消化酵素の一覧と分類
消化酵素は、食物の栄養素を体内で吸収可能な形に分解する重要な生体触媒です 。医療従事者として理解すべき消化酵素は、その分解対象により主に3つのグループに分類されます 。
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炭水化物分解酵素群は、デンプンや糖類を単糖まで分解する機能を持ちます 。代表的な酵素として、唾液と膵液に含まれるアミラーゼが挙げられ、デンプンを麦芽糖(マルトース)に分解します 。小腸の壁に存在するマルターゼは、麦芽糖をさらにブドウ糖まで分解する役割を担います 。
タンパク質分解酵素群(プロテアーゼ)は、タンパク質をアミノ酸まで分解する多様な酵素群です 。胃液に含まれるペプシン、膵液に含まれるトリプシン、小腸で働くペプチダーゼなどが協働して、段階的にタンパク質を分解します 。
脂肪分解酵素であるリパーゼは、膵液に含まれ、中性脂肪を脂肪酸とモノグリセリドに分解します 。この酵素は胆汁の乳化作用と協働して、脂質の消化吸収を効率的に進めます 。
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消化酵素アミラーゼの種類と働き
アミラーゼは消化酵素の中でも最も研究が進んでいる酵素の一つで、分泌部位により複数のアイソザイムが存在します 。唾液由来のアミラーゼ(S型)と膵臓由来のアミラーゼ(P型)は、分子構造が約97%類似していながら、糖鎖付加の有無で区別されます 。
参考)https://www.rakuten.ne.jp/gold/pycno/special/about_amylase.html
膵α-アミラーゼは分子量54,000で糖鎖がほとんど付加されておらず、一方で唾液腺α-アミラーゼは糖鎖付加により分子量62,000のfamily-Aと、糖鎖非付加の分子量56,000のfamily-Bが存在します 。血中では通常、膵臓由来と唾液由来の各α-アミラーゼが約1:1の割合で存在し、この比率変化が膵炎などの病態診断に活用されます 。
デンプン分解の過程では、アミラーゼがα-1,4グリコシド結合を鎖の途中で加水分解するエンド型酵素として作用し、大量のマルトースを生成します 。この反応により、口腔内での予備消化が開始され、胃での消化がスムーズに進行します 。
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消化酵素プロテアーゼの分類と機序
プロテアーゼは作用機序によって4つの主要グループに分類される多様な酵素群です 。セリンプロテアーゼは活性部位にセリンを含み、消化酵素のトリプシンやキモトリプシンがこれに分類されます 。これらの酵素は膵臓で産生され、小腸で活性化されてタンパク質を小さなペプチドに分解します 。
参考)消化酵素
アスパルテートプロテアーゼは活性中心にアスパラギン酸残基を持ち、胃液に含まれるペプシンが代表例です 。ペプシンは強酸性環境下で機能し、タンパク質の初期分解を担当します 。
参考)http://www.hbi-enzymes.com/HBI_Protease.htm
システインプロテアーゼはシステインが活性部位に関与し、パパインやブロメラインなどの植物由来酵素が知られています 。メタロプロテアーゼは金属イオンを活性部位に持ち、細胞外マトリックスの再構築などに関与します 。
pH特異性から見ると、プロテアーゼは酸性、中性、アルカリ性プロテアーゼに分類され、それぞれが特有の作用最適pHを有します 。この特性により、胃から小腸にかけての異なるpH環境で段階的なタンパク質分解が可能となります。
消化酵素リパーゼの特異性と反応様式
リパーゼは脂質のエステル結合を加水分解する酵素の総称で、基質であるトリグリセリドの多様性から分解特異性が異なる数多くの種類が存在します 。位置特異性では、トリグリセリドのどの位置(1位、2位、3位)を優先的に分解するかがリパーゼの種類により異なります 。
参考)【総説】リパーゼの特徴と有効性について|siyaku blo…
脂肪酸の鎖長特異性により、短鎖、中鎖、長鎖の脂肪酸結合を好むリパーゼに分類されます 。この特異性により、摂取する脂質の種類に応じた効率的な消化が可能となります。
リパーゼの反応は可逆的で、反応条件により加水分解だけでなくエステル化反応、エステル交換反応も触媒できます 。生体内では主に加水分解反応により、食物から摂取した脂肪を胆汁と混合して乳化し、脂肪酸とグリセロールに分解します 。
分解された脂肪酸は小腸上皮細胞から吸収されて血液に乗り、全身のエネルギー源として利用されます 。ただし、脂肪摂取量が多く脂肪酸が過剰になると、体脂肪として蓄積される可能性があります 。
消化酵素マルターゼと糖質代謝の調節
マルターゼ(α-グルコシダーゼ)は糖のα-1,4-グルコシド結合を加水分解する反応を触媒する膜酵素で、小腸上皮細胞に発現しています 。麦芽糖(マルトース)の分解が主な機能であることから、マルターゼの別名でも呼ばれます 。
膜酵素として存在する理由は、吸収直前に単糖に分解することで腸内細菌などに栄養を奪われにくくするためです 。ヒト腸粘膜からは5種類のα‐グルコシダーゼが分離されており、それぞれ異なる基質特異性を持ちます 。
マルトースの分解過程では、グルコースの1位と4位の炭素のヒドロキシ基が結合したグリコシド結合を、マルターゼが加水分解してブドウ糖2分子を生成します 。この反応により、デンプンから始まった炭水化物の消化が最終段階に至ります。
興味深いことに、米糠メタノール抽出物には二糖類分解酵素の一つであるマルターゼ阻害活性を示す成分が存在することが報告されており、血糖値制御への応用が期待されています 。
参考)KAKEN href=”https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19K05911/” target=”_blank” rel=”noopener”>https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19K05911/amp;mdash; 研究課題をさがす
消化酵素製剤パンクレリパーゼの臨床応用
パンクレリパーゼは健康なブタの膵臓から精製された高力価の膵酵素製剤で、アミラーゼ、リパーゼ、プロテアーゼを含有しています 。慢性膵炎、膵切除、膵嚢胞線維症等に伴う膵外分泌機能不全に対する膵酵素補充療法に用いられます 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00005356.pdf
欧米では膵外分泌機能不全患者の基本的治療法として高力価パンクレアチン製剤による膵酵素補充療法が確立されています 。日本においても従来の低脂肪食管理から、健康成人と同程度の脂肪摂取と高力価膵酵素製剤の併用へと治療方針が変化しています 。
製剤は胃の酸性条件下での失活を防ぐため、約1mmの顆粒に腸溶性被膜を施したMinimicrospheres(MMS)として製造されています 。この技術により、耐胃酸性と粒子径の小型化を実現し、速やかに胃から排出されて十二指腸で効果を発現します 。
臨床的には、プロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、トリプシン、キモトリプシンなどの複数の消化酵素が協働して、膵外分泌機能の代替を行います 。このような製剤の活用により、消化不良症状の改善と栄養状態の維持が可能となります。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00009952