります 。

参考)ヘルニア(頚椎) – 東大阪みき脳神経外科

頸椎ヘルニアの原因と危険因子

頸椎ヘルニアの主要な原因は加齢による椎間板の変性ですが、現代社会特有のライフスタイルも大きな影響を与えています。デスクワークやスマートフォンの長時間使用により、首への持続的な負荷がかかり、椎間板の早期変性を促進します 。特に前傾姿勢を長時間維持することで、頸椎の生理的前弯が失われ、椎間板への不均等な圧力がかかります 。
意外な危険因子として喫煙があります。喫煙は椎間板の血流を悪化させ、栄養供給を阻害することで変性を加速します 。また、反復的な首の運動や外傷歴も発症リスクを高める要因となります 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11205526/

遺伝的要因についても研究が進んでおり、家族歴がある場合には発症リスクが高くなることが知られています 。しかし、加齢による変性には個人差が大きく、同じ年齢でも椎間板の状態には著明な差が見られるのが特徴です 。

頸椎ヘルニアの診断における画像検査の重要性

頸椎ヘルニアの確定診断にはMRI検査が不可欠です。MRIは軟部組織を詳細に描出できるため、椎間板の変性や突出の程度、神経への圧迫状況を正確に評価できます 。特に、T2強調画像では椎間板の水分含有量の変化を確認でき、変性の程度を客観的に評価することが可能です 。

参考)https://makura.co.jp/column/braintrivia/orthopedic-surgery_consultation02/

レントゲン検査では椎間板自体は描出されませんが、椎間腔の狭小化や頸椎の不安定性、骨棘形成などの二次的変化を確認できます 。また、頸椎の動的撮影により、屈伸時の椎体の動きや不安定性を評価することも重要です 。

参考)頚椎椎間板ヘルニア|博豊会東京脊椎病院|事務部、看護部、診療…

診断精度を高めるために、最近では心臓ペースメーカー装着患者など MRI 検査が困難な場合にはCT脊髄造影が選択されることもあります 。この検査により、脊髄や神経根の圧迫状況を詳細に評価することができ、手術適応の判断に重要な情報を提供します 。

頸椎ヘルニアの保存療法における神経根ブロックの効果

神経根ブロックは、頸椎ヘルニアによる神経根症に対する非常に効果的な治療法として注目されています。超音波ガイド下選択的神経根ブロック(SNRB)の最新研究では、慢性頸椎神経根症患者に対して実質的な症状改善効果が示されています 。この治療法は、リアルタイム画像ガイド下で実施されるため高い安全性と精度を有し、放射線被曝も最小限に抑えられます 。

参考)https://www.mdpi.com/1648-9144/60/6/1002/pdf?version=1718788586

神経根ブロックの作用機序は多面的です。局所麻酔薬による痛みの神経伝達遮断効果に加え、ステロイド剤による抗炎症作用、さらに血管拡張による血流改善効果が複合的に作用します 。これにより、単なる症状の一時的な軽減ではなく、神経の炎症と浮腫を根本的に改善し、自然治癒力を促進します 。

参考)頚椎疾患におけるブロック注射の有効性と適応症

治療効果の持続期間は個人差がありますが、一回の施術で数週間から数ヶ月間の症状軽減が期待できます 。興味深いことに、首と神経根性疼痛の合併は再発の有意な予測因子となることが報告されており(p = 0.008)、こうした症例では複数回の治療が必要となる場合があります 。

頸椎ヘルニアの治療法選択

頸椎ヘルニアの保存療法の実際

保存療法は頸椎ヘルニアの初期治療の基本であり、多くの症例で良好な成績を示しています。治療の基本方針は「頸椎に負担をかけない」ことであり、痛みが強い時期には首の安静保持が重要です 。頸椎カラーによる固定は、頸椎を適切な位置に保持し、椎間板への圧力を軽減する効果があります 。

参考)頚椎椎間板ヘルニアとは – 頚椎椎間板ヘルニアの原因や治療に…

薬物療法では、非ステロイド性抗炎症薬NSAIDs)による消炎鎮痛効果と筋弛緩薬による筋緊張緩和が基本となります 。神経障害性疼痛に対してはプレガバリンガバペンチンなどの神経障害性疼痛治療薬が有効です 。これらの薬物療法により、炎症の抑制と痛みの軽減を図り、自然治癒を促進します 。

