トリクロと効果

トリクロの効果

トリクロ系薬剤の主要効果
🦠

抗菌・殺菌効果

トリクロサンによる広範囲細菌の増殖抑制

💤

睡眠導入効果

トリクロホスナトリウムの中枢神経系への作用

⚠️

安全性課題

耐性菌出現リスクと規制動向

トリクロサンの抗菌機序と効果

トリクロサンは、フェノール系の抗菌剤として40年以上の使用実績を持つ化学物質です 。この薬剤の抗菌効果は、濃度に応じて異なる作用機序を示します。

参考)https://lib.ruralnet.or.jp/nisio/?p=1482

高濃度においては、複数の細胞質と細胞膜を標的として殺生物剤として機能します 。一方、低濃度では、細菌のエノイル酵素に結合し、脂肪酸合成を阻害することで静菌的に作用します 。脂肪酸は細胞膜の構築と再生に必要不可欠であるため、この合成阻害により細菌の増殖が抑制されます。

参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%B5%E3%83%B3

歯科領域での研究では、トリクロサンが歯肉縁上プラークの抑制、歯肉炎の抑制、さらには歯石の抑制効果も示すことが報告されています 。トリクロサン配合歯磨き粉の使用により、プラークと歯肉炎の両方を効果的に減少させることが確認されており、6〜7ヶ月の使用でプラーク量が22%減少したというデータもあります 。

参考)https://ladent-aoyama.com/column/%E6%AD%AF%E7%A3%A8%E5%89%A4%E3%81%AB%E5%90%AB%E3%81%BE%E3%82%8C%E3%82%8B%E6%8A%97%E8%8F%8C%E5%89%A4%EF%BC%88%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%B5%E3%83%B3%EF%BC%89/

ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)に対しても有効性が確認されており、2〜128μg/mLの濃度範囲で抗菌効果を発揮します 。特に虫歯関連細菌に対する抗菌活性は、口腔衛生製品への添加物質として注目されています。

参考)https://periodicos.sbu.unicamp.br/ojs/index.php/bjos/article/download/8668076/30090

トリクロホスナトリウムの睡眠効果

トリクロリールシロップの主成分であるトリクロホスナトリウムは、体内でトリクロロエタノールとなり、脳の興奮状態を鎮静化させ、寝付きを改善する作用を示します 。

参考)https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/guide/ph/530258_1129004Q1031_1_00G.pdf

この薬剤の効能・効果は、不眠症の治療および脳波・心電図検査等における睡眠導入です 。通常、成人では1回1〜2gを就寝前または検査前に経口投与し、幼小児では年齢により適宜減量します。総量は2gを超えないよう注意が必要です 。

参考)https://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1amp;yjcode=1129004Q1031

抱水クロラールとの比較試験では、睡眠導入時間において同等の効果が認められています。トリクロリールシロップの平均睡眠導入時間は37.3±12.1分で、抱水クロラール(36.6±14.4分)と統計的に有意な差はありませんでした 。しかし、味の面では、トリクロリールシロップの方が嫌悪を示す患者の割合が少なく(5% vs 27%)、服薬アドヒアランスの向上が期待できます。
小児の検査時鎮静においても広く使用されており、心エコー、脳波、CT、MRI検査時の緊張や不安を和らげ、眠気を誘う作用があります 。臨床成績では、睡眠効果の判定において84.3%(321/381例)の有効率が報告されています 。

参考)https://www.wch.opho.jp/hospital/department/housyasenka/housyasenka12.html

トリクロサンの安全性と毒性プロファイル

トリクロサンの毒性データによると、マウスでの経口LD50は4530mg/kg、ラットでの経口LD50は3700mg/kgと報告されています 。これらの数値は、急性毒性としては比較的低い値を示しています。

