耐糖能異常とHbA1cとレセプト
耐糖能異常の診断基準における境界型の位置づけ
耐糖能異常(Impaired Glucose Tolerance: IGT)は、糖尿病の前段階を示す境界型の状態として定義されており、血糖値が正常範囲を超えているものの糖尿病と診断するほど高くない重要な段階です 。日本における診断基準では、空腹時血糖値が100~125mg/dLの範囲にあり、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の2時間値が140~199mg/dLの場合に境界型と判定されます 。
参考)耐糖能異常|京都府宇治市六地蔵 ほそだ内科クリニック|内科・…
この診断基準において、🔍 HbA1cの値は5.6-6.5%(NGSP値)程度の範囲に位置することが多く、糖尿病予備軍とも呼ばれる重要な判定指標となっています 。WHO(世界保健機関)では境界型をさらに空腹時血糖値が高いタイプ(IFG)と糖負荷試験の2時間血糖値が高いタイプ(IGT)に細分化して4段階評価を行っています 。
参考)HbA1c値が低いだけでは安心できない ~名古屋市の「糖尿病…
境界型の特徴として、食後血糖は上昇するものの空腹時は正常値を示すことがあり、この段階では糖尿病特有の合併症は起こりにくいとされています 。しかし重要な点として、動脈硬化の進行は既に始まっており、適切な生活習慣改善により正常型への回復が可能な重要な時期でもあります 。
耐糖能異常に対するHbA1c検査の医学的意義
HbA1c検査は過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映する検査として、当日の食事や運動などの短期間の血糖値変動の影響を受けない利点があります 。しかし耐糖能異常のスクリーニングにおいては、HbA1c単独による糖尿病診断の検出感度が56.6%にとどまり、4割以上の糖尿病型を見逃す可能性があることが指摘されています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/53/8/53_8_601/_pdf/-char/ja
📊 国際専門家委員会勧告では糖尿病診断にはHbA1c 6.5%(NGSP値)をカットオフ値として推奨していますが、日本の研究ではOGTT正常型の98.5%がHbA1c値6.1%未満であり、耐糖能正常者を糖尿病型と誤認することは少ないとされています 。
耐糖能異常が疑われる場合、より正確な診断のためには経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の実施が重要とされており、血糖値やHbA1c値のみでは糖尿病を見逃す可能性があることが近年の研究で示されています 。現在では簡便かつ効率的な糖尿病スクリーニング法として、HbA1cと空腹時血糖や1,5-AGなどの検査を組み合わせることが検討されています 。
参考)HbA1cや空腹時血糖は糖尿病のスクリーニングには不十分
レセプト請求における耐糖能異常病名の取り扱い
耐糖能異常の病名に対するHbA1c検査のレセプト請求では、糖尿病の疑い病名または糖尿病確定病名の併記が審査において重要な要素となります 。社会保険診療報酬支払基金の審査情報提供事例では、原則として「糖尿病疑い」の初診月にHbA1c検査が認められ、血糖値やHbA1cの数値により強く糖尿病が疑われる場合の検査は医学的必要性があるとされています 。
📄 レセプト審査における注意点として、疑い病名が認められるのは初診月のみとされ、疑い病名が古い月のレセプトでは査定される可能性があります 。ただし疑い病名が付いてから一度もHbA1c検査を行っていない症例では比較的算定が認められる傾向があります 。
糖尿病疑いに対するHbA1c検査の算定間隔については、原則として3ヶ月に1回が妥当な間隔とされており 、経口血糖降下薬を開始して6月以内の患者などについては同月内に2度の算定が可能となる特例があります 。耐糖能異常の病名単独でのHbA1c請求では査定リスクが高いため、適切な病名の併記と医学的必要性の明確化が重要です 。
HbA1c検査における査定事例と対策
HbA1c検査の査定事例として最も多いのは、糖尿病疑い病名での長期間にわたる検査実施です 。縦覧点検により必要性を求める返戻や査定が行われる傾向があり、特に疑い病名で何ヶ月にもわたりHbA1cを測定している場合には注意が必要です 。
⚠️ 査定を避けるためには、糖尿病の診断フローチャートに沿った適切な検査実施が重要であり、疑い病名から確定診断への移行タイミングを適切に判断することが求められます 。また耐糖能異常の病名に対しては、糖尿病疑い病名の併記により医学的根拠を明確にすることが査定回避の有効な手段となります 。
参考)https://secure.tais.co.jp/products/01_mcpro/pdf/MC-NEWS2013-1.2.pdf
レセプト請求において、HbA1c検査が減点された場合の再審査請求では、検査実施の医学的必要性と適切な検査間隔を示すことが重要です 。糖尿病確定患者においても、耐糖能異常やインスリン異常症が新たに疑われる場合には、HbA1c検査の算定が可能とされています 。
耐糖能異常における独自の検査マネジメント戦略
耐糖能異常の管理において、従来の定期検査とは異なる独自のアプローチとして、📱 デジタルヘルス技術を活用した連続血糖モニタリング(CGM)の応用が注目されています。CGMデータからHbA1cを予測する新しい個別化糖化指標(cHbA1c)の開発により、患者個別の赤血球寿命やブドウ糖取り込み率を考慮した、より精密な血糖管理が可能になってきています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8481730/
この新しいアプローチでは、従来の3ヶ月間隔のHbA1c測定に加えて、リアルタイムの血糖変動パターンから耐糖能の変化を早期に検出することが可能となります。特に耐糖能異常の段階では、食後血糖スパイクの頻度と程度が重要な予後因子となるため、従来の空腹時血糖やHbA1cでは捉えきれない血糖変動の詳細な評価が治療戦略の最適化に寄与します。
💡 臨床実践においては、耐糖能異常患者に対するpoint-of-care HbA1c(POC-cHbA1c)検査の導入により、外来診察時に即座に結果を得ることで、患者の治療モチベーション向上と早期介入の実現が期待されています 。このような革新的な検査アプローチは、従来のレセプト算定基準にはない新しい医療価値を提供し、将来的な診療報酬改定における新規項目設定の基盤となる可能性があります。