筋ジストロフィーの種類と分類
筋ジストロフィーのジストロフィノパチー系病型
筋ジストロフィーの中で最も頻度が高いのがジストロフィノパチー系の病型です 。この分類には、重症型であるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)と、軽症型のベッカー型筋ジストロフィー(BMD)が含まれます 。
参考)病型と治療
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、幼児期(3~5歳頃)に発症し、男児の出生100,000例当たり約10例の頻度で発生します 。主な症状として、近位筋から始まる筋力低下、ガワーズ徴候(特徴的な立ち上がり方)、動揺性歩行、ふくらはぎの仮性肥大が挙げられます 。患者の約4割は遺伝とは関係なく突然変異で生じることが報告されています 。
参考)筋ジストロフィーにはどのような種類がありますか? |筋ジスト…
ベッカー型筋ジストロフィーは、同じジストロフィン遺伝子の変異が原因ですが、デュシェンヌ型よりも高い年齢で発症し、筋力低下が軽度であるという特徴があります 。ジストロフィンの機能が部分的に保たれているため、長期間にわたり歩行能力を維持できる場合があります 。
参考)筋ジストロフィー
筋ジストロフィーの肢帯型と特徴的症状パターン
肢帯型筋ジストロフィーは、肩甲帯と骨盤帯周囲の筋力低下を主症状とし、デュシェンヌ型、ベッカー型、先天型以外の筋ジストロフィーを総称したものです 。原因は多岐にわたり、遺伝子異常に基づいた疾患単位ごとに病型が分類されています 。
参考)肢帯型筋ジストロフィー – 19. 小児科 – MSDマニュ…
初期症状として、骨盤帯や肩甲帯の筋肉における筋力低下が最も特徴的で、特に下肢の筋力低下は歩行時のふらつきや階段の昇降困難として現れます 。筋力低下は左右対称性に進行し、多くの事例では上肢よりも下肢の症状が顕著に表れます 。発症は小児から成人まで幅広く、思春期以降に下肢の筋力低下で発症することが多く、筋力が徐々に低下していきます 。
肢帯型筋ジストロフィーでは高CK血症(1,000IU/L以上)が見られ、心筋はあまり障害されませんが、症状や病型ごとで生じやすい呼吸障害、心合併症などの症状も異なるため、正確な診断が重要です 。
参考)肢帯型筋ジストロフィー
筋ジストロフィーの筋強直性病型における多臓器障害
筋強直性ジストロフィーは、成人発症型が多く、筋肉が収縮した後に弛緩しにくい(筋強直)症状が特徴的です 。症状は通常、青年期ないし成人期の早期に現れ始め、筋強直とは収縮した筋肉が弛緩するのに時間がかかる状態を指します 。
この病型の特徴として、手や顔の筋肉に影響が出やすく、筋力低下に加えて白内障、心筋障害、不整脈、内分泌異常など全身にわたる多臓器への影響が見られます 。最も重いタイプでは、極度の筋力低下に加え、精巣萎縮(男性)、前頭部の頭皮の壮年性脱毛症(男性)、糖尿病、知的障害など、多様な症状が現れます 。
参考)この病気とは
筋強直性ジストロフィーでは、日中の過剰な眠気(過眠)が起きることが多く、これは症状の一つとして理解される必要があります 。また、症状に関する自覚も低下するため、少なくとも年に1回以上の定期的な診察が必要とされています 。
筋ジストロフィーの顔面肩甲上腕型における表情筋障害
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーは、その名の通り顔面、肩甲骨周囲、上腕の筋肉が特に影響を受ける病型です 。症状は幼児期から発生することがあり、通常は青年期に著明になり、95%の症例が20歳までに発症します 。
参考)顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー – 19. 小児科 – MS…
この病型の最も特徴的な症状は、顔面筋の筋力低下による表情の変化です 。初期症状として、目を強く閉じることが困難になる(閉眼困難)、口笛を吹くことができない(口とがらせ不良)、表情の乏しさなどが現れます 。これらの症状により、患者は口笛を吹く、眼をしっかり閉じる、腕を上げるといった動作が困難になります 。
肩甲骨固定筋の筋力低下により翼状肩甲(肩甲骨の内側が浮いたようになり、折り畳んだ鳥の羽根のように見える症状)が生じることも特徴的です 。筋症状以外では、感音難聴や網膜血管異常などの合併症がしばしば見られます 。多くの患者では機能障害を来さず期待余命は正常ですが、成人期に車いすでの生活を余儀なくされる患者もいます 。
参考)https://nmdportal.ncnp.go.jp/information/fshd.html
筋ジストロフィーの福山型先天性病型における脳合併症
福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)は、日本人に特有の筋ジストロフィーで、脳形成異常も合併する重篤な病型です 。9番染色体に存在するフクチン遺伝子の変異が原因で、常染色体潜性遺伝の形式をとります 。弥生時代の日本人の祖先に突然変異が起こり、広まったと考えられており、日本人の約100人に1人がこの変異を有していると推定されています 。
参考)https://nmdportal.ncnp.go.jp/information/fcmd.html
福山型先天性筋ジストロフィーは新生児期や乳児期早期から症状が現れ、全身の筋力と筋緊張の低下がみられます 。特徴的な顔貌として、目が十分に閉じない、頬がふっくらしている、よだれを流す、まつげが長いなどの症状があります 。患者の半数以上に近視や網膜剥離といった眼の病気を伴い、知的能力障害やけいれんを合併することもあります 。
症状の程度には個人差があり、1割程度は歩くことができるようになりますが、患者の70%は3~4歳頃にお尻を床に付けて進む”いざり”ができるようになる程度の運動能力が最高となります 。年齢が上がると、肺炎や呼吸筋の筋力低下による呼吸不全、拡張型心筋症による心不全など、命に関わる合併症を引き起こすこともあります 。かつて平均寿命は10代前半とされていましたが、医療の進歩により現在では10代後半から20代前半が平均的な予後とされています 。