サイロキシンとトリヨードサイロニンの基本特性
サイロキシンの分子構造とヨウ素結合特性
甲状腺から分泌される主要なホルモンであるサイロキシン(T4)は、分子内に4個のヨウ素原子を含む糖タンパク質です 。T4は甲状腺濾胞細胞で合成され、血液中に分泌されたT4のほとんどはサイロキシン結合グロブリン(TBG)やアルブミンなどの結合タンパク質と結合して存在しています 。
血中では約99.97%が結合型として存在し、わずか0.03%程度のみが遊離型(FT4)として生理活性を発揮します 。このフリーT4のみが細胞内に取り込まれ、甲状腺ホルモンとしての機能を果たすため、甲状腺機能の評価においてはFT4の測定が重要視されています 。
参考)T4(サイロキシン)、FT4(フリー・サイロキシン)|コラム…
甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)の作用により、サイログロブリン分子内のチロシン残基にヨウ素が結合し、ジヨードチロシン(DIT)が2個縮合することでT4が合成されます 。
トリヨードサイロニンの高活性と末梢変換
トリヨードサイロニン(T3)は分子内に3個のヨウ素原子を含み、T4の4~5倍という強力な生理活性を持つ真の活性型甲状腺ホルモンです 。血中のT3の約20%のみが甲状腺から直接分泌され、残りの80%は肝臓や腎臓などの末梢組織でT4から脱ヨード化により生成されます 。
参考)トリヨードサイロニン(T3)|甲状腺|内分泌学検査|WEB総…
T3の血中濃度は全甲状腺ホルモンの2%程度にすぎませんが、細胞核内の甲状腺ホルモン受容体に対する結合力はT4の約10倍と非常に強力です 。しかし、血中から除去されるスピードも速く、T4よりも短い半減期を示します 。
T3は主にエネルギー代謝の調節、基礎代謝の亢進、糖質・タンパク質・脂質代謝の促進に関与し、体温維持や成長・発達に重要な役割を果たしています 。
参考)Thref=”https://www.falco.co.jp/rinsyo/detail/060750.html” target=”_blank”>https://www.falco.co.jp/rinsyo/detail/060750.htmllt;subhref=”https://www.falco.co.jp/rinsyo/detail/060750.html” target=”_blank”>https://www.falco.co.jp/rinsyo/detail/060750.htmlgt;3href=”https://www.falco.co.jp/rinsyo/detail/060750.html” target=”_blank”>https://www.falco.co.jp/rinsyo/detail/060750.htmllt;/subhref=”https://www.falco.co.jp/rinsyo/detail/060750.html” target=”_blank”>https://www.falco.co.jp/rinsyo/detail/060750.htmlgt;(トリヨードサイロニン)|臨床検査…
サイロキシン結合グロブリンとホルモン輸送
サイロキシン結合グロブリン(TBG)は分子量54kDaの酸性糖タンパク質で、肝臓で合成・分泌される甲状腺ホルモンの主要輸送タンパク質です 。TBGは血中T4の約65~75%、T3の75%を結合し、血中半減期は約5日間です 。
参考)TBG
TBG遺伝子はX染色体の長腕中央部(Xq22.2)に位置し、4つのcoding exonと1つのnoncoding exonから構成されています 。TBG分子1個につき1個のホルモン結合部位が存在し、T4に対する親和性はT3の約20倍高くなっています 。
参考)https://s-igaku.umin.jp/DATA/59_06/59_06_02.pdf
妊娠時や経口避妊薬投与時にはTBGが増加するため、甲状腺機能が正常でもT4・T3値は上昇しますが、遊離型ホルモン(FT4・FT3)は正常値を示すため、正確な甲状腺機能評価には遊離型ホルモンの測定が不可欠です 。
参考)サイロキシン(T4)
甲状腺ホルモン合成におけるサイログロブリンの役割
サイログロブリン(Tg)は甲状腺ホルモン合成の母体となる重要な糖タンパク質で、甲状腺濾胞細胞で合成され濾胞腔内に分泌されます 。ヨウ素は甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)と過酸化水素の作用により、Tg分子内のチロシン残基に有機化されます 。
参考)サイログロブリンとは? 蒲田駅前やまだ内科甲状腺クリニック
ヨウ素が1個結合するとモノヨードチロシン(MIT)、2個結合するとジヨードチロシン(DIT)が形成され、2個のDITの縮合によりT4が、MITとDITの縮合によりT3が合成されます 。
参考)甲状腺機能の概要 – 10. 内分泌疾患と代謝性疾患 – M…
合成されたT4・T3はサイログロブリンに組み込まれた状態で濾胞腔内に約2か月分貯蔵され、必要時にサイログロブリンがコロイド小滴として濾胞細胞に取り込まれ、T3・T4がサイログロブリンから切断されて血流中に放出されます 。
サイロキシンとトリヨードサイロニンの臨床検査における意義
甲状腺機能検査では、TSH(甲状腺刺激ホルモン)とFT4・FT3の組み合わせ測定により、甲状腺機能の状態を正確に評価できます 。FT4・FT3が基準値以上でTSHが基準値以下の場合は甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)が疑われます 。
逆にFT4・FT3が基準値以下でTSHが基準値以上の場合は甲状腺機能低下症(橋本病、粘液水腫など)が考えられます 。T4は甲状腺のホルモン合成能力を、T3は甲状腺ホルモンの全身への作用程度を反映する指標として利用されています 。
参考)病気について
従来のtotal T4・T3測定では結合タンパク質の変動の影響を受けるため、現在では遊離型ホルモン(FT4・FT3)の測定が甲状腺疾患診断の第一選択検査となっています 。特に甲状腺機能のスクリーニングにはTSHとFT4の組み合わせが推奨されています 。