MAO阻害剤一覧と分類体系
モノアミン酸化酵素(MAO)阻害剤は、モノアミン酸化酵素の働きを阻害することで、脳内のドーパミンやセロトニン、ノルアドレナリンの分解を阻害する薬剤群です 。医療従事者にとって重要なのは、MAO阻害剤が大きく2つのサブタイプ(MAO-AとMAO-B)に対する選択性によって分類され、それぞれ異なる臨床適応を持つことです 。
現在の分類体系では、MAO-B阻害薬が主にパーキンソン病治療に、MAO-A阻害薬が抗うつ薬として使用されています 。これらの薬剤は、可逆的阻害薬と非可逆的阻害薬にさらに分類され、副作用プロファイルや薬物相互作用の特性が大きく異なります 。
MAO-B阻害薬セレギリンの治療的位置づけ
セレギリンは日本で最初に承認されたMAO-B阻害薬であり、商品名エフピーODとして知られています 。現在では先発品のエフピーOD錠2.5mgが260.9円、後発品のセレギリン塩酸塩錠2.5mgが135円で薬価収載されています 。
セレギリンは非可逆的MAO-B阻害薬として分類され、パーキンソン病の早期治療から進行期まで幅広く使用されています 。興味深いことに、セレギリンは当初抗うつ薬「デプレニル」として日本で販売されていた歴史があります 。
参考)https://www.jmedj.co.jp/files/item/books%20PDF/978-4-7849-4711-9.pdf
臨床現場では、セレギリンの選択性は用量依存的であり、1日10mgを超えると選択性が失われるため、日本では保険適応内の10mg以下での使用が推奨されています 。また、肝機能や腎機能の低下した患者では血中濃度が上昇するため、慎重な投与が必要です 。
MAO-B阻害薬ラサギリンの革新的特徴
ラサギリンは2018年3月に日本で承認された比較的新しいMAO-B阻害薬で、商品名アジレクトとして販売されています 。薬価はアジレクト錠1mgが945円、0.5mgが509.6円と設定されています 。
ラサギリンの最大の特徴は、アンフェタミン骨格を持たないことによる副作用の軽減と、1日1回投与による利便性です 。欧米では広く使用されており、日本でも劇薬指定を受けながらも安全性の高い薬剤として位置づけられています 。
参考)パーキンソン病の嚥下障害とMAO-B阻害薬(2020/12)…
MAO-B阻害薬の詳細な作用機序と臨床使用に関する専門的解説
MAO-B阻害薬サフィナミドの最新動向
サフィナミドは可逆的MAO-B阻害薬として注目される薬剤で、商品名エクフィナ錠50mgとして867.9円で薬価収載されています 。2018年10月に承認申請が行われ、欧米では既に医薬品として使用されています 。
サフィナミドの特徴は、可逆的阻害メカニズムにより、血中濃度の低下と共に阻害作用も減弱することです 。これにより、非可逆的阻害薬と比較して、より柔軟な投与調整が可能となります。
パーキンソン病の運動症状の日内変動に対して、COMT阻害薬との使い分けが重要な臨床課題となっており、サフィナミドはその選択肢を広げる薬剤として期待されています 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/3881b7b15125304931db1584615c53350a247679
MAO-A阻害薬モクロベミドの特殊な位置づけ
モクロベミドは可逆的MAO-A阻害薬(RIMA)の代表的薬剤で、欧州でオーロリックス、カナダでマネリックスの商品名で販売されています 。日本では2006年頃までに開発が中止されていますが、世界的には重要な抗うつ薬の選択肢です 。
モクロベミドの最大の利点は、従来のMAOIの問題であったチーズ効果による血圧上昇作用が低く、通常の食事制限が不要なことです 。しかし、チラミンが大量に含まれる特殊なチーズなどでは注意が必要です 。
社交不安障害に対してSSRIなどが無効な場合の選択肢として、RIMAは重要な治療選択肢となっており、特定のうつ病サブタイプに対する有効性も報告されています 。
MAO阻害剤の歴史的薬剤と市場撤退の教訓
初期のMAO阻害剤であるイプロニアジドは、1950年代に抗結核薬として使用されていた際に抗うつ効果が発見され、1958年に抗うつ薬として市販されました 。しかし、肝炎や腎臓障害の重篤な副作用により、わずか3年で市場から撤退しました 。
イスコチンやネオイスコチンなどの抗結核薬も現在は限定的な使用にとどまっており、イスコチン原末が12.5円/g、イスコチン錠100mgが10.1円、ネオイスコチン原末が13円/g、ネオイスコチン錠100mgが6円で薬価収載されています 。
サフラジンは以前にサフラの商品名で販売されていた非選択的MAOIですが、「チーズ効果」による高血圧発作や脳出血のリスクから使用が制限されました 。これらの歴史的教訓から、現在のMAO阻害剤は選択性と可逆性を重視した開発が行われています。