参考)大室整形外科 脊椎・関節クリニック

理学療法では、首や肩周囲筋の緊張緩和と可動域改善を目的とした運動療法が実施されます 。牽引療法では首を引っ張ることで椎間板への圧力を軽減し、温熱療法では血行促進により筋緊張を緩和します 。これらの理学療法は週1~2回、3ヶ月以上継続することで長期的な改善効果が期待できます 。

参考)大室整形外科 脊椎・関節クリニック

頸椎ヘルニアの手術療法適応と術式

手術療法の適応は、保存療法で改善が得られない場合や重篤な神経症状がある場合に検討されます 。具体的には、筋力低下や歩行障害を伴う場合、両側に症状が見られる場合、排尿障害などの自律神経症状を伴う場合などが手術適応となります 。

参考)頚椎椎間板ヘルニア

手術法としては、前方到達法による頸椎前方除圧固定術(ACDF)が最も一般的に行われます 。この手術では、頸部前面からアプローチし、椎間板を摘出後に骨移植による椎体間固定を行います 。全身麻酔下で手術用顕微鏡を用いて慎重に実施され、通常2~3時間程度の手術時間を要します 。

参考)保存療法 vs 手術、どっちが効果的?頚椎症性神経根症の最新…

後方除圧術では、椎弓形成術や椎間孔拡大術により、後方から神経の圧迫を除去します 。また、最近では内視鏡手術も導入され、より低侵襲な治療選択肢として注目されています 。内視鏡手術では小さな創部で済むため、術後の回復が早い傾向にあります 。

参考)椎間板ヘルニアの治療選択|手術適応の判断基準 – 足立慶友整…

頸椎ヘルニアの治療効果比較と予後

保存療法と手術療法の効果比較では、興味深い知見が得られています。最新の系統的レビューによると、手術療法は1年以内では保存療法より優れた痛み改善効果を示しますが、長期的には両者の差は小さくなることが報告されています 。この結果は、多くの頸椎ヘルニアが時間とともに自然改善する特性を反映しています 。
保存療法の継続により、多くの患者で長期的な改善が期待できることは重要な知見です 。特に痛みが強い初期段階では、適切な保存療法により症状の軽減を図り、手術を回避できる可能性があります 。このため、症状の重篤度と患者の希望を総合的に考慮した治療方針の決定が重要となります。
神経根ブロックなどの低侵襲治療は、保存療法と手術療法の中間的な位置づけとして注目されています 。実際、慢性頸椎神経根症に対する超音波ガイド下神経根ブロックは、手術回避の可能性を高める有望な保存的治療選択肢として評価されています 。

頸椎ヘルニア治療における最新の低侵襲的アプローチ

近年、頸椎ヘルニア治療において、より低侵襲で効果的な治療法の開発が進んでいます。椎間板内酵素注入療法(condoliase注射)は、椎間板内に糖分解酵素を注入することで、突出した椎間板を化学的に縮小させる新しい治療選択肢です 。この治療法は、保存療法と外科手術の中間的な位置づけとして、日本でも2018年に承認されています 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9501482/

超音波ガイド下神経根ブロックの技術革新により、治療精度と安全性が大幅に向上しています 。リアルタイム画像ガイド下での施術により、神経や血管損傷のリスクを最小限に抑えながら、より正確な薬剤投与が可能となっています 。

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再生医療の分野では、間葉系幹細胞を用いた治療法の研究が進んでいます 。これらの治療法は神経の根本的な回復を促進する可能性があり、従来の対症療法とは異なる根治的なアプローチとして期待されています 。

頸椎ヘルニアの予防と生活指導

頸椎ヘルニアの予防には、日常生活での首への負担軽減が重要です。長時間のデスクワークやスマートフォン使用時には、定期的な休憩と首の位置の見直しが必要です 。理想的な姿勢は、顎を軽く引いた状態で前上方を向く姿勢であり、この位置が頸椎の最も安静な状態となります 。

参考)頚椎疾患の保存療法 – 医療法人社団 髙志館 レイクタウン整…

職業性の要因として、下向き作業や首を反らす動作の繰り返しがリスク要因となります 。これらの動作を避け、作業環境の改善により発症リスクを軽減できます 。また、禁煙も重要な予防策の一つであり、椎間板の血流改善により変性の進行を遅らせる効果が期待できます 。
適度な運動による首や肩周囲筋の強化も予防に有効です 。ストレッチや軽い筋力トレーニングにより、頸椎の安定性を高め、椎間板への負荷を軽減することができます 。これらの予防策を継続することで、頸椎ヘルニアの発症リスクを大幅に軽減することが可能です 。