参考)https://www.kenei-pharm.com/medical/countermeasure/choose/toxicity10/

しかし、長期使用における安全性には複数の懸念があります。妊娠ラットを用いた生殖毒性試験では、400mg/kg用量で胎仔死亡率の有意な上昇が認められ、母体には摂餌量減少、立毛、流涙、失禁、下痢などの中毒症状が観察されました 。
特に注意すべき点は、トリクロサンが加熱やUV照射によってダイオキシン誘導体(毒性物質)を生成する可能性があることです 。この化学的不安定性は、製造・保存条件において重要な考慮事項となります。
副作用としては接触皮膚炎が報告されており、20歳女性でトリクロサン含有制汗スプレー使用により両腋窩に色素沈着と紅斑を伴う皮膚炎が発生した症例があります 。さらに、前腕や手の消毒後に掻痒性皮疹が出現し、顔面・頸部にも拡大した事例も記録されています。
内分泌撹乱作用についても研究が進んでおり、2009年の研究では甲状腺ホルモン濃度の低下が示されました 。また、人体の脂肪組織に蓄積する性質があり、母乳からの検出例(5件中3件)や新生児臍帯血からの検出も報告されています 。

参考)https://concio.jp/blogs/blog/triclosan

トリクロサンの耐性菌問題と環境影響

2000年以降の研究により、トリクロサンに対する耐性菌の存在が多数発見されています 。これらの耐性菌は、通常の抗生物質や抗菌薬に対しても耐性を示す可能性があり、公衆衛生上の重大な懸念となっています。
ゼブラフィッシュを用いた研究では、トリクロサンの抗菌効果により腸内環境に劇的な変化が観察されました 。さらに、トリクロサンが母乳に含まれることから、母親から子どもへの移行も確認されており、母子両方の腸内細菌叢に影響を与えることが判明しています 。

参考)https://gigazine.net/news/20160411-antibacterial-soap-more-harm/

環境への影響も深刻で、尿から排出されたトリクロサンは下水処理場に到達し、下水中の微生物体系を破綻させています 。特に「mexB」と呼ばれる微生物の遺伝子を変化させ、この微生物がトリクロサンや抗生物質を排除する働きを獲得するため、下水処理能力の低下を招いています。
腸内細菌叢の微生物的変化により、既存の抗生物質に対する耐性が形成される恐れもあり、医療現場での感染症治療に重大な影響を及ぼす可能性があります 。これらの知見により、トリクロサンの環境負荷と生態系への長期的影響が国際的な関心事となっています。

日本におけるトリクロ規制動向と医療現場での対応

2016年9月2日、米国食品医薬品局(FDA)がトリクロサンを含む19成分の抗菌石鹸について1年以内の販売停止措置を発表しました 。この措置を受けて、日本の厚生労働省も同年9月30日に、国内メーカーに対してトリクロサン等を含有する薬用石鹸の代替成分への切替えを促す通知を発出しています 。

参考)https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000138223.html

日本国内では、これらの成分を含有する薬用石鹸が約800品目承認されていましたが、医薬品医療機器法上の健康被害は報告されていません 。しかし、世界的な規制動向を踏まえ、製造販売業者に対して1年以内の代替製品への切替えが要請されました 。

参考)https://www.pmda.go.jp/files/000214381.pdf

マンダム株式会社の事例では、厚生労働省の通知を受けて、トリクロサン配合製品すべての代替成分への切替えを進めると発表しています 。同社は「ギャツビー ウェアデオドラントスプレー」「ルシード 薬用スカルプデオシャンプー」など複数の製品でトリクロサンを使用していましたが、今後はトリクロサンを含む19種の殺菌成分を製品に配合しない方針を決定しました 。

参考)https://www.mandom.co.jp/sustainability/latestinfo/20161201_02.html

国立医薬品食品衛生研究所の専門家によると、日本の薬用石鹸中のトリクロサン濃度は米国より低く、河川水の浄水化過程で除去されるため、環境中での曝露も考慮不要とされています 。しかし、予防原則に基づく規制強化は、医療従事者にとって代替消毒剤の選択と適切な使用方法の習得が重要な課題となっています。

参考)https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=5526

医療現場では、トリクロサンに代わる抗菌剤として、イソプロピルメチルフェノール(IPMP)やサリチル酸などの使用が推奨されており 、これらの成分による効果と安全性の検証が継続的に行われています。

参考)https://www.matsumoto.or.jp/toothteeth/perio-paste/