骨髄異形成症候群ガイドラインの診断基準と治療選択

骨髄異形成症候群ガイドライン

骨髄異形成症候群診療の要点
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診断基準の標準化

WHO分類第5版による病型分類と異形成の評価基準

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リスク評価システム

IPSS-Rによる5段階リスク分類と予後予測

🎯

個別化治療戦略

患者背景とリスクに基づく治療選択のガイダンス

骨髄異形成症候群の診断基準と分類

骨髄異形成症候群(MDS)の診断は、日本血液学会の造血器腫瘍診療ガイドライン第3.1版(2024年版)に基づき、必須基準と決定的基準の組み合わせで確定される 。必須基準として、①末梢血と骨髄の芽球比率が20%未満、②血球減少や異形成の原因となる他疾患の除外、③末梢血単球数1×10⁹/L未満、④特定の染色体異常の除外が挙げられる 。

参考)ホーム|造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版(2024年版…

決定的基準では、①骨髄塗抹標本での異形成がLow以上、②骨髄赤芽球中環状鉄芽球が15%以上(SF3B1遺伝子変異がある場合は5%以上)、③分染法またはFISH法でMDSを推測する染色体異常の証明が含まれる 。補助基準として、遺伝子変異の証明、網羅的ゲノム解析でのゲノム異常、骨髄生検での特徴的所見、フローサイトメトリーでの異常形質の証明が活用される 。

参考)https://zoketsushogaihan.umin.jp/file/2022/Myelodysplastic_Syndromes.pdf

異形成の評価では、赤血球系では巨赤芽球や環状鉄芽球、白血球系では顆粒減少や核形態異常、血小板系では微小巨核球などが重要な指標となる 。環状鉄芽球は核周の1/3以上に核に沿った鉄顆粒を認める、または核に沿って5個以上の明瞭な鉄顆粒を認める赤芽球として定義される 。

参考)https://www.kakohp.jp/wp-content/uploads/lecture_2.pdf

骨髄異形成症候群のWHO分類システム

WHO分類第5版では、従来の「骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes)」から「骨髄異形成腫瘍(myelodysplastic neoplasms)」へと名称が変更され、腫瘍的性格が強調されている 。病型区分では、従来のリスクベースの分類から遺伝子学的定義に重点を置いた分類へと移行している 。

参考)治療選択のためのMDSの病型分類とリスク

主要な病型として、①一系統の不応性血球減少症(RA、RN、RT)、②環状鉄芽球を伴う不応性貧血(RSRA)、③多系統の不応性血球減少症(MLRC)、④芽球過剰の不応性貧血(RAEB-1、RAEB-2)、⑤単独5q-関連MDS、⑥分類不能型MDSが挙げられる 。

参考)9.骨髄異形成症候群 (myelodysplastic sy…

新分類では低芽球性MDS(MDS-LB)と芽球増加を伴うMDS(MDS-IB)を区別する用語が明確化され、芽球割合による詳細な分類が可能となっている 。ICC(International Consensus Classification)によるMDS及びMDS/AMLの病型区分では、骨髄又は末梢血中の芽球割合、遺伝子変異、染色体異常、異形成系統数によって分類される 。

骨髄異形成症候群のリスク分類と予後評価

MDSの予後評価には、IPSS(International Prognostic Scoring System)とその改訂版であるIPSS-R(Revised IPSS)が広く用いられている 。IPSS-Rでは、①染色体核型、②骨髄中の芽球割合、③ヘモグロビン値、④血小板数、⑤好中球数の5つの予後因子が点数化され、Very Low、Low、Intermediate、High、Very Highの5つのリスク群に分類される 。

参考)MDS(骨髄異形成症候群)と白血病の治療

染色体核型は予後に最も大きく影響する因子で、Very good(単独-Y、del(11q)、del(20q))からVery Poor(複雑核型≧3個、-7/del(7q)を含む複雑核型)まで段階的に点数化される 。骨髄中の芽球割合では、≦2%を0点、>2~<5%を1点、5~10%を2点、>10%を3点として評価される 。
血球減少の程度も重要で、ヘモグロビン値≧10g/dlを0点、8~<10g/dlを1点、<8g/dlを1.5点、血小板数≧10万/μLを0点、5~<10万/μLを0.5点、<5万/μLを1点として計算される 。これらの総合点により患者の予後を正確に評価し、治療選択の指針とする 。

参考)骨髄異形成症候群の予後と予後予測について

骨髄異形成症候群の治療選択基準

MDSの治療選択は、IPSS-Rによるリスク分類、患者の年齢、全身状態、併存疾患を総合的に評価して決定される 。低リスク群(Very Low、Low、一部のIntermediate)では支持療法と症状改善を主眼とし、高リスク群(High、Very High、一部のIntermediate)では疾患制御と根治を目指した治療が選択される 。

参考)骨髄異形成症候群の治療について

低リスク群では、貧血に対するエリスロポエチン製剤、好中球減少に対するG-CSF製剤、輸血療法、鉄キレート療法が基本となる 。骨髄低形成例や微小PNH型血球陽性例では、シクロスポリンや抗胸腺細胞グロブリンによる免疫抑制療法が考慮される 。

参考)骨髄異形成症候群(MDS)の治療

高リスク群では、65歳以下で併存疾患が少ない場合、同種造血幹細胞移植が第一選択となる 。移植適応外の患者では、アザシチジン(ビダーザ)による脱メチル化療法が標準治療として推奨される 。化学療法としては、IDA/AraC療法、DNR/AraC療法、CAG療法などが病状に応じて選択される 。

参考)https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/20m_mds.pdf

骨髄異形成症候群診療における新たな取り組み

近年のMDS診療では、造血器腫瘍ゲノム検査ガイドラインに基づく遺伝子パネル検査の活用が推進されている 。初発時診断において、診断補助、予後予測、治療選択の観点からパネル検査の実施が推奨度別に整理されている 。特にSF3B1、TP53、ASXL1、RUNX1、SRSF2などの遺伝子変異は診断および予後予測に重要な役割を果たしている 。
治療関連MDSでは、化学療法や放射線治療歴のある患者で発症するMDSとして特別な注意が必要である 。これらの症例では、しばしばTP53遺伝子変異や複雑染色体異常を伴い、予後不良となることが多い 。WHO 2022分類では、双等位基因TP53変異を伴うMDS(MDS-biTP53)が独立した病型として分類され、特に予後不良群として認識されている 。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/b2cfbce53b4f9381fea7e85439c7e634361a95ad

フローサイトメトリーを用いた異常形質の検出も診断精度向上に貢献している 。CD45-gating法による細胞表面抗原解析では、骨髄系細胞の異常な形質を検出することで、形態学的診断を補完する情報が得られる 。骨髄生検標本では、ALIP(abnormally localized immature precursors)、CD34陽性芽球の集簇、微小巨核球の免疫染色による定量評価などが診断に有用である 。