免疫チェックポイント阻害剤の保険適用と費用
免疫チェックポイント阻害剤の承認状況と適応範囲
免疫チェックポイント阻害剤の保険適用は、2014年のオプジーボ(ニボルマブ)の悪性黒色腫に対する承認を皮切りに、大幅に拡大してきました。現在、日本では6種類の免疫チェックポイント阻害剤が承認されており、適応がんの種類も多岐にわたります。
PD-1阻害剤では、ニボルマブ(オプジーボ)、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)が代表的で、2015年末にニボルマバが初めて承認され、その後2016年にペムブロリズマブ、2017年にアテゾリズマブ、デュルバルマブ、2020年にイピリムマブが承認されています 。これらの薬剤は、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、頭頸部がん、胃がん、悪性胸膜中皮腫などで保険適用となっています。
特に肺がん治療においては、非小細胞肺がんのⅣ期(ステージⅣ)、非小細胞肺がんの再発・転移の治療に使用され、さらにPD-L1阻害剤は手術前後の治療やⅢ期非小細胞肺がんの治療にも適用されています。約6割のがん治療レジメンに免疫チェックポイント阻害薬が含まれるようになっており、その重要性は高まり続けています。
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免疫チェックポイント阻害剤の薬価と実際の費用負担
免疫チェックポイント阻害剤の薬価は非常に高額で、患者や医療従事者にとって重要な関心事となっています。2023年時点でオプジーボ(ニボルマブ)の薬価は100mgあたり約15万円で設定されており、月480mg投与の場合、薬剤費だけで約72万円となります。
最新の薬価表によると、オプジーボ点滴静注100mgは131,811円、240mgは311,444円となっています。キイトルーダ点滴静注100mgは214,498円、テセントリク点滴静注840mgは445,699円と、いずれも高額な設定となっています。
年間の薬剤費は患者の体重や投与量により異なりますが、一般的に1,000万円を超えることも珍しくありません。体重50kgの患者にオプジーボを3mg/kg(2週毎)で投与した場合、年間約1,441万円の薬剤費が必要となる計算です。これらの費用には診察料、検査料、注射手技料、入院費などは含まれておらず、実際の治療費はさらに高額になります。
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高額療養費制度による費用負担軽減の仕組み
免疫チェックポイント阻害剤の高額な薬剤費に対して、日本の公的医療保険制度では高額療養費制度が重要な役割を果たしています。この制度により、患者の実際の自己負担額は大幅に軽減されます。
高額療養費制度では、同一月内の医療費自己負担額が一定の上限を超えた場合、超過分が後日払い戻されます。自己負担限度額は年収や年齢によって決まり、例えば年収600万円の60歳患者の場合、月額自己負担限度額は約8万円となります。仮に月の治療費が100万円(自己負担30万円)でも、実際の負担は8万円程度に抑えられます。
さらに負担軽減の仕組みとして、世帯合算、多数回該当、限度額適用認定証の3つの制度があります。多数回該当では、過去1年以内に3回以上高額療養費を受給している場合、4回目以降の自己負担上限額がさらに下がります。限度額適用認定証を事前に取得し医療機関に提示すれば、窓口での一時的な高額負担を避けることができます。
多くの患者は年間50~100万円程度の負担で治療を受けることが可能になっています。ただし、公的医療保険の対象外となる治療費については高額療養費制度の適用外となるため注意が必要です。
免疫チェックポイント阻害剤治療における薬価改定の影響
免疫チェックポイント阻害剤の薬価は、その高額さから社会問題となり、複数回の薬価改定が実施されています。オプジーボについては、2017年2月に翌年の薬価改定を待たずに「緊急薬価改定」が行われ、薬価が半額に引き下げられました。その後も2018年4月、2018年11月、2019年8月、2021年8月と継続的に薬価改定が実施されています。
参考)「オプジーボ」承認から10年…免疫チェックポイント阻害薬、一…
当初、オプジーボの薬価は100mgあたり約36万5千円に設定されており、年間約1,900万円の薬剤費が必要でした。2017年2月の改定により1日薬価が約3万9千円となり、年間費用も大幅に削減されています。近年では薬価改定により以前と比較して薬剤費が下がっている薬剤もありますが、依然として高額であることに変わりはありません。
薬価改定は医療保険財政への影響を考慮して実施されており、患者負担の軽減と医療保険制度の持続可能性の両立を図る重要な政策となっています。医療従事者は最新の薬価情報を把握し、患者への適切な情報提供を行うことが求められます。体重が50kg以上の患者では、キイトルーダの方がオプジーボより安価になるケースもあり、薬剤選択の際の考慮要素の一つとなっています。
参考)https://city-hosp.naka.hiroshima.jp/dl/k_net/cancer_workshop_20180118_1.pdf
免疫チェックポイント阻害剤治療費に関する患者支援体制
免疫チェックポイント阻害剤の高額な治療費に対して、医療機関では包括的な患者支援体制が整備されています。全国のがん診療連携拠点病院に設置されている「がん相談支援センター」では、専門家が治療費に関する相談に応じています。高額療養費制度の手続き方法や必要書類について、詳細な説明とサポートを受けることができます。
医療ソーシャルワーカーは、患者の経済状況に応じた個別の支援計画を立案し、利用可能な制度の活用を支援しています。限度額適用認定証の取得手続きや、医療費控除の対象となる費用の整理など、具体的な手続き支援も行っています。
免疫チェックポイント阻害剤による治療は医師の診断により必要と判断された場合、保険診療・自由診療にかかわらず医療費控除の対象となります。年間の医療費が一定額を超えた場合、所得税の軽減を受けることができ、患者の経済的負担をさらに軽減する効果があります。
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治療を受ける医療機関では、治療開始前に詳細な費用説明を行い、患者が十分に理解した上で治療を開始できるよう配慮しています。薬剤師による薬剤費の説明や、看護師による制度利用のサポートなど、多職種連携による包括的な支援体制が構築されています。患者は治療の効果と費用の両面を十分に検討し、安心して治療に臨むことができる環境が整備されています。