タウタンパク質とアミロイドβの違い

タウタンパク質とアミロイドβの違い

タウタンパク質とアミロイドβの基本的違い
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タウタンパク質の基本特性

神経細胞内で微小管を安定化する機能を持つ細胞内タンパク質

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アミロイドβの基本特性

アミロイド前駆体タンパク質から産生される細胞外凝集性ペプチド

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病変形成の特徴

タウは神経原線維変化、アミロイドβは老人斑をそれぞれ形成

タウタンパク質の構造と正常機能

タウタンパク質は微小管結合タンパク質(MAP)として知られ、中枢神経系の神経細胞に豊富に存在する細胞内タンパク質です。正常状態では、タウは軸索の微小管に結合して微小管の安定化と重合促進を行う重要な機能を担っています。

参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%82%A6%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA

タウは17番染色体上のMAPT遺伝子から合成され、選択的スプライシングにより6つのアイソフォームが存在します。これらのアイソフォームは微小管結合領域の数により、3リピート(3R)タウと4リピート(4R)タウに分類されます。微小管との相互作用により、神経細胞の軸索における細胞骨格の安定性維持と軸索輸送の調節を担っています。

参考)https://www.bri.niigata-u.ac.jp/research/column/002111.html

タウの機能はリン酸化により厳密に制御されており、適切なリン酸化パターンが維持されることで、微小管の動的平衡と神経細胞の正常な機能が保たれています。また、タウはα-tubulinとβ-tubulinが重合した微小管の外側に結合し、微小管プロトフィラメントに沿って縦方向に配置されます。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2173547/

アミロイドβの産生と蓄積メカニズム

アミロイドβ(Aβ)は約40-42アミノ酸からなるペプチドで、アミロイド前駆体タンパク質(APP)がβ-セクレターゼとγ-セクレターゼによる二段階の切断を受けることで産生されます。主にAβ40とAβ42の2つの主要な形態が存在し、特にAβ42は凝集しやすく神経毒性が高いとされています。

参考)https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%A2%E3%83%9F%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89%CE%B2%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA

正常な生理的条件下では、Aβは細胞外に分泌され、適切にクリアランスされます。しかし、産生の増加やクリアランスの低下により脳内に蓄積すると、重合・線維化を起こし、最終的に細胞外で老人斑を形成します。このプロセスでは、可溶性のAβモノマーから始まり、オリゴマー、プロトフィブリル、そして不溶性のアミロイド線維へと段階的に凝集が進行します。

参考)https://kachi-memorial-hospital.jp/blog/3061/

アミロイド線維は特徴的なクロス-β構造を形成し、コンゴレッド染色で偏光下でアップルグリーンの複屈折を示します。近年の研究では、Aβオリゴマーが特に強い神経毒性を示し、シナプス機能障害や神経細胞死を引き起こすことが明らかになっています。

タウ病変と神経原線維変化の形成過程

病的状態では、タウタンパク質が異常にリン酸化され、過リン酸化タウとして知られる状態になります。この過リン酸化により、タウは微小管への結合能を失い、微小管から解離して細胞質内に遊離します。解離したタウは自己凝集を開始し、まず可溶性オリゴマーを形成し、その後、対らせん状細線維(paired helical filaments:PHF)へと発展します。

参考)https://www.abcam.co.jp/neuroscience/beta-amyloid-and-tau-in-alzheimers-disease

PHFは直径約10-20nmの線維状構造で、2本のらせん状フィラメントが組み合わさった特徴的な形態を示します。これらのPHFが細胞内に大量に蓄積すると、神経原線維変化(neurofibrillary tangles:NFT)として観察されます。NFTはアルツハイマー病をはじめとするタウオパチー疾患の重要な病理学的特徴となっています。

参考)https://blog.cellsignal.jp/neurodegeneration-tau-protein-and-neurofibrillary-tangles

興味深いことに、タウの異常凝集は疾患により異なるパターンを示します。アルツハイマー病では全ての6つのタウアイソフォーム(3Rと4R)が蓄積しますが、ピック病では3Rタウのみ、進行性核上性麻痺や皮質基底核変性症では4Rタウのみが蓄積する特徴があります。この差異は疾患の病態や臨床症状の違いに関連していると考えられています。

参考)https://www.igakuken.or.jp/topics/2015/1107.html

アミロイドカスケード仮説における相互作用

アミロイドカスケード仮説は、Aβの蓄積がアルツハイマー病発症の引き金となり、続いてタウ病理が形成されるという考え方です。この仮説によると、まずAβが脳内に蓄積し、これがタウタンパク質の異常なリン酸化を誘導し、最終的に神経細胞死を引き起こすとされています。

参考)https://www.sysmex-medical-meets-technology.com/_ct/17498593

しかし、近年の研究では、この直線的な関係性に疑問が呈されています。BraakらによるとAβの蓄積前からタウ病変が開始されており、両者の病変は必ずしも上流・下流の関係ではなく、並行して進行する可能性が示唆されています。また、アミロイドPETによる画像研究では、側頭葉底面と前部帯状回へのAβ沈着が早期に認められ、この領域でタウ病変とAβが遭遇することがアルツハイマー病の起点となっている可能性が指摘されています。

参考)https://www.shiga-med.ac.jp/hqbioph/demence/Alzheimer/Alz.html

さらに、正常加齢においてもAβやタウの沈着は起こり得るため、単純な因果関係では説明できない複雑な相互作用が存在すると考えられています。家族性アルツハイマー病の遺伝子改変マウスモデルでは、大量の老人斑が形成されるもののタウ病変が再現できないという事実も、両者の関係の複雑さを示しています。

タウタンパク質のプリオン様伝播メカニズム

近年の研究により、タウタンパク質がプリオン様の性質を示し、細胞間で伝播することが明らかになっています。タウ凝集体は「シード」として機能し、正常なタウタンパク質を異常な構造に変換させながら、神経細胞から神経細胞へと広がっていきます。この伝播メカニズムは、タウ病変が脳内で特定のパターンで進展することの説明となっています。

参考)https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22K07546/

タウの伝播は単なる受動的拡散ではなく、能動的な細胞間輸送過程を含みます。ABCトランスポーターを介した細胞外放出経路が同定されており、この経路を通じてタウが細胞外に放出され、隣接する神経細胞に取り込まれることが示されています。興味深いことに、この放出経路はα-シヌクレインと共通しており、パーキンソン病の認知症発症におけるタウとα-シヌクレインの相互作用の基盤となっている可能性があります。
タウの伝播には、アミロイドβの存在が促進的に働くことも示されています。アミロイドβが存在する環境では、タウの病的変化がより迅速かつ広範囲に進展し、これがアルツハイマー病における急速な認知機能低下の原因の一つとなっていると考えられています。
理化学研究所の研究:アルツハイマー病の悪性化に関わるタンパク質の発見
AMED研究:認知症の病因「タウタンパク質」が脳から除去されるメカニズムの解明
薬学雑誌:タウのプリオン様伝播モデルに関する詳細な解説