電気メスとモノポーラの基本原理
電気メスモノポーラの作動原理と電流経路
モノポーラ電気メスは、電気メス本体から出力された高周波電流がメス先(アクティブ電極)を通り生体へ流れる仕組みとなっています 。メス先と生体組織が接触している部分の面積は非常に小さいため、この部分に高周波電流が集中し、非常に高いジュール熱や放電熱が発生することで、生体組織を切開したり凝固(止血)したりする効果を発揮します 。
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生体組織に流れた高周波電流は、生体に貼られた対極板(面積の広い電極)で回収され電気メス本体へ戻ります 。対極板と生体組織が接している部分の面積は大きいため、高周波電流は分散して対極板で回収されるため、対極板での発熱は発生しません 。この電流の経路設計により、モノポーラは生体にメス先をあて高周波電流を出力するだけで広い範囲の生体組織を切開、凝固できるため非常に使いやすいという特徴があります 。
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電気メスモノポーラとバイポーラの基本的な違い
モノポーラとバイポーラの最も重要な違いは、電極の数と電流経路にあります 。モノポーラは電気メスのメス先(アクティブ電極)が1本で、その一本のアクティブ電極から高周波電流を流して生体組織へ流します 。一方、バイポーラは電極が2本となり、セッシのような形状をしており、一本の電極から高周波電流を流した後、もう一方の電極にて回収しています 。
組織損傷の範囲においても大きな差があります。モノポーラでは、高周波電流の流れる量が多く生体組織の奥深くまで電流が流れるため、組織損傷の範囲が広くなります 。一方でバイポーラは、電極が近いため高周波電流の流れる量が少なく、電流のループ回路の特徴から電極で挟んだ生体組織にのみ発熱するため、組織損傷を最小限にとどめることができます 。
使用される診療科についても特徴があり、モノポーラは動物用・人用ともに一般外科手術で使用される最も一般的な電気メスです 。一方でバイポーラは、組織損傷を最小限にとどめることができるという特徴から、血管外科手術など微細な手術に用いられます 。
電気メスモノポーラの高周波電流特性と温度制御
モノポーラ電気メスでは、30万~50万Hz(300kHz~5MHz)の高周波交流電流が使用されており、これにより細胞内の温度を上昇させ組織の切離や凝固を実現しています 。この高周波電流は、通常の電気とは異なり、非常に素早く変わる電気の流れに人体の細胞が反応できないため、神経や筋肉への刺激が非常に少なく、分散して流れている限りでは感電しないという特徴があります 。
電気メスの効果を上げるためには電流密度を上げる必要があります 。電流密度を上げるためには、たくさんの電流が狭い面積に流れる必要があり、そのためには電流が流れやすい道を確保し、たくさんの電流が流れる環境をあらかじめ確保しておく必要があります 。電気メスは電気の流れやすい道を選びながら流れ、最終的にゴールにたどり着くため、流れ難い道に電流を流すにはそれだけたくさんの力(電圧)をかけなければなりません 。
参考)電気メスの効果と専用物品の使い分け | 国立長寿医療研究セン…
出力を制御し、細胞を蒸散させることで「切開」効果を発揮し、細胞のたんぱく質をタンパク凝固させることで「止血」効果を実現しています 。この温度制御システムにより、術者は必要に応じて切開と凝固を使い分けることが可能となっています。
電気メスモノポーラの対極板管理と安全対策
対極板は、電気メスを使用する際に患者の体に貼り付けられる電極のことで、電気メスから発生する高周波電流を患者の体を通じて安全に回収し、本体に戻すために使用されます 。対極板が正しく貼られていないと高周波電流を安全に回収できないため、電流が集中して熱傷を引き起こす可能性があり、重篤な火傷や皮膚トラブルなど皮膚に障害を引き起こすことがあったり、予期しない事故につながる恐れがあります 。
参考)https://lab-brains.as-1.co.jp/enjoy-learn/2024/09/69468/
対極板をきちんと貼らないとおこるトラブルとして以下のような問題があります :
参考)よくお問い合わせいただく電気メス対極板の貼り方 – MERA…
- きちんと対極板が貼られていない場合、生体と接触している電極部分に電流が集中し熱傷をおこす
- 電気メスのメス先から出力される高周波電流が小さくなり切れ味、止血効果が悪くなる
- 生体と接続しているほかの医療機器(生体情報モニターなど)へ高周波電流が流れ様々な障害をおこす
- 対極板以外に貼られている電極(心電図電極など)へ高周波電流が流れ熱傷をおこす
- 生体に触れている術者などへ流れ、熱傷をおこす
電気メスモノポーラ使用時の火災防止と緊急対応策
電気メス使用時の引火事故は重大な気道熱傷を生じ、患者に致死的な結果を招く可能性が高いため、特に気管切開時には十分な注意が必要です 。引火事故の要因として、発火元(電気メス、レーザー)、可燃物(アルコール系消毒剤、可燃性気管チューブ、体脂肪や凝固血液など)、助燃性の気体(高濃度酸素30%以上や笑気の併用)が挙げられます 。
参考)気管切開時の電気メス使用に関する注意喚起のお知らせ|日本外科…
🔥 火災防止のための予防策。
- 引火事故に関する知識を共有、関係者全員に注意喚起を行う
- 患者に高濃度酸素投与が必要な状態かどうか再度確認を行う
- 高濃度酸素投与下に電気メスの使用が予定されている場合は、事前に打ち合わせを行い、事故発生時の役割分担を確認する
- 術野への酸素の漏れ出しを遮断するため、気管チューブのカフは十分にふくらませておく
- 気管壁の切開時および気管壁開窓後には、原則として電気メスを使用しない
⚠️ 事故発生時の緊急対応。
事故発生時には迅速に以下の対処が必要です :
- 気管チューブ抜去する
- 酸素を停止する
- 生理食塩水か滅菌蒸留水をかけ、消火する
- 消火確認後、再挿管あるいはマスクなどで呼吸再開
- 気道内に燃え残った気管チューブが遺残していないかを確認する
- 気管支鏡で気道の状態を観察する
また、生体組織の焼灼時に発生する煙霧は人体に有害な窒素酸化物を含むため、患者と手術スタッフが手術中に発生する煙を吸入しないように、排煙システムなどで屋外に強制的に廃棄することが望ましいとされています 。