造影剤の種類
造影剤のX線系分類と浸透圧による違い
X線造影剤は主にヨード系造影剤と硫酸バリウムに分けられ、特に注目すべきは浸透圧による分類です。ヨード造影剤は浸透圧の違いにより、高浸透圧造影剤、低浸透圧造影剤、等浸透圧造影剤の3つに分類されます。高浸透圧造影剤は現在血管内投与の適応が制限されており、より安全性の高い低浸透圧造影剤や等浸透圧造影剤が主流となっています。
参考)造影剤にはどんな種類がありますか? – お茶の水駿河台クリニ…
等浸透圧造影剤であるイオジキサノールは、浸透圧が290mOsm/kg(またはmmol/kg)で血液とほぼ等しく、従来の造影剤と比較して腎毒性のリスクが大幅に軽減されています。一方、低浸透圧造影剤(イオヘキソール、イオパミドールなど)は浸透圧が約500~850mOsm/kgで、血液よりは高いものの従来品より安全性が向上しています。
参考)造影剤腎症 – 03. 泌尿器疾患 – MSDマニュアル プ…
興味深い事実として、ヨード造影剤は腎臓で容易に濾過され、尿細管ではほとんど再吸収されないため、尿中では血漿中の約100倍の濃度に達します。このメカニズムが造影効果を生み出す一方で、腎毒性のリスクファクターにもなっています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/99/5/99_938/_pdf
造影剤のMRI系ガドリニウム製剤分類
MRI用ガドリニウム造影剤は、キレート構造により直鎖型(linear chelate)と環状型(macrocyclic chelate)に分類され、現在日本では5種類のガドリニウム造影剤が使用されています。環状型ガドリニウム造影剤の方がキレート安定性が高く、ガドリニウムイオンの体内での遊離リスクが低いため、腎性全身性線維症(NSF)の発症リスクが低いとされています。
日本国内で販売されている5種類のガドリニウム造影剤は、オムニスキャン、マグネビスト、プロハンス、マグネスコープ、プリモビストであり、それぞれ異なるキレート構造を持っています。特にプリモビスト(Gd-EOB-DTPA)は肝細胞特異性造影剤として、肝細胞への取り込まれる性質を利用した特殊な造影剤で、便中と尿中の両方に排泄される特徴があります。
参考)https://kanamri.umin.ne.jp/29-2_PDF.pdf
最新の研究では、「自己折りたたみ」技術を用いた新規MRI造影剤(SMDC-Gd)が開発され、現行のMRI造影剤の7倍もの性能(緩和能)を達成しています。この革新的な造影剤は、疾患部位への選択的な集積と速やかな腎排泄、脳に集積しない安全性を兼ね備えており、腫瘍検出感度の大幅な向上が期待されています。
参考)単一高分子の「自己折りたたみ」に基づく新規MRI造影剤を開発…
造影剤の超音波系マイクロバブル技術
超音波造影剤は、径約2~3μmのマイクロバブルを使用し、赤血球より小さく全身の血管に分布する特性を持ちます。現在使用されている超音波造影剤は、ソナゾイド、SonoVue(Lumason)、Definity、Optison、Imagentの5種類が世界的に使用されています。
参考)https://www.innervision.co.jp/ressources/pdf/innervision2019/iv201906_038.pdf
ソナゾイドの特徴的な点は、血管性造影剤としての造影効果に加え、投与10分以降はKupffer細胞特異性造影剤としての性質を持つことです。これにより、血管相と後血管相(Kupffer相)の両方での診断が可能となり、再静注も可能という利点があります。
超音波造影剤の投与方法も多様で、静脈注射だけでなく、放射線被曝のない膀胱造影への応用も研究されています。特に肝臓領域では、周囲肝実質より輝度の低下している腫瘍や領域の造影効果を加味した診断が可能で、非侵襲的な検査手法として注目されています。
参考)302 Found
造影剤の腎毒性分類とリスク管理
造影剤腎症は、造影剤投与後72時間以内に血清クレアチニン値が前値より0.5mg/dL以上または25%以上増加した場合に診断され、腎障害患者における造影剤使用は厳格なガイドラインに基づいて管理されています。造影剤による腎障害の機序は複雑で、腎血流妨害、粘稠増加による微小閉塞、尿細管閉塞・障害、動脈攣縮、アポトーシス誘導などが組み合わさって腎機能低下を引き起こします。
参考)https://cdn.jsn.or.jp/data/guideline-201911.pdf
興味深いことに、造影剤投与後の腎血流は二相性の変化を示し、初期の一過性血管拡張に続いて強力な血管収縮が起こります。この血管収縮は腎に特徴的で、通常腎以外の血管では血管拡張のみが誘発されるという独特な反応パターンを示します。
造影剤腎症の予防策として、等張食塩水による水分補給が有用とされており、動脈内投与での高用量造影剤は腎症リスクの増加に関連していますが、臨床的に投与される範囲内での静脈内投与では用量変化による毒性データは限定的です。腎機能は通常、造影剤腎症後に正常まで回復しますが、適切なリスク評価と管理が不可欠です。
造影剤の副作用分類と最新安全性情報
造影剤の副作用は、程度により軽症、中等症、重症に分類され、多くは急性副作用(即時型副作用)として投与後数分以内に発症します。軽症の副作用(発生頻度3%程度)には嘔気、動悸、頭痛、かゆみ、発疹などがあり、特に治療を要しないことが多いとされています。
参考)https://hokkaidoh.johas.go.jp/cooporation/files/2019_cooporation_16.pdf
重篤な副作用として注目すべきは、呼吸困難、意識障害、血圧低下などの重い副作用(発生頻度0.01%程度、1万人につき1人)で、治療が必要となり後遺症が残る可能性があります。特に喘息の既往がある患者では、重い副作用の発生確率が約10倍高いと報告されており、慎重な適応判断が求められます。
参考)よくあるご質問 造影剤を使うといわれましたが,造影剤について…
最新の安全性情報では、線状型ガドリニウム造影剤は環状型ガドリニウム造影剤より脳にガドリニウムが多く残存するとの報告があり、環状型ガドリニウム造影剤の使用が推奨される傾向にあります。また、検査後1週間程度経過してからも発疹やかゆみなどの遅発性副作用が起こる場合があり、患者への適切な情報提供が重要です。
参考)http://www.rgmc.izumisano.osaka.jp/wp/wp-content/uploads/2020/03/09_zoei_sideEffect_CT.pdf
造影剤による死亡例も10~20万人に1人の割合(0.0005~0.001%)で報告されており、診断における有益性と副作用リスクを総合的に検討した上での使用決定が医療従事者に求められています。