歩行障害の種類と原因疾患
歩行障害の中枢神経疾患による主要な種類
中枢神経系の疾患による歩行障害は、脳や脊髄の病変部位により特徴的なパターンを示します。痙性歩行は、中枢神経系の障害により脚が伸びきったつま先立ちの姿勢で、つま先を引きずるように歩く状態が特徴的です。主な原因疾患には脳血管疾患、多発性硬化症、脊髄損傷、頚椎症性脊髄症などがあげられます。
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はさみ足歩行は、痙性歩行と同様の症状が両側性に生じ、両膝が密着またはほとんど離れずX脚のようなシルエットで歩く状態です。頚椎症性脊髄症などの脊髄疾患が主要な原因となります。
参考)歩行障害・姿勢のゆがみ
失調性歩行は、筋力低下や運動麻痺がないにもかかわらず、スムーズに歩けない状態を指し、小脳に原因がある場合は足を大きく開いた歩行になります。酩酊歩行のようにふらふらとした不安定でぎこちない歩行が特徴で、脊髄小脳変性症やウェルニッケ脳症などが原因疾患として知られています。
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歩行障害のパーキンソン病関連症状
パーキンソン病による歩行障害は、独特の特徴を示し、医療従事者にとって重要な診断ポイントとなります。小刻み歩行は、前かがみの姿勢で歩幅が極端に狭くなり、手の振りも少なくなる歩行パターンです。
突進歩行は、体が前に傾いたまま徐々に早足になり、一度動き始めると止まれなくなってしまう歩行で、転倒リスクが非常に高い症状です。この症状は前進時だけでなく後退時にも見られることがあります。
パーキンソン病では、筋固縮に伴う歩行障害や姿勢反射障害を示し、動き出しにくさ(Frozen gait)と動き出したら止まりにくい特徴があります。主としてドパミン神経の変性が病態の基盤となっており、50~60代での発症が多く、徐々に症状が悪化する進行性疾患です。
歩行障害の筋骨格疾患による種類
筋骨格疾患による歩行障害は、関節や筋肉の構造的問題が原因となり、特徴的な歩行パターンを示します。間欠性跛行は、少し歩行すると下肢の痛みや痺れが出現しますが、休憩をとれば再び問題なく歩けるようになる歩行です。
神経性間欠性跛行では、腰椎などに疾患があり、特定の方向に体を移動すると痛みが和らぐ特徴があります。一方、血管性間欠性跛行では、血流の改善により症状が軽減されます。脊柱管狭窄症や坐骨神経痛が主要な関連疾患です。
墜落性跛行は、片脚で立っている時に反対側の骨盤が下降するような歩行で、左右の脚の長さに差がある場合に多く見られます。変形性股関節症や先天性股関節症などが関連疾患として挙げられます。
歩行障害の鑑別診断における特殊な種類
医療従事者が見落としやすい歩行障害として、心因性歩行障害があります。身体機能や運動機能に異常がないにもかかわらず歩けなくなる状態で、介助により歩行可能という特徴があります。
鶏歩は、足首が垂れたまま歩く状態で、つまづきを回避しようと足を大きく持ち上げるように歩行することが特徴です。腓骨神経麻痺が主要な原因疾患となります。
動揺性歩行は、腰を左右に振りながら進む歩行で、一歩ごとに腰や肩の水平ラインが大きく傾く特徴があります。これらの歩行障害は、症状の観察により原因疾患の推定が可能で、適切な診療科への紹介に重要な情報となります。
歩行障害の評価と治療における医療従事者の役割
歩行障害の評価において、医療従事者は定性的評価と定量的評価の両方を活用する必要があります。定性的評価では歩行観察が基本となり、前額面・矢状面からの観察により各歩行周期における正常からの逸脱を確認します。
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定量的評価では、10m歩行テストが広く用いられ、通常歩行速度が1.0m/秒を下回ると要介護の割合が高くなることが知られています。10秒がカットオフ値として考えられており、転倒リスクの評価にも活用されます。
歩行障害の治療では、理学療法士による専門的リハビリテーションが重要な役割を果たします。運動療法による筋力トレーニングと関節可動域の改善、正しい歩き方の指導、歩行補助具の使用方法、転倒予防のためのバランストレーニングなどが実施されます。電気刺激療法による麻痺筋の活性化や短下肢装具・長下肢装具などの装具療法も併用されることがあります。